オバマ氏からの警告、トランプ氏の行動は民主主義への脅威

オバマ大統領はトランプ氏の行為が民主主義の脅威となっていると厳しい批判を向けた/Getty Images

 オバマ前米大統領が再び政治の演壇に立ち、自身の後継者が米国の民主主義と人種間の正義への重大な差し迫った脅威になっているとの厳しい警告を発した。これは現代の政治の最も驚くべき瞬間の一つとなった。

 そして、さらに驚くべきことに、トランプ大統領がテレビカメラの前で、それを証明してしまった。トランプ氏は不正と位置付けようと既に躍起になっている11月の大統領選挙に不吉な影を落とそうとしている。

 トランプ氏と民主党の大統領候補者指名が予想されるバイデン前副大統領の間の選挙戦は、15万人以上の命を奪った新型コロナウイルスの大流行でかすみ、国民の目から消えてしまった。

 だが、現大統領と前大統領という2人の間の尋常ならざる干渉は、4年に一度使われる決まり文句で言えば、今回の選挙が真に我々の世代の最も重要なものになるということを突如示したことになる。

 7月30日という日は、公職から解き放たれた一人の大統領経験者に劇的な瞬間を与えた。彼は故ジョン・ルイス下院議員の葬儀で、米国のヒーローの生涯を、米国がその約束の実現に向けてたどった長い闘争になぞらえて演説した。一方で、危機に陥り権力を手放したくない現在の最高司令官は、すばらしい発想ではなく、真実を覆い隠すうそと誤った情報に手を伸ばしてしまった。

 オバマ氏の弔辞は、単なる2020年の選挙戦に向けた公の場での最も大きな干渉や、国内外を問わずオバマ氏の達成事項を消すことを最優先にする後継者に対する最も感情あらわな非難というだけではない。

 かつてマーチン・ルーサー・キング牧師が説示した教会でのこのスピーチは、オバマ氏のこれまでの政治キャリアの中で、最も生々しく、明白に、抑制せずに人種に対する考え方を示すものとなった。

 オバマ氏はかつて2008年の大統領選挙で、人種的な偏見について力強く語りかけた。それにより米国民の傷をいやし、また論争の的となったジェレマイア・ライト牧師との関係性に対する追及から自身の選挙戦を守ろうとした。トレイボン・マーティンさん射殺事件での無罪判決で黒人市民が怒った理由を説明した場面や、2015年にサウスカロライナ州チャールストンの教会で起きた銃乱射事件の犠牲者への弔辞で突然アメージンググレースを歌い出した場面では、オバマ氏自身の経験や精神的な内面というプライベートな部分も見せていた。

 だが、今回のオバマ氏のルイス氏への弔辞は、緊迫した、活動家のトーンに満ちていた。癒やしを施す者や、かつて「黒人の米国も白人の米国もない」と宣言した楽観主義者の様相は消えていた。

 これは米国で最初の黒人大統領となったオバマ氏と、オバマ氏の出生地を疑う人種差別的な「バーサー」運動で名が知られ、南部連合の国旗に包まれて再選に挑み、奴隷制存続のために戦った南北戦争の将軍の記念碑を守ろうとする人物との間の衝突を、白日の下にさらした。

 オバマ氏の演説はまた、ジョージ・フロイドさんが警官のひざで首を押さえつけられ死亡した事件後の国民の人種面での覚醒の状況について、トランプ氏が米国が左派の「ファシズム」や「テロリスト」の手中にあると主張し抗議運動への白人による反撃をあおる中、最も顕著に示すものとなった。

 リベラルの人々は、オバマ氏の演説で同氏退任後に失っていた勢いを鼓舞されたような形となった。一方で、トランプ氏をオバマ政権への反撃の手段と見る有権者もこの演説で火が付いた。保守派からは、オバマ氏が葬儀を乗っ取り、分断を深める政治的な演説をしたとの不満がツイッター上で書き込まれた。ルイス氏の生涯を考えると皮肉な見方だ。

 トランプ氏はルイス氏に敬意を示そうと葬儀に出席することはしなかった。同氏はかつて、ルイス氏を「話ばかりで行動しない」と非難していた。だが、共和党のジョージ・W・ブッシュ氏、民主党のビル・クリントン氏の2人の元大統領は出席することを選んだ。

世界を駆け巡ったツイート

 この日は、トランプ氏が大統領選挙を延期する考えを示し、また郵便投票が大規模な不正につながる傾向があるといううそを再び主張するツイートから一日が始まった。このようなツイートはトランプ政権を追ってきた者ならほぼ誰もが予想がつくことだ。

 オバマ氏は、アフリカ系米国人の投票権を得るために死の淵まで暴行を受けた公民権運動のヒーロー、ルイス氏への弔辞の中で、トランプ氏をディープサウス(深南部)の偏見を持つ人物の一派だと直接的に位置付けた。トランプ氏の人種差別をあおるキャンペーンが、共和制への直接的な脅威になっているとする驚くほど明白な言及だった。

 オバマ氏は「(公民権運動を弾圧した)ブル・コナーは去ったかもしれない。だが今日、我々はその目で、警察官が黒人の国民の首をひざで押さえつけるのを目の当たりにしている」と述べ、自身の在任中の大半で守ってきた人種に対する注意深さが裏切られ、公民権運動の時代と「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大事)」の動きがつながっているとの考えを示した。

 「(公民権運動を弾圧した)ジョージ・ウォレスは去ったかもしれない。だが、我々は連邦政府が職員を送り込み、催涙弾や警棒を平和的なデモ行進者に使用するのを目撃している」とも語った。トランプ氏が表明する「法と秩序」の警告への言及だったのは明らかだ。

