へたに信じれば本当に命を落とす「北朝鮮の都市伝説」

総務省の統計によると、今年3月末時点での日本全国の公衆電話の台数は11万台あまり。NTTは、今年度内に10万台を切る見ている。普段使う機会はほとんどなくとも、災害時のインフラとして公衆電話の存在は大きく、総務省は一定数以上の設置を義務付けているものの、その基準に従っても数年以内に3万台程度になる見込みだ。

日本より社会の変化が速い韓国では、公衆電話を見かけることはまずない。

今年9月、国会の科学技術情報通信委員会で明らかにされた公衆電話の設置台数は、わずか1万8245台だった。ピークだった1999年には全国に56万台が設置されていたが、今では軍隊、大きな鉄道駅の前など、限られたところでしか見られない。

一方、途上国では公衆電話や固定電話が普及する前に携帯電話が普及する「リープフロッグ現象」が起き、今や携帯電話普及率が100%を下回る国は数えるほどしかない。

その一つが北朝鮮だ。2022年に米国のシンクタンク、スティムソンセンターの推計では、携帯電話の加入者数は700万人で、人口の2割強だ。一方で公衆電話の数は、少し古い数字だが、国際電気通信連合(ITU)の1999年の報告書によると、2720台だった。2つの数字の大きな乖離は、北朝鮮でもリープフロッグ現象が起きたことを示す。

これにより、北朝鮮の人々の電話の使い方にも変化が生じている。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

咸鏡北道保衛局(秘密警察)は今月初旬、咸鏡北道逓信局に、今年7月から9月までの公衆電話の通話の録音を文書にまとめるよう依頼した。

このような公衆電話に対する監視は数年前までは日常的に行われていた。しかし、携帯電話の普及率の上昇に伴い、保衛局は携帯電話の監視に注力するようになった。人々は、盗聴されたくない話があれば、わざわざ公衆電話を利用するようになった。

(参考記事:北朝鮮で見直される固定電話「盗聴されないメリット」

公衆電話を利用するには逓信所(電話局)に行って身分証明書を預け、決められたブースで通話することになっている。すべての通話が盗聴されていることは常識だったはずなのに、いつの間にか、大した根拠もなく「公衆電話の方が安全」と思われるようになった。

保衛局は公衆電話の監視に力を入れていなかっただけで、盗聴をしていなかったわけではないのだ。

「昨年は、公衆電話を使用してスパイ容疑または不純分子として摘発された事例が、咸鏡北道の国境に接する地域だけでも6件あった」(情報筋)

(参考記事:北朝鮮女性を追いつめる「太さ7センチ」の残虐行為

そのほとんどが、中国や韓国に住む人から北朝鮮国内にいる家族への送金を伝達する送金ブローカーだ。彼らは、中国キャリアの携帯電話を使って中国の業者とやりとりしているが、北朝鮮国内の顧客との通話は公衆電話で行っていた。このようなプロでも「公衆電話は安全」という都市伝説を信じてしまっているようだ。

摘発されていかなる処罰を受けたのかは不明だが、スパイ容疑をかけられた場合には死刑もありうる。

逓信所には「0番」という部署がある。班長と職員2人からなり、表向きは逓信所の職員だが、彼らの任務は、公衆電話の通話内容の盗聴と監視で、保衛部や朝鮮労働党の職場内の委員会の情報員(スパイ)も兼務している。

アナログもデジタルも徹底した監視下に置かれる北朝鮮の人々の間からは、「技術が発展して暮らし向きがよくなればいいが、監視と統制の手段ばかりが発展している」とのボヤキが聞かれるとのことだが、こんな状況でも、監視の目を逃れて情報のやり取りをしている人は少なくない。さすが「上に政策あれば下に対策あり」のお国柄だけある。

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