福島香織×ムカイダイス「時がきたら勝ち負けに関係なく立ち上がります」

ウルムチ出身のウイグル人であるムカイダイス氏と、中国ウオッチャーの福島香織氏による特別対談。今回は、ウイグル問題は習近平政権が終わったら解決するのか? そしてムカイダイス氏の魂の叫びに迫ります。

▲出典:『ウイグル・香港を殺すもの』

習近平政権がなくなったらウイグル問題はどうなる?

福島 今は、ある意味「習近平」という“わかりやすい悪”がいるからこそ、ウイグル問題が世界から注目されている面があります。でも習近平の次のリーダーが、もっとずる賢い人物なら、ウイグルへの懐柔策や欧米へのメディア工作、あるいはAIによる監視などを駆使して、ウイグル人への弾圧をもっと外から見えにくくするかもしれません。習近平がいなくなったあと、ウイグル問題はどうなるとお考えですか?

ムカイダイス 習近平がいなくなっても、本質的なところは何も変わることはないと思います。たしかに、習近平後の中国共産党が、強制収容所を閉鎖したり、習近平ひとりを悪者にして尻尾を切ったりして「中国は良くなった」と世界にアピールしながら、ウイグル問題の鎮静化を図る可能性はあります。

でも、強制収容所がなかった時代から、中国によるウイグル弾圧は存在していました。「強制収容所」という名前がなくても、これまでの歴史で中国は、1937年と1957年、それから2017年の3回にわたり、ウイグル族の文化・言語・経済・社会を担った一流の人々を一斉に処刑しています。ウイグルが独立するための“骨”になるような人々が育ったときに、それを消すのが共産党の歴史的な手法のひとつなんです。だから、習近平政権後に強制収容所がなくなって、捕らえられていたウイグル人たちがみんな出てきて平和になったとしても、数十年後はまた別のかたちで、共産党はウイグルを弾圧してくるかもしれない。あるいは、そのときまでに共産党の思う通りに私たちが洗脳されて、共産党の望むような人間に、“人民”になっているかもしれません。

実際のところどうなるかはわからないですけど、中国共産党の植民地状態にある人々の運命は、ひとりのリーダーが変わったところでそう簡単には変わらないし、中国共産党体制が続く以上、ウイグルはどのみち非常に悲しい運命をたどることになると思います。

福島 今後ウイグル人が独立する可能性やチャンスについては、どうお考えですか?

ムカイダイス 私は独立派です。共産主義は受け入れられないし、これから先、ウイグルが中国共産党と共存していく可能性はもうまったくなくなりました。実際にウイグルが独立できるかどうかはわからないですけど、私に生きていく道がある限り、共産主義、そして中国という国は、いちウイグル人として魂のレベルで受け入れられないですね。もし独立のチャンスが到来して、中国に対して立ち上がるときが来たなら、私も武器が欲しい。戦いたい。

福島 ムカイダイスさんのように、独立のチャンスがあれば中国に対して武器をとって立ち上がりたいと考えているウイグルの人はどれくらいますか? 多数派ですか? それとも少数派なんでしょうか?

ムカイダイス 今は、みんな私と似たような考えだと思います。100人いたら100人。もちろん、状況的にそれを口では言えない人もいますが。

福島 私もムカイダイスさんのおっしゃるように、習近平という人間がいなくなったからといって、ウイグル問題が解決するとは思っていません。ただ習近平政権がここまでひどくウイグル弾圧をするようになったのは、中国共産党のシステム自体がいよいよ末期になってきている証拠なのかなと思います。

改革開放以降、アメリカは中国が民主化することを期待して、中国に対する寛容政策をとってきました。でも、中国共産党の独裁体制は変わらず、むしろ習近平政権ができてからは改革開放路線を逆走して、毛沢東時代・文革時代に戻っているような方向に流れています。

