《戦禍の中の日常》「岸田首相、ウクライナ来たらどや?」不肖・宮嶋が撮った、戦争にへこたれないウクライナ国民の「余裕」
不肖・宮嶋、再びウクライナ第2の都市、ハルキウに戻ってまいりました。
【画像】宮嶋カメラマンがウクライナで虜になった「鶏の照り焼き弁当」(550円)とは
思いおこせば7カ月前は砲声と爆発音が止むことがなかった日常であったが、なんとインター・シティー(高速列車)が時刻表通りに走ってるのである。ハルキウだけちゃうで。こないだ集合団地がロシア軍に襲われたドニプロも、そのさきのザポリージャにも、最近までロシア軍が居座っていたヘルソン近くのミコラーエフにも、イジュームにも、さらにその南のスラビヤンスクにも、最近世界遺産に登録されたオデーサにも、ちゃーんと鉄道が通っているのである。(全3回の1回目/#2、#3を読む)
活気の戻ったプラットフォーム
地方はあれほど停電続きやというのに鉄道が1分と遅れんのは、まさにウクライナ国営鉄道の意地であろう。かくして首都キーウからわずか5時間ちょい、新幹線よりはゆっくりやが、インター・シティーは時刻表きっちりにハルキウに到着した。
7カ月前はがらがらだったプラットフォームには、すでに赤帽(ポーター)が台車を抱えて待機しとるのである。しかも荷物1個につき70フリブナ(2ドル弱)である。車1台通ってなかった駅前ロータリーには出迎え、見送りの車で渋滞とまでいかんが、後を絶たず、客引きのタクシー運転手が「クダー(どこへ行く)?」「タクシー」と次々声をかけてくる始末なのである。
昨年のウクライナ侵攻でスマホ駆使し始めて、不肖・宮嶋もずいぶんモバイル化が進んだもんである。UklonやBoltなどのアプリを使い、リアルタイムで白タクを呼べるようになった。不愉快な値段交渉もなしに、リーズナブルな値段で長くても15分も待てば迎えの白タクがやってきよるのである。
長期滞在の覚悟でアパート型ホテルへ
以前のハルキウにはまともなホテルもなく、現地映像作家デニスとともに、人形劇劇場に下宿していたが、今回はインターネットを通じ3つ星から5つ星までのホテルが予約できるのである。不肖・宮嶋も長期滞在を覚悟し、今回はアパート型ホテルにチェックインしたのであった。
7カ月前下宿していた劇場は表通りの「憲法広場」に面した一等地であったが、まさにその裏通り「プーシキンスカヤ通り」に面した裏路地の奥に、不肖・宮嶋の仮の棲み処となるアパートがあった。管理人に電話すると、1階まで降りてきて、鉄製の門を開けてくれやっと中に入れた。
ロシア軍のミサイルを食らったら一発で倒壊しそうな古いビルである。大人ひとりで満員になる1基しかないエレベーターで4階に上がると、果たしてその一角がアパートホテルであった。一応電気は来ているようやが、天井の高い建物は古いせいもあり暗く感じた。
えぐい大家
案内してくれたのはヴィクトリアと名乗る中年女性の大家。英語をまったく解さないので、会話はワッツアップとかいう翻訳機能があるインターネットを通じてなんやが、これがまあえぐい大家なんである。いや名前のとおり勝気というかがめついというか(ヴィクトリアという名前は日本風に直せばさしずめ勝子である)、まるでロシアの文豪ドストエフスキーの『罪と罰』に出てくる、主人公ラスコーリニコフに殺される質屋の強欲ばばあみたいなのである。
やれ泥がついた靴でカーペットを歩くなだの、汚したら弁償だの、部屋とフロアとビルに入るための3つの鍵も絶対失くすなだの、失くしたら100ドルだのとまあこまかい。しかし1泊20ドルである。ハルキウの街中じゃあどこ捜したって80ドル以下の宿は普通はない。
突然停電も気合いで乗り越える
しかし、安いのにはちゃあんと理由があるのである。強欲大家だけやない。突然ミサイル降ってくるからだけやない……まあロシア軍のミサイルのせいなんやが、ウクライナ中のインフラ施設をロシア軍が集中的に攻撃したもんやから、しょっちゅう停電しよるのである。それは計画停電というよりは突然停電。ハルキウを訪れる前に滞在していたオデーサでは12時間も続いたのである。宿泊していたホテルは1泊60ドルのスイートルームでも湯は出ん。昼間でも真っ暗。当然暖房も効かない。
とは言うても極寒のシベリアやマイナス60度の南極大陸を知る不肖・宮嶋にとっては、いや、ウクライナの民にとっても、気合で乗り切れる。冬季のウクライナ東部は毎年冬に北海道に鹿狩りに行く不肖・宮嶋の印象ではちょうど釧路と同じ気候という感じである。時には、また場所によってはマイナス20度近くまで冷えるが、ふだんは0度前後、冷えてマイナス10度くらいである。それで暖房がきれたら、まあきついが、ダウンの寝袋にもぐりこめば凍死する心配もない。
商店も再開し食も充実
商店もずいぶん開きだした。7カ月前は開いてるレストランなんか一軒もなかったのに、いまはアパートの隣がドーナツ屋、その隣がワインバー、そして歩いてすぐのとこに「ヤポーシカ」という寿司からラーメン、はてはピザ、ハンバーガーまで出すレストランが21時まで開いてるのである。ちなみにヤポーシカというのはウクライナ語で日本の女の子の意味である。
まだまだあるで。アパートの真ん前には、東京でいうたら「ナショナル麻布」とコストコが合併したみたいな高級巨大ショッピングモールの「ニコルスキー」が普通に営業しとるのである。おかげで翌朝早い出動の前夜には、そのモールでどう見てもチキン照り焼き弁当150フリブナ也(現在のレートで約550円)を買いだすのが習慣になったぐらいである。
岸田首相、おみやげには発電機を
もひとつちなみに、あれほど悩んだ燃料の心配はなくなったようで、停電になるとそこら中から発電機の轟音が聞こえてくる。ガソリンスタンドに列を成すクルマもいない。だがガソリンの値上げはすさまじく、税金まみれの日本と同じくらいのリッター2ドル弱である。しかしそのせいで街は排ガスの臭いが充満する。それでも真っ暗なくらしより、明るい生活である。
ほんで岸田首相、せっかくウクライナに行くんやったら、不肖・宮嶋ええこと教えたら。ウクライナへのおみやげには発電機は喜ばれるど。特にホンダなんかの日本製がええ。使い捨てカイロも喜ばれたど。あと、充電式の電池や車から電源とれるインバーターなんかもや。どうせ政府専用機で荷物超過料金もかからんし。
荷物は若く優秀な政策秘書であられるご長男が運んでくださるんやろ? え? 大事な跡取りは連れていかんて? そなら不肖・宮嶋をシェルパかわりに雇わんか? いや、ところでほんまに行く気あるの? G7サミットをおんどれの選挙区の広島に我田引水したんや。そこでイニシアチブとらんわけにはいかんやろ? ウクライナはかならず議題に上がるで。G7首脳で1人だけ行ってないなんてことになったら、カッコつかんじゃ済まんど。(#2に続く)
《人々は地下へ逃げた》ウクライナに降った砲弾の雨がもたらした「ミサイル墓場」と「地下帝国」《不肖・宮嶋ウクライナ戦記》 へ続く
(宮嶋 茂樹/Webオリジナル(特集班))
03/19 12:00
文春オンライン