「全方位強硬外交」を続ける習近平体制…世界各国が中国と渡り合うために真似すべき“日本流の交渉術”とは

父は16年間の投獄、姉は餓死…文化大革命で苦痛を味わった“習近平”がそれでも“毛沢東”の背中を追う異常な理由 から続く

 自らの後継者候補を明らかにせず、極端な独裁制を強める習近平。対外政策でも強硬姿勢をエスカレートさせる中国はアジアの国際政治を破壊し続けている……。

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 そう語るのは国際政治学者・エドワード・ルトワック氏だ。ここでは同氏の著書『ラストエンペラー習近平』(文春新書)の一部を抜粋。世界各国が行うべき対中政策について、エドワード・ルトワック氏の考えを紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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恥をかかせ、つまずかせ、転ばせる

 ここまで論じてきて、明らかになったことは、習近平が破壊的な人格であり、世界にとって(そして中国にとっても)非常に有害であることだ。彼が中国で政権に居座り続けるかぎり、彼はアジアの国際政治を破壊し続けるからだ。そのため、彼を政権から引きずり下ろすことが必要になってくる。

 そこで重要なのは、習近平に「恥をかかせる」ことだ。彼をつまずかせ、転ばせて、彼が主張した政策を実現できなくさせること。そして、彼の実行力、判断力に疑念を生じさせ、その権威や政権担当能力を否定するのである。アメリカをはじめ、日本やヨーロッパの政策担当者は、これを狙った行動をしなければならない。

 ここで注意しておかなければならないのは、アメリカの対中姿勢は、習近平を「つまずかせる」ような性格ではないということだ。

 これはバイデン政権が実は親中的であるという話ではない。トランプ政権における対中政策は、バイデン政権においても完全に継続されたのみならず、人権問題などではいっそう踏み込んだものになっている。

誰が習近平を「つまずかせる」のか?

 ただし、アメリカが行っているのは、中国に「対抗する」政策である。つまり、中国に対する「戦線を維持」しているのだ。アメリカがいくら経済で締め付けても、人権問題で批判しても、習近平体制を揺さぶることにはならない。なぜなら、それは習近平が備えることのできる攻撃だからだ。戦略において、相手がすでに備えを終えているところを攻めても、ただちに勝利にはつながらないのである。またアメリカは中国にとって「まだかなわないが、いつかは打ち勝つ強敵」であり、いまアメリカとの戦いで劣勢でも、習近平の名誉を損ねることにはならない。

 では「習近平をつまずかせる」という作業は誰が行うのか? それは中国が格下に見ている国々、EU、日本、インド、オーストラリアなどだ。あるいはベトナムやインドネシアを加えてもいい。このように習近平たちが「小国」とみなし、中国の言い分を受け入れるのが当然だと考えている国々からの反撃こそ、「習近平は失敗している」ことを可視化させ、世界および中国国内に広げる役割を果たすからである。

「つまずき戦術」のマニュアル

 具体的にどうすればいいのかというと、実は日本がうまくやっていることを他の国々も真似すればいい。それは、習近平からの要請に対して、「ノー」と答えるというものだ。

 たとえば尖閣問題である。北京は「尖閣諸島は係争地域だ」と日本に認めさせようとしている。それによって、交渉に持ち込もうというのだ。ところが日本政府は一貫して「交渉することは何もない」という立場を崩していない。

習近平は自国の国民たちに向かって「中国はいまや偉大な大国であり、尖閣諸島は中国のものだ」というメッセージを発信しつづけている。ところが問題は、これが一向に実現していない、という点にある。

写真はイメージです ©iStock.com

 いくら習近平が「西洋諸国は没落して、中国は台頭している」と主張したところで、国民側から「国家主席、それはその通りでしょうが、私たちの尖閣諸島はどうなっているのでしょうか?」と尋ねられたら、答えようがないだろう。さらには「なぜ日本に尖閣の不当な占拠を許しているのでしょうか? なぜ国家主席はそんなに臆病者なのですか?」となるのである。

 これは台湾問題にも通じることだ。「ところでいつになったら、当然、中国の一部であるはずの台湾に真実を思い知らせてやるのですか?」という疑問を生じさせるためにも、台湾問題をクローズアップするのは有効な戦略だといえる。

