プーチンが何を考えているのか? ロシア・ウクライナ戦争の行方

ウクライナは今もロシア軍によって侵攻され、ミサイル攻撃を受けている。9月22日にはプーチン大統領が、核戦力の使用も示唆するような発言をしました。最終的に、この戦いはどんな結末に落ち着くのか。防衛問題研究家の桜林美佐氏の司会のもと、小川清史元陸将、伊藤俊幸元海将、小野田治元空将といった軍事のプロフェッショナルが、これから見るべき「エンドステート」について解説します。

※本記事は、インターネット番組「チャンネルくらら」での鼎談を書籍化した『陸・海・空 軍人によるウクライナ侵攻分析-日本の未来のために必要なこと-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

ロシアはキエフ攻略を諦めたわけではない

小川(陸) 最近では「宇サ電」〔宇宙戦、サイバー戦、電磁波戦の頭文字を取った語。安全保障における「新領域」の分野と言われる〕が新たな戦争の領域として注目されるなか、ロシアは今回のウクライナ侵攻で、第二次世界大戦以降ほぼ初となる、ヨーロッパでの本格的な地上戦を展開しました。

キエフ正面ではゲラシモフ・ドクトリンに忠実な戦いをしようとしたけれど、本来の部隊運用とは違う使い方をして、しかも海空軍の支援を得られない状態で空挺部隊や地上部隊を作戦に投入した結果、損害を大きくしてしまった。

一方、ドネツク・ルガンスク・クリミア正面は、CAS(近接航空支援)もある程度使いながら、従来型の消耗戦をやってきた。だから、キエフ正面と、ドネツク・ルガンスク・クリミア正面とでは、目的や種類の全く違う戦闘が展開されていたと言えます。

キエフへの作戦に関しては、ロシア軍としても最初から地域を占領・確保する気がなかったので、地元部隊ではない東部軍管区の部隊を投入し、そしてすぐに撤退していきました。しかも、ロシア側でなくベラルーシから入っていますからね。長期にわたって地域を占領確保できるわけがない。だから、この奇妙な認知領域の戦いを、空挺部隊と地上軍の部隊を使って作戦を行ったのだと私はみています。

伊藤(海) ロシアは、戦争が3日で終わると本気で考えていたんでしょうね。ゼレンスキーをさっさと捕まえるつもりだったんでしょう?

小川(陸) そうですね。直接捕まえるか、包囲して精神的に圧迫して意志を挫(くじ)こうとしていたのだと思います。そして、結果的にはゼレンスキー大統領に“身の危険”を感じさせて、NATO加入を断念させることには成功しました。その点ではロシアの思惑通りです。

▲NATO加盟国 出典:Patrick(ウィキメディア・コモンズ)

戦争では、まず達成したい「目的」があります。そのうえで「目標」が決まります。

なので、目標は状況次第で変換されます。今回の場合だと「ウクライナをNATOに入れさせない」という目的さえ達成すれば、「キエフ」という目標にこだわり続ける必要はないわけです。むしろ目標を変換することで、それまでキエフに向けていた戦力を、より重要な作戦に回すことができます。だからロシアは、一般的に言われているように「キエフを諦めて撤退した」わけではないと私は考えています。

▲キエフの祖国記念碑 写真:IngusK / PIXTA

戦争の「目的」と「エンドステート」の違い

桜林 つまりは「目的」なんですよね。ロシア・ウクライナ両軍、あるいは西側諸国をも含めたエンドステート(作戦によって最終的に実現されるべき状態)がどのようなものになるのかというところが、肝になる気がしています。小川さんは、この戦争におけるロシアの目的と停戦条件はどこにあるとお考えでしょうか。

小川(陸) 「エンドステート」という言葉は、もしかしたら一般の方には意味が伝わりにくいかもしれませんね。陸軍では頻繁に使うワードなのですが、海・空軍ではそこまで使わないようです。

伊藤(海) 僕ら海自の場合だと「国家目的」ですね。国家がやりたいことに対して、同じ目的・目標・手段をもって戦闘を行う。司令官レベルが請け負うのは、目標以下を定め具体的作戦、つまり手段を決め実行する。

でも、そのためには「まず、そもそも我が国はどうしたいんだ」という目的を明らかにする。これを使命の分析といいますが、我々司令官レベルが、首相の目的を分析する。日本企業の人たちはあまりやらないようですが、部下が上司の意図を探りにいくんですね。

