「味噌がない」金正恩の”怒り”が招く北朝鮮経済の混乱

北朝鮮北部の両江道(リャンガンド)で、8月の1カ月間、味噌の供給が途絶える事態が起きた。

味噌は貴重な塩分の供給源だが、汗を多くかく夏に入手できず、人々は塩を味噌の代わりにして耐えるしかなかった。これを現地では「味噌事件」と呼んでおり、大きな問題へと発展していると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

どうやら問題の背景には、金正恩政権による「恐怖政治」の弊害が横たわっているようだ。

両江道の幹部によると、事件の発端は原材料の供給が滞ったことによるものだった。

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味噌を生産し、地域に供給している恵山(ヘサン)基礎食品工場が、トウモロコシの供給が受けられなかった。これは、7月末の豪雨で鉄道が大きな被害を受け、他地方からの輸送ができなくなったことが原因だ。

(参考記事:北朝鮮北部で大雨被害続出、原因は「土でできた家」

なお、朝鮮半島で一般的なのは大豆を原料とした豆味噌だが、この地域ではトウモロコシを使っているようだ。

現在、道内で味噌を生産しているのはこの工場と三池淵(サムジヨン)食料工場だけで、前者は道内に駐屯する朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の将兵と突撃隊員(半強制の建設ボランティア労働者)に、後者は護衛司令部と建設労働者に供給している。

かつては味噌のみならず、醤油など他の調味料も生産していたが、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のころから生産ができなくなり、味噌の生産と塩の供給だけを行うようになった。

鉄道は先月15日に復旧したものの、鉄道省が貨物列車を運行できず、結局、先月末になってようやくトウモロコシが現地に到着した。

味噌がすぐにできるわけがなく、将兵や突撃隊員は、塩だけで味付けしたスープやおかずで8月を乗り切るしかなかった。味気ない食事に不満が高まったが、このことはどこにも報告されず、上部も「味噌事件」のことを知らずにいた。

ところが先月28日の青年節に、地方工業工場の建設現場を視察していた朝鮮人民軍第10軍団の政治委員が、味噌がないことに気づいて中央に報告し、ようやく事態が明るみに出た。

別の幹部によると、中央は味噌事件の原因を、幹部の綱紀のたるみによるものだとみなした。「将兵や突撃隊員の不満が高まっているのに、上部への報告すらしていなかったことは非常に問題だ」として、両江道のみならず、全国で思想闘争(相互批判、吊し上げ)を行うことにした。

軍、突撃隊など多くの人員を抱える組織には政治幹部、行政幹部、朝鮮労働党、勤労団体の幹部、そして個人の動向を監視する保衛員(秘密警察)が必ずいる。このように管理、監視を徹底して行っているはずなのに、誰も問題を把握できなかったのだ。

大雨による被害で、トウモロコシの輸送に支障が出ていたが、両江道には戦時予備物資など様々な穀物が備蓄されており、報告さえあれば、これを使うなどの対策を立てられたはずだという。

上述の通り、中央は両江道の幹部の綱紀のたるみによるものだと厳しく指摘したが、当の両江道の幹部たちは、別の見方をしている。社会システムの硬直が問題を生んだというものだ。

「金正恩総書記の機嫌を損ねないように、国のすべてのシステムが作られているため、社会が硬直し、まともに回っていないというのが、今回の味噌事件の本質だ」(幹部)

(参考記事:台風被災地でも「吊し上げ」…金正恩の”ブチ切れ”災害対策

金正恩氏に叱責されれば、タダでは済まされない。最悪の場合、処刑もありえる。幹部は保身のために報告しなかったのだろう。中央の幹部とて同じだ。気づいていたとしても、下手に金正恩氏に報告すると、何をされるかわからない。かくして、金正恩氏のもとには、問題点に関する情報が上がってこなくなる。

元はといえば、金正恩氏本人が撒いた種だと言っても、過言ではないだろう。

幹部を吊し上げにして手厳しく批判したことで、問題が全く解決しないのは、火を見るよりも明らかだ。

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