「関ケ原の落ち武者との死闘」北朝鮮で”オカルト映画”大ヒットか

韓国で今年2月に公開された映画「破墓」(パミョ)。墓を移転する改葬を意味する言葉だが、その内容はムダン(巫堂、シャーマン)と風水師、葬儀師が、関ケ原の合戦で討ち取られた「落ち武者の悪霊」と死闘を繰り広げるオカルトミステリー映画だ。

シャーマニズム、風水などという伝統的な要素をベースにしつつも、米国に移民した韓国人、その先祖は日本の植民地支配に協力したいわゆる「親日派」である点など、近現代史的要素も盛り込まれたこの映画、韓国で1000万人以上の観客を集めて大ヒットを記録した。また、韓国のゴールデングローブ賞とも評される百想芸術大賞で複数の賞を獲得した。

今年5月末現在、韓国とモンゴルでのみ上映され、まだ日本では公開されていないが、決して公に上映されることのない北朝鮮でも早速、前評判が高まっているという。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

中国との国境に接する会寧(フェリョン)では、商売に利用するために国内通話、イントラネットしか利用できない北朝鮮のキャリアではなく、全世界にアクセスできる中国キャリアの携帯電話のユーザーが少なからず存在するが、彼らを通じてこんな情報が広がっている。

「腕の良いムダンが先祖代々遺伝する奇病の原因が、墓の場所にあることに気づき、その解決のために墓を改葬する過程を描いた痛快な南朝鮮(韓国)映画がある」

シャーマニズムや風水などは、北朝鮮の刑法256条で「迷信」と規定されている。それを行う者を処罰の対象となり、運が悪ければ見せしめに処刑されることもあるが、それでもこれらを頼る人は後を絶たない。

(参考記事:北朝鮮の15歳少女「見せしめ強制体験」の生々しい場面

「ここ(北朝鮮)の人たちも、家庭に問題が起きたり、病気が治らない場合には、占い師を訪ねて、先祖が葬られた墓のことについて相談したりする」(情報筋)

一般庶民から高位幹部に至るまで、占い師に頼る人は少なくなく、当局がいくら取り締まっても根絶やしにできていない。また、たとえ占いに頼らない人であっても、墓の場所を気にしたりするなど、宗教的考えは根強く残っている。そのような文化的ベースがあるため、北朝鮮でも大きな話題になるのだ。

「迷信」を扱っている上に、当局が厳しく取り締まる韓国映画でもある「破墓」だが、北朝鮮で「大ヒット」が予想されている。

「ここの人たちは、南朝鮮映画、ドラマと言えば何としてでも見るために必死になるが、『破墓』もそうだ。親の世代は心の中で見たいと思っていても表に出さないが、若者たちは韓流コンテンツを流通させている人を訪ね歩くなどして、積極的に見ようとする」(情報筋)

(参考記事:命が危なくてもやめられない…再始動した北朝鮮の「韓流ビジネス」

会寧で「不純録画物」を扱っている人々は、今回の「破墓」人気を商機と捉えているようだ。

「あんなに取り締まって恐怖を与えているのに、南朝鮮映画フィーバーを抑えることはできないと、今回改めて感じた。1日10数人の若者が訪ねてきて『どうしても見たい』と駄々をこねる。もし映画(のファイル)を持っていれば、大儲けできただろう」

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