《写真多数》「トップガンの冒頭シーンのように…」海上自衛隊“空母”「かが」で不肖・宮嶋が艦上で見た勇姿「間もなく翼に日の丸を輝かせたF-35も発艦できるはず」
不肖・宮嶋、カメラマン生活早40年、まさか、おんどれの目の黒いうちに旭日旗を掲げた「空母」艦上に立てる日が来るとは思わんかった。
【画像】映画「トップガン」のような光景が目の前に…不肖・宮嶋が見た「空母」かがの全貌
日本の安全保障の、大きな転換点となる日
時はアメリカ西部時間11月6日、1437(ひとよんさんなな)時、東京時間11月7日0737(まるななさんなな)時、アメリカ合衆国第47代大統領がD .トランプに決したと大勢が判明した日、所はアメリカ西海岸沖太平洋上、奇しくも真珠湾攻撃に参加した帝国海軍空母「加賀」の名を冠する2代目、海上自衛隊護衛艦「かが」飛行甲板上であった。
しかし、この歴史的瞬間を取材すべく、アメリカ西海岸サンディエゴのノース・アイランド海軍航空基地に集合した日本メディアは朝日新聞、産経新聞各1名、あとは不肖宮嶋はじめミリタリー専門誌を舞台に活躍するフリーカメラマン4名のみ、LAに支局を構えるNHKや民放も含めゼロである。護衛艦艦上での戦闘機運用試験開始という日本の安全保障の大きな転換点となるこの良き日の取材にはガン無視なのである。
護衛艦「かが」の勇姿
かくして米海軍女性少佐の案内で酸素ボンベにマーカー付きの窮屈で苦痛を伴うライフジャケットにゴーグル、イヤーマフ付きヘルメット着用のうえ案内されたのは米海兵隊の大型輸送ヘリCH-53「スーパー・スタリオン」であった。
さらにノース・アイランド航空基地から「スーパー・スタリオン」で太平洋上を南下すること40分、開け放たれたままの後部ハッチから見慣れた台形の、いや初めて見る長方形の飛行甲板を備えた、まごう事なき「かが」の勇姿であった。
護衛艦「かが」にブーツ・オン・デッキしたのは初めてではない。実は不肖・宮嶋、2代目「かが」とは長ーい付き合いがあるのである。
2015年8月27日、「かが」の記念すべき命名、進水式や2017年3月22日の同じく記念すべき就役、自衛艦旗授与式にも立ち会った。そして2018年10月にはスリランカからシンガポールまでIPD(インド太平方面洋派遣訓練)に2週間同乗取材し、その間、何かのトラブルか嫌がらせなのか浮上したままの中国海軍の最新式潜水艦や救難艦と一触即発直前という経験もした。
ステルス性を保つための、独特なシルエット
しかし今回はそんな前回までの「かが」とはがらっと雰囲気が違っていた。イタリア海軍の空母「カブール」よりも長い全長248mの飛行甲板を仕切るのは、これまでと同じフル装備の「かが」の乗員たちであったが、それに加え赤や黄色という色とりどりのフライトベストを着こんだ米海兵隊員や米海軍軍人らも走り回っているのである。そしてなにより際立つのは飛行甲板後部に控える固定翼戦闘機F-35Bの存在である。
米海兵隊所属を示す「MARINE」のエンブレムにかわってその垂直尾翼には「かが」艦載機を示す日本語で描かれた「かが」のエンブレムがあった。その独特のシルエットはステルス性を保つため爆弾倉も機体内部に収納され、アンテナも機銃すら見当たらない。ツルンとした機体外殻から塗料までいまだ我々のカメラから遠ざけられており、自らはレーダーに映らないのにコックピットからは機体全方向に張り巡らされたカメラの映像がパイロットのヘルメット内のヘッドアップディスプレイに映りだされるという死角なしというのである。そして我々自身も機体の6m以内に近づけないほど、そのステルス性は国防秘なのである。
「かが」乗員の表情もみな誇りに満ち溢れているように見える。
それが戦後初の空母乗組員となった誇りなのか、自衛艦のなかで最初の固定翼戦闘機の艦上運用試験飛行に成功した喜びも加わってなのか、「かが」艦上はお祝いムードが漂っていた。
映画「トップガン」の冒頭シーンのよう