小川(陸) 「エンドステート」とか、あるいはそれとよく似た言葉に「ビジョン」というものがありますが、これらと「目的」とは少し違うと私は思っています。

エンドステートというのは、「結果も含めた状態」を表しています。一方、「目的」というのは、自分たちから見て、達成したか否かの基準が明瞭である必要があります。「目標」は目的をさらに具体化し、達成したか否かをより明確に判定できるよう、数字・地域・地形・倒すべき敵などを具体的に設定します。

エンドステートの結果を含めた状態とは、どういう意味かというと、たとえば私が「伊藤さんから信頼されたい」というゴールを掲げたとします。

このゴールは「エンドステート」として設定できますが、「目的」にはなりません。「伊藤さんから信頼されたかどうか」は、私自身がどんなに頑張ったところで、自分ではわからないからです。判断するのは伊藤さんですからね。

伊藤さんから信頼されるために、「常にまともなことを言う」「入念な準備をする」など、達成の成否を自分で判定できる「目的」を設定し、さらに具体的な「目標」に変換していくことならできます。しかし、相手の方にゆだねられた思いというのは「結果」であり、自分の側だけでは達成できません。自分が努力した「結果」として、相手が信頼してくれるようになるわけです。

同様に、たとえばロシアが「ウクライナとうまく停戦を結び、誰からも恨まれない」という最終状態を理想形として目指していたとしても、それは自分たちだけでは達成できません。ロシアが恨まれるかどうかは、ウクライナ国民や国際社会にゆだねられることであり、「結果」だからです。だから、陸上戦では、その「結果も含めた(最終)状態」を実現させるために、目的や目標を設定していくことになります。

▲ゼレンスキー大統領 写真:パブリックドメイン

プーチン大統領の求める停戦条件を探る必要性

伊藤(海) なるほど。確かに海・空軍は、「敵艦を破壊しろ」「敵機を落とせ」だから目標が明確ですね。でも、戦争の結果として島をひとつ手に入れたとしても、その住民たちが味方になるか、ならないかでエンドステートは違うわけでしょう。土地を手に入れたところで、住民たちが敵に回ったら全く意味がないかもしれない。そういう事情もあるから、陸上戦ではこの「エンドステート」という用語がよく出てきますよね。

小野田(空) 結局、陸上戦闘が戦争全体を支配してしまう、ということですよね。だから、海軍も空軍もその意味では、戦いの目的なりエンドステートなり、どのように寄与するか、どのように貢献や援助をするかが、軍種の特性になってくるわけですね。

小川(陸) カール・フォン・クラウゼヴィッツ(19世紀プロイセン王国の軍事学者)が言うように、戦争というのは「政治的手段とは異なる手段による政治の継続」であり、その政治目的をどのように達成するかが問われます。国家目的である政戦略と戦術レベルとを結びつけるものが「作戦術」です。

アメリカ陸軍は、ベトナム戦争後に戦略を戦術レベルに落とし込む「作戦術」という軍事作戦の指導技術を編み出しています。アメリカはベトナム戦争において、ほとんど全ての戦術レベルの戦闘では勝利を収めながらも、戦略レベルでは国家目的を失ったかのように迷走していました。この戦術と戦略の両者間をしっかりとつなぐ必要があることから、その作戦術を編み出したわけです。

一方で、ロシアは1920年代から、この作戦術の確立にかなり力を注いできました。近代的な作戦術を最初に発明したのはソ連だと言われています。今、ロシア軍は「戦闘が下手だ」「戦車を失った」などといろいろなことを言われていますが、これらはある意味、戦術レベルや戦闘レベルでの評価です。

それよりも注目すべきは、個々の戦闘がプーチン大統領の求める停戦条件にどのように寄与していくのか、ということです。この観点から判断するには、作戦レベルでの評価をする必要があります。

そのためには、今後のロシア陸軍が行うべき基準となる軍事的エンドステート、すなわち特別軍事作戦の目的であるルガンスクやドネツク、クリミア半島を確保するためには、どこの地形まで奪取すれば安定的に防御して、目的の3地域を確保することができるかを考えます。その基準となる軍事的エンドステートを考えたうえで、現在のロシア地上軍の行動とを比較して評価するべきです。

▲クルガン機械工場で開発された歩兵戦闘車BMP-3 写真:Vitaly V. Kuzmin

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