アフガンからの軍撤退に見え隠れするアメリカの「対中政策」

バイデン大統領がアフガニスタンからのアメリカ軍の全面撤退を発表し、8月に入りタリバンが政権を奪還したことにより、アフガニスタンではかつてのように少数民族や女性の権利を侵害する政策が展開されるのではないかと懸念されている。一方、それでも軍の撤退を進めるアメリカの念頭にあるのは「対中政策」であると、国際政治学者の高橋和夫氏は指摘しています。

国の統治に専念するか海外進出か

この8月に「戻ってきた」タリバン政権は、かつてのような女性や少数民族の権利を踏みにじる抑圧的な支配を再開するのだろうか。

▲タリバン政権では女性に対する抑圧が再開されるのか イメージ:PIXTA

タリバン指導層のなかには、さまざまな考え方があるようだ。どの考え方が主流となるのかを決める大きな要因は“外交”であろう。

タリバンは根本的な選択の問題に直面している。これまでのタリバンは、アフガニスタンに「真のイスラム国家」の建設を目指す運動であった。しかし権力を掌握した結果、同時に政府となった。政府として国民の統治に専念するのか、あるいはイスラム運動として、その活動を海外に広げようとするのか。分岐点に立っている。

アフガニスタンのイスラム教徒は、世界のイスラム教徒の支援を得てムジャッヘディーン(イスラム聖戦士)として、20世紀に超大国・ソ連を敗退させ、21世紀にはターレバンとして、もうひとつの超大国・アメリカの軍隊を撤退に追い込み、その「傀儡(かいらい)政権」を崩壊させた。

つまり両超大国を、ふたつのジハード(聖戦)で打ち破ったわけだ。宗教的な感情の高揚は想像に余りある。そのエネルギーは国内に止まるのか、あるいは外に向かうのか。慎重に見極める必要がある。

アフガニスタン周辺諸国ではテロの懸念

もし海外に打って出ようとするならば、西側先進諸国の反応など気にしなくなるだろう。となれば、国内的には旧タリバン政権と新タリバン政権に大きな差異はなくなるはずだ。

そして、海外へ運動を広めようとする場合には、タリバンは海外での活動には参加せず、アルカーイダがアフガニスタンを拠点に動く、というのが想像されるシナリオである。

その際、最初の対象は周辺諸国だろう。タリバンと同じパシュトゥーン人の居住するパキスタン、イスラム教徒が抑圧されていると認識されているインド支配下のカシミール、中国のウイグル地区、そしてタジキスタンやウズベキスタンなどの中央アジア諸国だ。

また、アフガニスタン発のテロを懸念せねばならないのも、西側諸国よりも周辺諸国になるはずだ。周辺諸国がタリバンに対して、慎重に対応している背景があると考えられる。

▲アフガニスタンの周辺諸国 出典:PIXTA

軍撤退を支持したアメリカ国民

さて、今回のタリバンの軍事的な成功の背景となったのは、バイデン政権のアメリカ軍の撤退という政策であった。バイデンのアフガニスタンを含む中東政策とは、どのような内容なのか。

▲ジョー・バイデン 出典:ウィキメディア・コモンズ

だが、その解説の前にアメリカ国民の反応を見ておきたい。アフガニスタンからの撤退時の混乱によって、バイデンは一時的には強い批判を浴びるだろう。それでもアメリカ国民の多数派は、アフガニスタンでのアメリカの「終わりなき戦争」の終わりを、基本的には支持している。

その証拠として、タリバンの復活後に早くも公表された2つの世論調査の結果を紹介しよう。タリバンのカブール制圧後に相次いで発表されたデータである。ひとつはテレビ局のNBCの世論調査であり、もうひとつは退役軍人の組織の調査だ。どちらのデータも、アメリカ人がアフガニスタンへの介入の継続を望んでいないと示している。

アメリカ国民は、もはやアフガニスタンに興味を抱いていないようだ。外国ではなくアメリカの再建に政府は力を注ぐべきだと考えている。つまり国民は大統領に同意している。見誤ってはならない。

アジア・シフトを実行し始めたバイデン

さて、そのバイデン大統領の中東政策を語るにあたり、大統領自身の言葉を引用しよう。カブール陥落の翌日の今月16日の演説で、バイデンは次のように語っている。

アメリカがアフガニスタンを安定させようとして、何十億ドルもの資金を無限に注ぎ続ければ『真の競争者である中国とロシア』は、大いに喜ぶだろう

バイデンは、オバマ元大統領の副大統領であった時期から、アフガニスタンへの介入に反対していた。この国への関与は、アメリカの国益では無いとの認識である。それでは、何がアメリカの国益なのだろうか。

▲バラク・オバマ 出典:ウィキメディア・コモンズ

それはオバマ時代から言われてきたアジア・シフトである。つまり、軍の軸足の東アジアへの移行で、もちろんその対象は台頭する中国だ。オバマは、アフガニスタンへ一時的に兵力を増派するなどの掛け声の割には、アジアへのシフトを実行しなかった。バイデンは、このアジア・シフトを実行し始めたわけだ。アフガニスタンに続き、イラクからのアメリカ軍の撤退も予定されている。

中東での関与の縮小は、中国への対応の強化の準備である。日本の国益にも合致する決断であろう。つまり、バイデン政権の中東政策は中国政策であると言えるのだ。


<緊急寄稿>政権奪還したタリバンを知るためのアフガン近代略史 | WANI BOOKS NewsCrunch(ニュースクランチ)

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