「Apple Vision ProはMeta Quest 3よりも光学系の性能が低い」という主張は本当なのか?


ヘッドセットのディスプレイには物理的な解像度がありますが、レンダリング方式や様々な表示処理の影響で、最終的に目に映る解像度はスペックとは異なってきます。ユーザーが実際に目にする解像度のことを「実効解像度」と呼びますが、Apple Vision ProとMeta Quest 3の実効解像度について、VRエンジニアのマックス・トーマス氏が解説しています
[Segmentation Fault]
Apple Vision Pro has the same effective resolution as Quest 3…Sometimes? And there’s not much app devs can do about it, yet.
https://douevenknow.us/post/750217547284086784/apple-vision-pro-has-the-same-effective-resolution
VR系関連の情報を扱うブログ・KGOnTechは「Apple Vision Proの光学系はMeta Quest 3よりもぼやけており、コントラストが低い」と主張しています。KGOnTechは1080pの白黒テストパターンを使って検証を行い、「Meta Quest 3の方がApple Vision Proよりも鮮明でコントラストの高い画像表示が可能」と論じています。また、テストパターンの表示から、Apple Vision ProがMeta Quest 3よりもぼやけて見えることから、Apple Vision Proの光学系やディスプレイ性能はMeta Quest 3よりも低いという見解を示しました。


しかし、トーマス氏はKGOnTechの主張に一定の理解を示しつつも、Apple Vision Proの視覚的品質には光学系以外の要因も大きく影響していることを強調しています。
Apple Vision Proのレンダリングには、レンダリング性能を最適化する「可変ラスタライズレート(VRR)」と呼ばれる技術が使われています。通常3Dシーンをレンダリングする際、シーン全体が一様な解像度でラスタライズされますが、VRRを使用すると、ユーザーの視線の先にある重要な領域を高解像度で、周辺領域を低解像度でレンダリングする中心窩(か)レンダリングが可能になります。
VRRの主なメリットは、計算コストの削減、メモリ帯域幅の削減、レンダリング時間の短縮、および視覚的品質の維持です。人間の目は視野の中心部に集中するため、周辺部の解像度を下げても知覚される視覚的品質はあまり低下しません。中心窩レンダリングによってGPUの負荷を軽減でき、メモリ帯域幅を節約できます。また、シーン全体を高解像度でレンダリングするよりも、一部の領域を低解像度でレンダリングする方が高速です。
以下の画像の左側が視野の中心部、右が視野全体。VRRでは左側の領域だけ高解像度でレンダリングし、それ以外は低解像度に抑えるので、実効解像度は高いままで処理負荷を抑えることができるというわけです。


トーマス氏はRealityKitを使って視覚的品質をテストするベンチマークツールを開発。実際にベンチマークツールをApple Vision Proで使っている様子は以下のムービーで見ることができます。
Tuff Test Tracked Mipmaps - YouTube

このツールを使って再検証を行ったところ、KGOnTechによる検証は動的フォビエーションレンダリング(DFR)ではなく固定フォビエーションレンダリング(FFR)での結果ではないかとトーマス氏は推測しています。Apple Vision Proはアイトラッキングが可能で、ユーザーの視線を追跡して中心窩レンダリングを行う動的フォビエーションレンダリング(DFR)を行うことができます。しかし、KGOnTechの示した検証結果はFFRでの時の見え方とほぼ同じだったとのこと。そのため、Apple Vision Proにおける実際のユーザーエクスペリエンスとは異なる可能性があります。
トーマス氏によると、30インチ(約76cm)離れたところから28インチサイズの1080pパネルを見る場合では、Apple Vision ProとMeta Quest 3の実効解像度は同じだったとのこと。また、DFRが可能なApple Vision Proだと、目と頭の動きによってはApple Vision Proの方がテキストを鮮明に認識できることもあったと述べています。これは、Apple Vision Proのハードウェア性能がMeta Quest 3に劣らない性能であることを示しているとトーマス氏は主張しました。
トーマス氏は、Apple Vision Proの視覚的品質を適切に評価するためには、光学系だけでなく、レンダリング方式やミップマッピングなどの要因も考慮する必要があると主張しています。トーマス氏によれば、Apple Vision Proのレンダリング解像度は1920x1824ピクセルと低めになっているため、ミップマッピングによる視認性の低下が起こりやすくなっているとのこと。


トーマス氏は、Apple Vision Proのレンダリングスタックがミップマッピングやサンプリングの制御に関して洗練されていないことを指摘し、Apple Vision Proでの視認性低下がソフトウェアの問題に起因しており、単に光学系の性能だけで視覚的品質を判断することは適切ではないと論じています。また、ソフトウェアの問題であれば、今後十分に改善の余地があると述べました。

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