 「我々はもう、かつてのように投票権を得るために瓶の中のジェリービーンの数を推測するように迫られることはないだろう。だが、今我々がここにいる間にも、権力の座にある者が国民を投票から遠ざけようと、実にひどいことをしようとしている。投票所を閉鎖したり、少数派や学生を制限的な身分確認の法令でターゲットとしたり、我々の投票権を精密な精度で狙い撃ちし、国民が病気にかかるのを防ぐよう郵便投票に頼ろうとしている選挙戦の間近になって、郵便サービスをおとしめることまでしている」(オバマ氏)

 民主党支持者にとって弔辞で最も政治的に重要となった部分と思われるのは、オバマ氏が上院の改革を求め、党派によるゲリマンダー(選挙区を都合よく改変すること)をやめ、国民全員の投票が重要な一票となるようにするべきだと呼び掛けた点だ。

 「神から全ての米国民に与えられた権利を守るため、ジム・クロー法時代の遺物であるフィリバスター(長い演説などによる議事妨害)を排除できるなら、それこそが我々のすべきことだ」(オバマ氏)

「投票用紙が全て消える」

 演説から3時間もたたないうちに、トランプ氏はホワイトハウスの記者会見場に入り、郵便投票を再び非難した。彼は以前と態度を変え、選挙を遅らせたいわけではないと報道陣に主張した。

 「ただ、全ての投票用紙が消えていることに気づくまで3カ月も待たなければいけない事態は避けたい」「賢い人は気づいている。愚かな人は気づいていないだろう。これについて話したくない人もいるだろう」(トランプ氏)

 トランプ氏の先ごろのツイートに対しては、選挙日程を決めるのは大統領ではなく議会だと認識している多くの共和党議員から批判が集まった。

 このツイートには、30日に公表された今年4~6月期の国内総生産(GDP)が年率換算で前期比32.9%減という恐ろしいデータへの注目を減らそうという明らかな狙いがあった。過去最悪の下落率だった。

 だが、だからといって大統領の不正に関するコメントの危険性が減るわけではない。郵便投票が不正に満ちているという信頼に足る証拠はない。それでも、トランプ氏のチームは既に法的に戦う準備を始めている。トランプ氏の批判者は、現時点の各社世論調査で現職大統領が大敗しそうな選挙で、百万単位で票を無効にしようとする取り組みだと語る。

 選挙権の拡大に人生を捧げたジョージア州選出の民主党議員の葬儀の日の朝に、トランプ氏が選挙日の延期にまで自身の主張をエスカレートさせたのは、とても皮肉なことだ。

 大統領の意図を推測するのは難しくない。2期目への挑戦で負けた時に備えて、面目を保てるようなオプションを準備しておきたいのだ。だが、こうした戦術は米国の政治システムに後世まで残る深いダメージを与える恐れがある。選挙への信頼感はどの民主主義でも必要不可欠な基礎となる。トランプ氏が負け、その支持者が不正だったと見る選挙になってしまえば、それは保守派の基盤を勢いづかせ、国家の団結と政権の成功という新たな大統領の希望を損なうことになる。

 30日のトランプ氏の発言はまた、より中道の無党派層の有権者を遠ざける結果になる可能性もある。そして就任以来続いた権威主義的で衝動的な行為の新たな一例ともなった。

「我々は独りで歩いているのではない」

 30日の尋常ではない政治劇は死と病の背景の中で演じられた。トランプ氏が当初無視し、次に政治問題化し、そして管理に失敗した新型コロナウイルスの大流行で、15万人以上の米国民が亡くなった。トランプ氏はホワイトハウスで他国の流行をあざわらうかのように言及したが、そうした国々は感染第1波の封じ込めで彼よりはるかにうまくやってきた。

 それは、トランプ氏のアプローチが先代の大統領たちが示した礼儀や重みとは全くかけ離れたものであることを示した日ともなった。

 「ウイルスはコントロール下にあると言われていたが、再び新たな症例が極めて大きく増加している。誰かがうまくいっているときには、それに関する決定を待たないといけないときもある。発言を抑えなければいけないときもある」「6月初めと比較して、1日当たりの新規感染者はイスラエルで14倍、日本で35倍、オーストラリアで30倍近くに上っている」とトランプ氏は語った。

 トランプ氏のコメントはショックなほどミスリーディングだ。彼が言及した国々は米国よりもはるかに患者数が少なく、感染を抑え込むための事前予防の手段をはるかに講じてきている。

 米国の人口は世界の全人口の4%に過ぎないが、コロナウイルスの感染者は世界の約25%を占め、死者数は最多だ。

 死者数が1000人近い日も続く中、トランプ氏は再び、重大な危機が続く南部サンベルト地帯の州で、早期の経済回復と患者数の急速な減少に関する誤解を与える発言をした。

 他方オバマ氏は、ルイス氏の人生から得た教訓として、政治とは自己満足や恐怖に打ち勝つ仕事なのだと訴えた。

 「それが真の勇気の源となる。互いに攻撃しあうのではなく、互いに向き合うこと。憎悪や分断の種をまくのではなく、愛と真実を広めること。より良い米国とより良い世界を作り出すという我々の責務を回避するのではなく、そうした責務を喜びと忍耐を持って担い、最愛のコミュニティーを我々は独りで歩いているのではないと気づくことだ」とオバマ氏は語り掛けた。

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 本稿はCNNのホワイトハウス担当スティーブン・コリンソン記者による分析記事です。

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