北朝鮮の「怪物」ICBM、トランプ氏との親交の裏で改良

 【ソウル=桜井紀雄】北朝鮮は10日未明に2年ぶりに行った軍事パレードで、巨大な新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)を登場させ、米国の出方次第でいつでも米首都さえ攻撃できる能力を誇示した。トランプ米大統領は、北朝鮮によるICBMの発射中断を外交成果と自賛してきたが、北朝鮮に核・ミサイル開発を自制させる“たが”は1年以上前から外れていた現実が浮き彫りになった。
 多数の照明でライトアップされた平壌の金日成(キム・イルソン)広場。新型ICBMは、約10種類の新型兵器が次々と投入されたパレードの「大トリ」を飾った。
 金正恩(ジョンウン)朝鮮労働党委員長はパレード前の演説で、経済的な苦境に耐える国民に言及し涙も見せたが、新兵器の姿に笑顔で目を輝かせた。直前に登場したICBM「火星15」より全長、直径ともに一回り大きく、欧米メディアは世界最大級のこのミサイルを「怪物」と表現した。
 特に注目を集めたのは、弾頭部分の大型化だ。韓国や欧米のメディアは多弾頭型の可能性を指摘した。複数の核弾頭を搭載し、1基で米ワシントンやニューヨークを同時に攻撃できることになる。多弾頭型のICBMが多数配備されれば、米国の弾道ミサイル防衛を突破する可能性が高まる。
 北朝鮮が多弾頭化技術の獲得に至っていないとの見方も一方で根強いものの、ミサイルの大型化により積める燃料や推進力が増し、搭載できる弾頭重量が格段に増えたことは間違いない。
 火星15の射程は、米本土全域を収める推定1万3千キロ以上だが、弾頭部を300キロ程度と想定した場合に限られる。核弾頭を安定的に大気圏に再突入させるのに適した600キロに増やせば、射程は9千キロ台に落ち米西海岸にしか届かない。
 金氏は2017年11月に火星15の発射で「国家核戦力の完成」を宣言し、翌年からトランプ氏との直接交渉に入ったが、実際にはワシントンを脅かす核兵器は手にしていなかった。
 今回、巨大なICBMを見せつけることで、対米関係の破綻を招くICBM発射という「レッドライン」を越えずに、11月の米大統領選後の展開次第では米首都を狙ったICBMを試射できるというメッセージを改めて米側に突きつけた。
 推進力の向上を可能にしたのがロケットエンジンの改良だ。北朝鮮は昨年12月、北西部の東倉里(トンチャンリ)の西海(ソヘ)衛星発射場で2回にわたって「重大な実験」を行ったと公表。「米国の核の脅威を制圧する戦略兵器開発に適用される」と表明した。エンジンの燃焼実験だったとみられ、金氏は「世界は遠からず、新たな戦略兵器を目撃する」と予告した。
 東倉里のエンジン実験場は、金氏が18年6月の初の米朝首脳会談でトランプ氏に廃棄を約束していた施設だ。だが、19年2月のベトナム・ハノイでの再会談の物別れ直後、修復を始める動きが衛星で捕捉された。
 ハノイでの物別れを受け、金氏は今回のパレードでの披露も視野に、新型ICBMの開発を本格化させたことになる。米朝首脳が親書をやり取りしてアピールしてきた親交の厚さが、北朝鮮に核・ミサイル開発を思いとどまらせるブレーキには一切ならなかった実態を物語っている。
 金氏は10日の演説でこう強調し、自信を示した。「われわれの軍事力は、われわれの要求通り、われわれの時間表通りに発展速度と質、量が変化している」

ジャンルで探す