米側指揮官ウエイド海軍中将とともに記者会見に応じた日本側指揮官、海上自衛隊護衛艦隊司令官伍賀祥裕海将も冷静に答えたとおり、そもそも「かが」や「いずも」型の全通飛行甲板を持つ護衛艦は対潜水艦戦闘に特化し、複数のヘリを同時に運用するという災害派遣等も含めマルチロール(多目的)機能を持つ護衛艦やったのが、昨今の日本周辺海域の状況変化に伴い、新たに固定翼戦闘機の海上運用の機能を持たざるをえないようになっただけなのである。
この日、我々の目の前で繰り広げられたのは映画「トップガン」の冒頭シーンを彷彿とさせるような出来事ばかりであった。「かが」右舷の第2エレベータ―にまるで最初からあつらえたようにF-35Bが載せられ、飛行甲板と広大な格納庫を昇降でき、その機能はF-35Bだけでこの日は2機だけとはいえ、搭載機は推定8機から10機が運用できるというのである。
安全管理が徹底され、乗員にも緊張が。
かくして海上自衛隊からは事前に耳栓を準備するように言われた通り、アメリカ西部時間1430(ヒトヨンサンマル)時、F-35Bのすさまじい咆哮が太平洋上の「かが」飛行甲板に響き渡った。数少ない我々報道陣一人一人に安全のため「かが」乗員がつきっきりになって、安全管理が徹底される。エンジンが回ってないときでさえ6m以内の接近が禁止されているが発艦準備が始まるや、われらにつきっきりの「かが」乗員にも緊張がみなぎる。
イヤーマフ越しにさえ聞こえるほどの大声を張り上げ「もっとさがってください!」「ゴーグルをしっかり装着して!」とそこかしこで大声を張り上げる。持参した耳栓に加え、ヘルメットに付いたイヤーマフさえも突き抜ける轟音は27トンの機体を持ち上げるF135エンジンのうなりである。
生暖かいダウンウオッシュの強風が我が身を吹き飛ばすように打ち付ける。黄色いベストを背負ってF-35Bの周りに控える米海兵隊発艦クルーが次々にサムアップし、安全確認を終え、発艦準備が整ったことをパイロットに伝えるや、機体後部下部から白煙と陽炎が立ち上がり機体はゆっくりゆっくり艦首に向かって進み始める。この点がほんの2秒で燃料、武装満載で30トン以上のFA-18戦闘攻撃機を300kmで飛び出させる蒸気カタパルトを備える原子力空母と、機体単独で発艦していくSTOVL機とカタパルトを装備しない「かが」との違いである。
無事発艦を成功!
4基ものカタパルトを装備する原子力空母ほどとまではいかないが、この日「かが」からも続けて2機目のF-35Bが無事発艦を成功、飛行甲板を離れた2機のF-35Bはまるでバーチカルテイクオフのごとくの高角度で真っ青な太平洋の空高くに消えていき、その数分後には2機編隊で「かが」上空を轟音とともにフライパスし一瞬でこれまた大空彼方に消えていき、その高機動力をまざまざと見せつけた。これでレーダーに映らんというのやから、中国にとってはこの「かが」とF-35Bの存在は日本侵略への大きな障害となるは必定であろう。
このF-35Bも来年度までに航空自衛隊にも18機が配備され、新田原基地にはあらたにF-35Bだけの専門飛行隊まで創設でき、間もなく翼に日の丸を輝かせたF-35Bが「かが」から発艦するシーンも目の当たりにできるはずなのである。
護衛艦「いずも」空母化の、不安材料
さらに将来的には2個飛行隊計42機のF-35Bが航空自衛隊に配備され、海上自衛隊には「かが」に続き「いずも」にも固定翼戦闘機の艦上運用可能な改修、すなわち不肖・宮嶋にいわせれば、護衛艦「いずも」も空母化される予定である。
そうええ事ずくめやなく、不安材料は尽きない。それは現在ですら自衛隊は慢性的な定員割れに悩まされ、この上、実質空母運用となればさらなる優秀な人員を要する。彼ら彼女らの人員確保やF-35B調達や「いずも」改修予算にも莫大な金を要する。
さらなる不安材料もある。空母が3隻と急増した中国海軍に無くて、日本にあるもの、それはF-35Bステルス戦闘機ばかりでない。先の大戦中から培い、実戦経験を積み培ってきた空母運用のノウハウである。中国海軍がそれらをなりふり構わず必死になって盗みにくるは必定であるが、我が国は対応できるのだろうか。
撮影 宮嶋茂樹
(宮嶋 茂樹)
11/17 06:10
文春オンライン