なぜこのような現象が起こっているかというと、中国があのまま改革開放路線を進んで経済を自由化させていったら、共産党体制が崩壊せざるをえない運命にあったからです。その問題については、すでに胡錦濤時代から指摘されていました。だから習近平政権は、共産党体制を崩壊させないために毛沢東時代・文革時代に逆走しているっていう状況なんですね。目の前に崖があるから、仕方がなくハンドルを後ろに切った。

でも、いざハンドルを後ろに切ってみたら、もうどん詰まりで、前にも後ろにも道がない。だから、どちらに進んでも、もう中国共産党政権は崩壊するしかないと私は思います。

もちろん、習近平が長期政権を築いて独裁王国をつくるという、誰も望んでいないシナリオもまだあるんですけど。いずれにせよ、私は中国共産党が崩壊したときにこそ、ウイグルの独立のチャンスがあるのではないかなと考えています。かつて旧ソ連が崩壊したときにも、中央アジアの5カ国がひとまず共和国という形で独立しました。あれが本当の独立と言えるかどうかという議論はさておき、西トルキスタンの5カ国が独立した前例は確かにあるわけです。

だから、中国共産党が崩壊したときには、ウイグルやチベット、香港が独立するチャンスは十分にあるのではないかなと思います。じゃあ、日本はそのときにどういうサポートができるのか。それが今、日本に問われているような気がしますね。

▲習近平 出典:ウィキメディア・コモンズ

“心”をなくした漢民族とは絶対に一緒になれない

ムカイダイス 福島先生が今おっしゃったことと関連するんですが、中国が民主化したとき、つまりウイグル人が漢民族と平等に暮らせるようになったときに、ウイグル人はどうするべきかという議論が私たちの間でかなり前からあります。でも、私にとって中国の民主化は、ウイグルの独立よりもはるか遠くに感じるんです。たとえばウイグルの独立が家の“電灯”くらいの距離だとすると、中国の民主化は“月”ぐらい遠い。

そもそも、私は本当の意味で「民主派」だと思える中国人にお会いしたことがありません。彼らは、確かに中国共産党には反対しているんですけど「祖国の統一のために、ウイグル・チベット・モンゴルは、中国が民主化しても中国と一緒になるべきだ」って言っているんです。でもこれって、おかしいですよね。なんで、この人たちは口では民主化を唱えながら、中華民族の統一のために「ウイグルは独立したらダメ」って言えるんですか。ウイグルの独立は、彼らがどうこう言うべき問題ではなく、私たちウイグル人が議論すべき問題です。それが認められないなら、本当の民主化とは言えないと思います。

漢民族の人たちの言う民主化は「中華民族」という、つくられたひとつの民族の“虚栄心”がベースにあります。これがおかしいんです。

一方で彼らは、300万人ものウイグル人が自分たちの国の政権によって強制収容されていても、同情すらしてくれません。たとえ自分たちと違う民族、違う言語の人々であっても、同じ人間が自分たちのすぐそこでひどい目にあっているなら、人間として無視はできないはずです。彼らはある意味、私たちより哀れだと思います。

この先、たとえ中国が民主化したとしても、こんなふうに“心”をなくした漢民族とは、私たちウイグル人は絶対に一緒にはなれません。一緒になったところで、彼らが他民族である私たちの悲しみ、私たちの喜び、私たちの故郷を大事にするとは到底思えない。だから、中国が本当の意味で「民主化」するということが、私には“月”並みに遠くに感じるんですね。

もし、中国が本当の意味で「民主化」するなら、私たちは独立して幸せに暮らしていくので、漢民族は漢民族で、民主化した中国社会のなかで幸せに暮らしていってほしいと思っています。

いずれにせよ、今後、もしこのウイグルと中国の問題にケジメをつけるときがきたら、勝ち負けに関係なく、私も立ち上がります。絶対に無視することはありません。そういう魂をもち続けていたいです。

▲新疆ウイグル自治区のウルムチ市 出典:PIXTA

※本記事は、福島香織:著『ウイグル・香港を殺すもの - ジェノサイド国家中国』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

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