 また、インドが国境紛争に際して行った経済制裁も有効だ。これも中国企業にとっては、「なぜあんな山の奥のちっぽけな領土のために、何億ドルも損しなくてはならないのか」ということになる。

14項目の「不満」に見る中国の弱点

 さらにはオーストラリアのケースも興味深い。2020年11月、中国政府は、オーストラリアの大手メディアに対して、14項目の「不満」を突きつけたのである。これを見ると、中国が何に苛立ち、何を嫌がっているかがよく分かる。それは、この文書を手渡す際に、「中国は怒っている。中国を敵として扱うならば、中国は敵になるだろう」と恫喝したことが、かえって雄弁に物語っている。

 その14項目の要旨をみてみよう。

●「国家安全保障上」という理由で、インフラ、農業、畜産などの分野での中国の投資が制限されている。

 

●同様の理由で、華為技術(ファーウェイ)と中興通訊(ZTE)の2社を次世代通信規格「5G」ネットワークから排除した。

 

●「オーストラリアの民主的プロセスに干渉しようとする外国人の有害・秘密行動」を違法とした外国干渉法は、根拠なく中国を標的とみなしている。

 

●中豪間の交流と協力を政治的に扱い、中国人学者のビザ取り消しなどの制限を課している。

 

●新型コロナウイルスに関する国際的な独立調査の呼びかけは、中国に対する攻撃である。

 

●中国の新疆・香港・台湾問題に絶え間ない強引な干渉を行い、対中弾圧の先頭に立っている。

 

●非沿岸国なのに、南シナ海問題に関する国連提出用の声明を作成した。

 

●米国の反中キャンペーンに加担し、新型コロナを封じ込めようと努力する中国に対し、故意の誤報を広めている。

 

●中国を標的にした立法で、外国政府との合意を精査するようにした(ビクトリア州の「一帯一路」撤退を指している)。

 

●政府系シンクタンク「オーストラリア戦略政策研究所」(ウイグルでの強制労働を報告した)に資金を提供し、中国に対する世論操作を目的とした虚偽の報道を広めた。

 

●中国人ジャーナリストに対する家宅捜索や財産没収(スパイ容疑での捜査)。

 

●サイバー攻撃に関する中国への疑惑。

 

●国会議員による中国共産党への非難と、人種差別的な攻撃。

 

●2国間関係を害する、非友好的あるいは敵対的な中国報道。

 つまり、これは中国政府自ら作成した、ここは攻められたくないという「中国の戦略的弱点」のリストだといえる。さらにいえば、この14項目こそ、中国から威圧されている周辺国が、中国に対して取るべき「つまずき戦術」の絶好の見本であり、マニュアルでもあるのだ。

EUとの投資協定をめぐるつまづき

 また最近の例として、EUの投資協定をめぐる動きをあげておこう。2020年12月、EUの欧州委員会は中国と市場開放や公正な競争環境の確保など、投資環境の整備を目的とする包括的投資協定(CAI)に原則合意したと発表した。これは中国にもっと投資したいとするドイツの産業界などが強く求めたものだが、実際に協定の内容が明らかになってみると、中国は大して規制を緩めていないことが判明した。つまり期待したほどのメリットのないものだったのだ。それでも、署名延期を求めるアメリカを無視して、協定の批准を進めようとしていたのである。

 ところが欧州議会は2021年1月、ウイグルでの強制労働や香港国家安全維持法など中国における深刻な人権侵害に具体的な行動をとらなかったことは「人権を重視するEUの信頼性をおとしめかねない」と非難して、協定を問題視する決議を採択した。また3月にはEU、アメリカ、イギリス、カナダがウイグル族への人権侵害、強制労働などに対して、ウイグル自治区の統治責任者である中国高官や、ウイグルに駐屯する準軍事組織、生産建設兵団の公安局などに制裁を科した。こうしたEUの動きは天安門事件以来のことだった。

 それに対し中国が、欧州議会の議員などに中国への入国を禁じる報復制裁をすると、5月、欧州議会は報復制裁が解除されない限り協定に関する審議に一切応じない、と決議した。

