「あの放送禁止用語」で破滅した北朝鮮のエリート軍人
「イーシバルロマ!」。韓国映画ファンにはおなじみのこのセリフ。日本語に訳す際には「このクソ野郎!」となるが、実際には英語のFワードに当たる極めて下品な罵り言葉で、韓国の地上波では放送禁止用語となっている。
韓国社会でも北朝鮮社会でも頻繁に耳にする言葉ではあるが、使い方や使う相手を間違えると相手を激怒させ、大トラブルになりかねない。北朝鮮の国境警備隊所属の軍官(将校)A氏は、この一言のせいで、一生を棒に振る羽目となった。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
事件が起きたのは先月30日のことだった。
国境警備隊27旅団所属の軍官A氏は先月30日、清津(チョンジン)駅そばにある食堂で私服姿で飲酒していた。泥酔したのか彼は、女性従業員にセクハラ行為を行った。これを見咎めたオーナーが、駅前の安全部(警察署)に通報した。
(参考記事:金正恩命令をほったらかし「愛の行為」にふけった北朝鮮カップルの運命)
出動した安全員に対してA氏はこんな暴言を吐いた。
「お前ら何様だ?なぜ邪魔をする!俺は国境警備隊の軍官だ!」
そして、拳を振り上げて殴りつけた。殴られた安全員は歯が折れる怪我を負った。A氏は大暴れしたようで、安全部の機動打撃隊(デモ鎮圧部隊)まで出動したが、A氏は逆上し、「口にすることもはばかられるひどい言葉」を吐いた。この表現は、「イーシバルロマ!」またはそれに相当する言葉を指す隠語的表現だ。
部下の面前で罵られ、顔に泥を塗られた機動打撃隊の隊長はこう言い放った。
「あいつをちょっと痛い目に遭わせてやれ」
すると、5〜6人の隊員がA氏向けて飛びかかった。ボコボコにされたA氏は、清津市安全部に連行されたが、取り調べに素直に応じなかったため、さらにボコボコにされたという。
安全部は軍人に対する逮捕、捜査する権限がないため、A氏の身柄は国境警備隊の保衛部(秘密警察)に引き渡された。単なる喧嘩ならまだしも、酒に酔って安全員に対して暴行を振るう事件に発展した。
北朝鮮当局は、酒に酔った上での暴力、舌禍など様々な問題を、「スルプン」(酒風)と呼び、「社会主義の生活様式にそぐわない」として厳しく取り締まる。A氏の行動はスルプンそのものだ。問題はそれだけではない。
(参考記事:北朝鮮兵士、酔って民間人を暴行し全軍を揺るがす大問題に)
時は折しも、首都・平壌で朝鮮労働党中央委員会第8期第10回総会拡大会議の開催中だった。北朝鮮では政治的に重要な行事が開かれている期間の前後は、一切の事件、事故の発生が許されない。
「国の重要行事が行われているときには、上部の指示がなくても取り締まりが強化されるものだ。平壌で会議が開かれているときの事件とあって、軍官はクビになるだろう」(情報筋)
(参考記事:民間女性を集団暴行で放置…北朝鮮軍「規律崩壊」の鬼畜現場)
A氏の階級、年齢など詳細は不明だが、不名誉除隊処分を受けることとなれば、定年退職後の様々な配慮は受けられなくなる。そればかりか、地方の工場の一労働者へと転落する。今まで軍の庇護の下でぬくぬくと暮らしてきたが、今後は厳しい「シャバ」での生存競争に、生き残る術を知らないままに放り込まれることになる。
07/20 04:02
デイリーNKジャパン