プライベートなメールや画像をスキャンするEUの「チャット規制法」成立が秒読みか、メッセージアプリ「Signal」はEU離脱を示唆
EUでは、児童性的虐待防止を目的に通話やメール、メッセージなどのスキャンを企業に義務付ける「Chat Control(チャット規制法)」の議論が進んでいますが、この法律は専門家や有識者、活動家などからプライバシーを損ない児童福祉にも逆効果であるとして批判されています。法案反対派の牙城とされてきたフランス当局が、スキャンに同意しなければメッセージが送れなくなる「アップロード・モデレーション」を含む妥協案を採用する方針をまとめたことを受けて、プライバシーに特化したメッセージアプリのSignalが、法律が成立した場合はEU市場から撤退すると表明しました。
Interne Dokumente: Frankreich entscheidet über Zukunft der Chatkontrolle
https://netzpolitik.org/2024/interne-dokumente-frankreich-entscheidet-ueber-zukunft-der-chatkontrolle/
Majority for chat control possible – Users who refuse scanning to be prevented from sharing photos and links – Patrick Breyer
https://www.patrick-breyer.de/en/majority-for-chat-control-possible-users-who-refuse-scanning-to-be-prevented-from-sharing-photos-and-links/
Audio communications excluded in latest draft of child sexual abuse material law – Euractiv
https://www.euractiv.com/section/law-enforcement/news/audio-communications-excluded-in-latest-draft-of-child-sexual-abuse-material-law/
2021年に欧州議会によって承認された「児童性的虐待の防止と撲滅のための規制(Regulation to Prevent and Combat Child Sexual Abuse)」、いわゆるチャット規制法とは、オンラインサービスのプロバイダーに児童性的虐待コンテンツ(CSAM)の検索と報告を義務付ける法律です。
プライベートなメッセージや写真が第三者によって閲覧されることになるこの法律では、特にエンドツーエンド暗号化の解除の義務化に対する批判が強かったことから、欧州議会は2023年に無差別スキャンを撤廃し暗号化通信を保護する修正案を採択していました。
また、欧州人権裁判所は2024年2月に、別の訴訟で「政府がメッセージアプリ開発者に対してのエンドツーエンド暗号化の解除を可能とする仕組みの導入を求めることは人権侵害に値する」との判決を下して、通信の暗号化を維持する欧州議会の決定を支持しました。
メッセージアプリのバックドア義務化は政府の監視を強化し人権侵害につながると欧州人権裁判所が判断 - GIGAZINE
ところが、2024年5月31日にリークされた欧州議会の内部文書により、フランスが拒否権を放棄して妥協案の支持に回る可能性が高いことがわかりました。ドイツとともに、チャット規制法による広範な検閲の阻止に動いていたフランスが反対派から離脱することで、規制の推進に弾みがつく可能性があります。
ドイツのニュースサイト・netzpolitik.orgが公開した作業部会の資料によると、新しい修正案には、画像や写真、動画をスキャンし場合によっては通報することへの同意を求める「アップロード・モデレーション(アップロード適正化)」が盛り込まれているとのこと。
ユーザーがスキャンの許可を拒否した場合、画像などのファイルやリンクの送受信がブロックされることになります。また、SignalやWhatsappといったエンドースメント暗号化サービスは、メッセージの送信前に自動検索を実施しなければなりません。
さらに、今回の協議では治安当局や軍の関係者を規制対象から除外することも提案されましたが、これはフランスの支持を取り付けるための譲歩だとみられています。
チャット規制法に反対している欧州議会議員であるパトリック・ブレイヤー氏(ドイツ海賊党)は「行き詰まりつつあったチャット規制法が、最終的にEUによって採択される可能性があります。フランスは抵抗を諦めようとしており、妥協案にはスキャンに同意しないと写真や動画、リンクの共有ができなくなることが盛り込まれました」と述べました。
また、これを受けてSignalを開発している非営利団体・Signal Foundationのメレディス・ウィテカー社長は「Signalはこの法案に強く反対します。はっきりさせておきますが、私たちはプライバシーの保証を損なうくらいなら、EU市場から離脱します。この法案が可決され、私たちに向けて施行されれば、私たちはこの選択を迫られることになります。これは安全というボトルに詰められた監視という名のワインです」と述べました。
Signal strongly opposes this proposal.
Let there be no doubt: we will leave the EU market rather than undermine our privacy guarantees.
This proposal--if passed and enforced against us--would require us to make this choice.
It's surveillance wine in safety bottles. https://t.co/i8D4Mlcrgd— Meredith Whittaker (@mer__edith) May 31, 2024
06/04 15:00
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