 このような行為が習近平を「つまずかせる」のである。

共産党内部からのリークや東欧諸国からの反発も

 習近平が本格的にウイグルで民族弾圧を強化したときのことを思い出してほしい。あのとき、ウイグルに関する機密文書が西側のメディアに大量にリークされ、それによって中国国外でもその実態が広く知られることとなった。これが何を意味するかといえば、現地の共産党の幹部たちのなかに「習近平は危険な狂信者である」と認識している人々が存在するということだ。これは習近平のウイグル統治がうまくいっていないことを明るみに出すという、彼らの習近平に対する抵抗だった。

 同様に、欧州議会が北京との投資協定の合意を拒否すれば、習近平にとって頬を平手打ちされたようなことになる。習近平が「素晴らしい成功だ」と世間に広く提示した投資協定が潰れることは、まさに習近平自身の失敗であり、彼はメンツを潰されたことになる。これが「習近平をつまずかせる」ということなのだ。

 ヨーロッパでは、バルト海の国々や東欧諸国も、習近平を苛立たせるような動きを見せている。スロベニアやクロアチア、チェコは中国の企業がかかわっている原発、高速道路、鉄道網など、インフラ設備の政府入札を中止したし、ルーマニア、リトアニアでは中国企業を幅広い分野にわたって政府調達から排除している。

小国が中国のメンツを潰すサプライズ

 また中国は2012年から旧共産圏の16カ国に呼びかけ、「16プラス1」(プラス1はもちろん中国だ)というグループを組織してきたが、2021年2月にギリシャを加えた「17プラス1」として習近平が主催したヴァーチャル会合では、中国が各国の首相の参加を要求したのに対し、エストニア、ラトビア、リトアニア、ルーマニア、ブルガリア、スロベニアの6カ国はわざわざ格下の閣僚級を参加させた。中国外務省の報道官は、会合は「首脳らとともに成功裏に開催された」とコメントしたが、5月になると、リトアニアがこのグループからの脱退を表明したのである。

 ここで重要なのは、この戦略では、中国側が「小国」と認定しているような国が、中国側が持ちかけた提案や、すでに成功したと喧伝したものを拒絶したり拒否したりすることによって「メンツを潰す」というサプライズが有効だということだ。

 日本やベトナムはこれができる。韓国も潜在的にはできるはずだが、THAAD(高高度防衛ミサイル)システムの設置をめぐって、土地を提供したロッテグループが中国国内から排除されたことをきっかけに、もう中国への抵抗ができなくなっている。彼らは中国の「忠犬」状態だ。

 あまり注目されていないが、意外に良い動きをしているのがインドネシアだ。近年続いているEEZ海域への中国海警局の艦船の侵入をうけて、2020年、アパッチヘリコプターなどによって構成される即応部隊を配備することを決定している。

 ここでも「同盟の戦略」が効いてくる。中国にとっての「小国」が、それぞれに「つまずき戦術」を駆使することで、習近平の独裁体制の揺れをどんどん大きくするのだ。

「微笑み戦術」はうわべだけ

 さまざまな歴史の教訓が示しているように、習近平の独裁体制は必ず破綻するだろう。そして習近平は「ラストエンペラー」(最後の皇帝)となる。ただ問題はそれが起きるのが、5年後か8年後か、あるいは50年後か80年後かはわからないということだ。

 これも逆説的だが、「同盟の戦略」、「つまずき戦術」が非常に効果を上げた場合、中国は「チャイナ4.0(編集部注:中国の他国に対する政治姿勢を表すエドワード・ルトワック氏の造語。さまざまな国に対する強硬な外交体制を表す)」をとりやめ、南シナ海への野心などは捨てて、よりマイルドで協調的な「チャイナ5.0」を採用するかもしれない。その場合、習王朝は延命されることになる。しかし、習近平の性格、中国の戦略下手から考えると、そうした中国にとって有利な政策転換が行われる可能性は、やはりきわめて低いだろう。

 2021年5月、習近平は「謙虚で、信頼され、愛され、尊敬される中国のイメージを作れ」と語った。一部の報道では、「戦狼外交」からの方針転換ではないかという見方も出されたが、そうではないだろう。これはあくまでイメージ上の「微笑み戦術」に過ぎず、強硬路線は維持されている。それは翌6月の全人代で、外国からの制裁に報復する「反外国制裁法」が成立、即日施行されたことからも明らかだ。

【前編を読む】父は16年間の投獄、姉は餓死…文化大革命で苦痛を味わった“習近平”がそれでも“毛沢東”の背中を追う異常な理由

(エドワード・ルトワック/文春新書)

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