《米大統領選》トランプ氏が巧みに利用した、集団になれば過激な言動をしてしまう「集団極性化」

ドナルド・トランプの大統領選勝利を伝える速報と、それを見つめる支持者たち。フロリダ州ウエストパームビーチ(EPA=時事)

 期日前投票ですでに放火や暴力事件が複数発生するなど、2021年の議会襲撃事件が暗い影を落としている米大統領選挙。投票所を有刺鉄線や分厚い鉄柵で囲み、金属探知機を設置し武装した警備員を配置するなど厳戒態勢が続いており、何がきっかけで集団が暴徒化するが分からないと危惧されている。臨床心理士の岡村美奈さんが、大統領選に勝利したドナルド・トランプ前大統領と「集団極性化」について考察する。

【写真】ホワイトハウスになだれ込むトランプ支援者たち

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 ギリギリまで接戦といわれたアメリカ大統領選がついに決着。消去法でトランプに投票した人だけでなく、やはり隠れトランプもいたのだろう。もしトラが現実のものとなった。演説中に銃撃されて負傷し、奇跡の1枚と呼ばれる写真とともに生かされたと語ったトランプ氏が復活。だが返り咲きを狙ったトランプ氏が候補者になったことで、選挙戦はこれまでにないほど誹謗中傷が飛び交った。

 日本のメディアがそこを強調して報じたためもあるが、大統領選挙はますます泥試合と化し、政策論争よりも非難の応酬がメインになってしまった印象が強かった。どこまでが嘘かわからない中傷でも平気で口にするトランプ氏にとって、カマラ・ハリス副大統領はバイデン大統領よりも、相手としては面倒だが、攻撃しやすかったのではないだろうか。女性で自分よりも若く、移民二世、業績の少なさは「The Achievements of Kamala Harris(カマラ・ハリスの功績)」という本で目次以外は白紙と例えられた候補者だったからだ。

 ハリス氏も攻撃の手を緩めず、トランプ氏が大統領になれば米国が危ないと警告。トランプ氏を大統領にしないために投票するよう呼び掛けた。それに呼応するように、トランプ支持者たちは発言をエスカレートさせた。この大統領選で、メディアやネットを通して見えたのは、強く支配的なリーダーの元に集まった熱狂的な人々が作る集団のエネルギーの強さだ。その強さは前回の大統領選をしのぐ勢いだった気がする。支持者らにとっては、トランプ氏の返り咲きを4年間待っていたのだ。

 人は集団になるだけで意見や決定が変質するという「集団思考」の傾向があるといわれる。例えそれが不合理であっても、個人よりも集団のコンセンサスに合わせよう、合わせたいと強く思うようになり、集団の意見が優先されるようになる。そこに強烈な個性を持つリーダーがいて集団を先導すれば、人々は疑問を持つことなくそれに追従しようとする。外部の脅威は彼らにとって否定すべきストレスになり、排除しようと結束を固める。二つに分かれた支持者たちの間で、分断が深くなったのも無理はない。

 集団になることで、もともと個人がもっていた意見よりも極端な方向に変化しやすくなっていく「集団極性化」という現象が起こりやすくなる。支持者たちはトランプ氏や他の支持者たちの発言に煽られ同調し、波に乗り遅れないようにと、自身の言動を候補者の望む方向に変化させていく。前回の大統領選では、一部のトランプ支持者たちが暴徒化した。1人なら行動しなくても、集団になれば過激な言動をしてしまうのもこの影響だろう。

 有権者のそのような心理的傾向や心理現象を利用し、支持を集めていくプロセスが目立ったトランプ氏の選挙戦術。トランプ氏との討論会で有利に立ったハリス氏も、彼が大統領になれば国は危うくなると煽り、自分が大統領になれば安全だと主張。一時はより多くの支持を集めたが、それではトランプ氏と同じ穴のムジナ。一部の支持者からの支持を失いつつあると気が付いたのか、終盤にはトランプ批判を封印。一致団結するよう呼びかける戦法に切り替えたが、トランプ氏の復活を待ち望んだ支持者集団の熱量には勝てなかった。

 パワハラ、モラハラ、セクハラ発言と何でもありの大統領選が終わった。品位や品格などかなぐり捨てて勝利したトランプ氏によって、米国はこれからの4年間どう変わっていくのだろう。

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