「流水でほぐすだけで食べられる麺」で食糧難を乗り切る北朝鮮の人々
食糧難が最悪の状態に達している現在の北朝鮮で、人々を飢えから救っているのは「流水でほぐすだけで食べられる麺」だった。
北朝鮮第2の都市、咸興(ハムン)の名物といえば冷麺だ。ジャガイモやサツマイモなどのでん粉で作ったコシの強い麺に、ガンギエイの刺し身、コチュジャンベースのタレがかかった辛いものが、咸興冷麺として知られているが、これは朝鮮戦争の避難民が韓国にもたらしたもので、現在の咸興で食べられている冷麺は、イモまたはトウモロコシの麺が、牛肉や豚肉のスープに入った辛くないものだ。
現地のデイリーNK内部情報筋によると、最近市場で人気があるのは、茹でる必要がなく水でほぐすだけで簡単に食べられる「清水冷麺」と呼ばれる麺だ。
1キロの価格は6800北朝鮮ウォン(約122円)と、決して安いものではない。商人はかつて500グラム、1キロのパッケージのままで販売していたが、今では100グラム、200グラムと小分けして販売している。
「最近、市場の商売がさっぱりダメなので、ほとんどの商人は、消費者の懐事情に合わせて商品を小分けして売って儲けようとする。経済的に苦しくて一度にまとまった量を買えない人も多く、必要な分だけ購入できて負担が軽くなる」(情報筋)
(参考記事:「死ぬやつは死ね。という政策なのだ」北朝鮮の食糧難が末期症状)
咸興から遠く離れた内陸の両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)でも、このような水でほぐすだけで食べられる麺が人気を集めていると、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
「生活の苦しい人たちは、清水冷麺で1日3食をまかなっている。暑い中で火を使わなくてもよく、薪代を節約できるので、コメやトウモロコシより清水冷麺が好まれる」
北朝鮮でガスを使えるのは首都・平壌の一部地域と、地方政府の幹部などごく一部に限られ、ほとんどの人は煮炊きに練炭を使っている。また、冬の厳しい両江道では、部屋の暖房に適している薪が好まれるが、暖房の要らない夏に薪に火をつけるのは実に面倒なことだ。そこで冷たいスープに味噌を溶き、麺を載せるだけでできあがる清水冷麺が人気を集めている。
しかし、冷麺ばかりの日が続き、いい加減飽きているようだ。
「一日、二日ならまだしも、(続くのは辛い)。単に腹をふくらませるためだけではなく、冷たくてさっぱりとした味を味わえる日が早く来ればいいのに」
市場経済が活発だったコロナ前の北朝鮮では、食糧事情が比較的安定し、ほとんどの人が1日3食取れる状況となっていた。そんな中で、量よりも味を重要視する風潮すら現れていた。
ところが、コロナ禍で状況は一変。中国からの輸入が止まってしまったために、深刻な食糧難に襲われ、コロナ後には、穀物の事実上の専売制、計画経済制度を復活させようとする政策のせいで、一向に食糧難が解決する兆しが見えない。
(参考記事:「状況認識ができない」金正恩の“退化”で国内危機が深刻)
そんな中で、「国が食糧問題だけでもなんとかして欲しい」と露骨に政府批判をする人も周りに少なくないと、情報筋は伝えている。
06/03 05:28
デイリーNKジャパン