「給料は20倍になったけれど…」急激な通貨安に動揺する北朝鮮
あまりに急速なウォン安ドル高に、北朝鮮当局も当惑している。
デイリーNKでは毎月2〜3回、北朝鮮各都市での為替レート(ブラックレート)を調査している。先月26日の時点で1ドル(約155円)に対して、平壌で8920北朝鮮ウォン、新義州(シニジュ)で8930北朝鮮ウォン、恵山(ヘサン)で8910北朝鮮ウォンの値を付けていた。デイリーNKジャパンは、これに基づき、1000北朝鮮ウォンを17円または18円で計算している。
ところが、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋が、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)に伝えたのは、衝撃的なレートだった。
「昨年夏まで1ドルに8000北朝鮮ウォン台に留まっていたレートが、最近になって1万3000北朝鮮ウォンになった。場所によっては1万4000北朝鮮ウォンを付けているところもある」
他の情報筋とのクロスチェックができていないため、やや信憑性に欠ける情報ではあるが、事実ならば急激かつ衝撃的なウォン安だ。
金正恩政権における北朝鮮ウォンの対米ドルレートの推移は次のようなものだ。
元々は3000〜4000北朝鮮ウォン台だったが、2012年夏に6000北朝鮮ウォン台まで急激なウォン安が進んだ。やがて4000北朝鮮ウォン程度に戻り、それ以降コロナ前までは概ね4000北朝鮮ウォン台後半から6000北朝鮮ウォンの範囲で値動きを繰り返していた。
コロナ禍では、合法、非合法問わずすべての貿易がストップさせられたことで、一時期3000北朝鮮ウォン台となったが、貿易の再開と共に徐々にウォン安が進み、2022年8月からは8000北朝鮮ウォン台に突入した。それがいきなり1万3000北朝鮮ウォンになったというのだから、非常に衝撃的だ。
(参考記事:「誰も使おうとしない」金正恩の通貨が“紙くず”になる日)
ウォン安の原因について、この情報筋は貿易の再開と共に、最近行われた給料の引き上げ措置を挙げている。
「昨年夏に中国との貿易が再開する兆しが見えた頃から、少しずつドル高となっていたが、今年に入って労働者、事務員の月給引き上げが発表されてから急激なドル高となっている」
北朝鮮は昨年10月から今年4月にかけて、段階的に国営企業、企業所、機関の月給を20倍に引き上げた。それにより市中に出回る通貨の量、つまりマネーサプライが増えたことで、貨幣の価値が下がり、インフレとなっているようなのだ。
(参考記事:「月給20倍になってもトウモロコシすら買えない」行き詰まる北朝鮮経済)
同様の現象は、2002年にも起きていた。
「今の状況は、2002年位労働者や事務員の給料を上げたときを彷彿させる。賃上げに伴い、1ドル200北朝鮮ウォンほどだったのが、1000北朝鮮ウォンに上がり、1キロ45北朝鮮ウォンだったコメ価格も、ほぼ10倍になった。」(情報筋)
羅先(ラソン)市の情報筋によると、当局も極端なウォン安に敏感に反応している。インフレにつながるためだ。
工場の朝礼や人民班(町内会)の会議では、「外貨を両替する際には必ず国営銀行や外貨取引所を使え」「国営銀行を使うのが商品価格と安定と国の経済発展のための愛国的行動」などといったことが繰り返し伝えられている。また、ヤミ両替を利用した場合には外貨も北朝鮮ウォンも全額没収するとの警告も伝えられている。
06/07 16:20
デイリーNKジャパン