激戦州の「地上戦」、本格化=郵便・期日前積み増し狙う―南部ノースカロライナ・米大統領選

11月の米大統領選の激戦州の一つ、南部ノースカロライナ州は9月下旬ごろから、郵便による期日前投票を受け付ける。2008年以降、4回行われた本選では、同州における候補者間の票差は1万数千から十数万だった。ハリス副大統領(民主)、トランプ前大統領(共和)の陣営は一票でも積み増そうと、戸別訪問などの「地上戦」を本格化させている。
◇「約束」のカード
州の北東部に位置するフランクリン郡の町ルイスバーグ(人口約3000人)。黒人女性のミルトレイン・ヌエルさん(65)は9月の残暑が続く中、民主党系の有権者宅のドアをノックして回っていた。
「カマラ(・ハリス)を必ずホワイトハウスに送り込みましょう」。まずは、相手が今回の大統領選に望むことにじっくり耳を傾ける。そしてこの決めぜりふを言って、おもむろに「私は11月5日に投票することを約束します」と書かれたポストカードを手渡すのだ。
裏側には「皆のための経済」「安全で手が届く持ち家」「女性の選択する権利」などといった政策が記されており、有権者は関心事項に丸をして、表側に住所と名前を書く。ヌエルさんはそのカードに切手を貼って投票日前に本人へ送り返し、「約束」を思い出させるという。
◇「よく知らない」
カードを用いて得票率を上げる手法は、オバマ元大統領の陣営が導入した。オバマ氏は当時、ノースカロライナ州でも旋風を巻き起こしたが、ヌエルさんは「カマラへの『熱狂』は、まだそれほどではない」と感じている。「人々は日常生活の問題を優先する。それに彼女のことをよく知らない」という見立てだ。
かくいうヌエルさんも食費を高齢者向け公的医療保険(メディケア)のサービスの一つで賄っている。この日は昼食を半分だけ食べ、残りは夜に回した。「トランプはメディケアを『削減』すると言っている。私のような貧しい人間にはカマラしかいないの」
◇「連れて行きます」
ルイスバーグから車で約15分。人口約2450人の町フランクリントンで夕方に開催される小さな週末マーケットでは、共和党のボランティア、スコット・イーキーさん(76)が、テントを訪れる人に郵便投票を含む期日前投票を勧めていた。「投票場所が分からなかったら、私が連れて行きますから」とまで言う。
トランプ氏は20年大統領選で、郵便投票を「不正につながる」と否定していた。当時はコロナ禍で、期日前に投票した有権者は全米で70%強。バイデン大統領は得票の80%強が期日前票だった。
ノースカロライナ州共和党の元幹部で、保守系団体代表のダラス・ウッドハウス氏(51)は「郵便票などが増えれば、勝利の可能性を高める」と言い切る。州では誰がいつ投票したのかが公表されるため「資金や時間、人などの資源を有効に使える」からだ。共和党は戸別訪問で、期日前投票を申請する公式サイトのQRコードを載せた用紙を配っている。
世論調査によると、ノースカロライナ州のハリス、トランプ両氏の支持率は拮抗(きっこう)している。全米を映す鏡のように民主党の地盤は都市部、共和党が町村部と明確に分かれている。価値観の対立が非妥協的になりつつあるのも例に漏れない。
ウッドハウス氏は「そうは言っても、われわれは争っているから選挙をする。団結のためではない。それをずっと繰り返しているだけだよ」と話した。



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