「マクドナルドが大好き」「専業主婦は恥ずかしい」…あなたの知らないフランス人

美食の国として有名なフランスでしたが、今回のパリオリンピックでは選手村の食事にさまざま意見が出ているようです。これまで日本人が思い浮かべていたフランスのイメージとは違った側面について、SNSでは「@May_Roma」(めいろま)として活動し、元国連職員で海外事情に明るい谷本真由美氏が紹介します。

※本記事は、谷本真由美:著『世界のニュースを日本人は何も知らない2』『世界のニュースを日本人は何も知らない3』(ワニブックスPLUS新書:刊)より一部を抜粋編集したものです。

ヨーロッパでマクドナルドが一番多いフランス

フランスといえば美食の国として有名です。私自身、欧州でもっとも食べものが充実しているのはフランスだと思います。スーパーやコンビニで売られているものも非常においしく、どの街に行っても食事で失敗することはほとんどありません。

ちょっと古い町や村に行けば、昔ながらのお惣菜屋さんや肉屋さん、八百屋さんなどで良質の食べものが売られています。パン屋さんで販売されているバゲットは表面がカリカリ、中はモチモチ。日本やイギリス、アメリカで食べるものとはまったく質が違います。

スーパーで売られているチーズは、日本では3倍から10倍の値段がするような物ばかりですが、フランスでは非常に安く、ひとつ130円〜300円ぐらいでおいしいものが買えます。フランスは欧州一の農業国なので、乳製品や農産物がたいへん豊かで品質もすごく良いのです。

フランス政府だけではなく、EUも農業を保護する政策を実施していて、たくさんの補助金を出していることも品質の良さと関係しています。食べものに関する規制が非常に厳しいため、日本やアメリカのように添加物をたくさん使うこともありません。

フランス人の食に対する興味や探究心は凄まじく、街ではタイ料理や日本料理なども気軽に食べられます。おもしろいのは、日本料理にもフランス風のアレンジがされていることで、盛り付けがすこぶる美しかったり、素材の組み合わせが日本料理ではありえないものだったりと、さすがフランス人と驚かされます。

そんなふうにフランスは自他ともに認める美食の国ですが、じつはファストフードや冷凍食品もフランス人に大人気です。

2018年に食品コンサルティング会社の「Gira Conseil」が発表した報告書によれば、2017年にフランス人が消費したハンバーガーの数は14億6000万食にも及び、対2016年比で10%も伸びています。

マクドナルドにとってフランスは欧州一の市場で、2019年の店舗数は1485店に達し、イギリスの1249店を超えます。店舗数では日本の2972(※2024年7月)にはおよびませんが、フランスの人口は6800万人(※2022年)で日本のおよそ半分ですから、人口比にすると日本と同程度です。

ファストフードの人気はフランスの大都市全般に広がっていますが、美食とワインで知られる都市、ボルドーも例外ではありません。健康に関する情報を発信するWEBサイトでも、フランスのファストフードを毎年調査しており、その報告を見ると、フランスでもっともファストフード店が多いのは、なんとボルドーでした。

1999年、フランスではジャンクフードに反対する農民が、建設途中のマクドナルドを襲撃し、有罪判決を受けるという事件が発生しました。それほどファストフードに対する抵抗感が大きかったのに、ずいぶん変わってしまったものです。

フランス人にファストフードが人気な理由

▲フランス人にファストフードが人気な理由 イメージ:wavebreakmedia / PIXTA

それには、フランス人のライフスタイルの変化に関係しています。かつてフランス人は平均して2時間程度の昼食時間をとっていましたが、現在はたった31分です。

さらにフランス人は、平均して一人あたり9ユーロ(約1400円 ※2024年8月)をファストフードで使います。日本の基準だとずいぶん高額な印象ですが、ちょっと“意識高い系”のファストフードだと、12〜17ユーロ(約1900〜2700円)、ちゃんとしたレストランだと20ユーロ(約3200円)程度は出さなければ食事ができません。これに飲み物をつければ、すぐに30ユーロ(約4800円)を超えてしまいます。

超格差社会のフランスでは、月給が手取り12万円程度という人もめずらしくありませんし、正社員の職に就くのは大変です。そのため、ファストフードは庶民でもなんとか手が届くくらいの、手軽でリーズナブルな食事なのです。

フランスではファストフードを家に配達してくれる「Deliveroo」や「Uber Eats」のサービスも人気です。フランス人は、かつてに比べて仕事があまりにも忙しく、食品価格も上がっており、経済格差も広がっているので、せっせと働かなければならないのです。

専業主婦でいることが恥ずかしいという感覚

フランスでは、専業主婦に対してかなりネガティブな印象があります。

日本では「ヨーロッパは日本よりも進んでいるので、共働きの夫婦が多く、働く女性の権利が保障されている」と言い張る人がいます。これには逆の側面があります。

フランスをはじめとした欧州西側では、1960年代に女性解放運動が起こった影響もあってか、女性も男性と同じように働くべきだという同調圧力が強いのです。

もちろん、経済的な理由で共働きでないと、生活が成り立たない家庭も少なくない。そうではなく、男性側がかなり稼ぐ家であっても、女性は「専業主婦です」とは言いにくい雰囲気があります。

専業主婦であっても「私はこのような非営利団体で活発に動いています」とか、何か社会貢献活動をしているというようなことを主張しないと、「何もやっていない無能な人」という烙印を押されてしまいます。

▲専業主婦でいることが恥ずかしいという感覚 イメージ:JackF / PIXTA

特にフランスの場合は、意外にも女性が料理や裁縫や掃除などに熱心なことを強調するのは、むしろネガティブなイメージでとらえられることが多い。そんなことには時間をかけないで、社会参加型の活動をするべきだという同調圧力があるのです。

だから、富裕層であっても家事や育児などは積極的に外注し、地域の非営利団体やチャリティー団体の活動などに熱心な人が多いのです。日本人女性が現地の男性と結婚して、経済的にあまり困っていないので専業主婦をやっていると、周囲の人々から、なぜ働かないのかと、しつこく聞かれることになるでしょう。

健康にもまったく問題がないのに「何もしない人」とみられ、親戚筋や近所の人から怪訝な視線を注がれるのも深刻な問題です。しかも外国人には、地元の社会へ積極的に参加して貢献するべきだという考え方があります。

専業主婦で家に閉じこもっているのは、低賃金の移民や現地に馴染もうとしない閉鎖的な外国人というイメージがあるからです。よって、日本人でフランス人と結婚し、ブログで毎日のように料理や掃除の記事をアップしているような人は、現地の感覚だと単なる無職で社会貢献をしない無能な人となる。

こういった傾向はフランスだけではなく、イギリスでも似たような感覚です。さらに北上した北欧諸国では、もっと同調圧力が強くなります。

北欧諸国をはじめ欧州北部は税金が高いので、働ける人は社会貢献しつつ労働するべきだとの意識が強いです。体調にもまったく問題なく、それなりの教育を受けている女性が家にいて、一日中、料理をしたりテレビを見たりして過ごしているのが許されない。日本に比べると女性のライフスタイルの選択に柔軟性がないといえるでしょう。

ジャンルで探す