「どこでケーブルが曲がったか」を知ることができるセンサーが開発される


アメリカ・ルイビル大学のポール・ビュープ・ジュニア氏が、ケーブルがどこで曲がったのかを検知できるセンサー「OptiGap」を開発しました。OptiGapはビュープ氏の博士課程での研究中に生み出されたとのことで、どのようにしてOptiGap開発に至ったのかを本人が解説しています。
"A modular framework for surface-embedded actuation and optical sensing" by Paul Bupe Jr
https://ir.library.louisville.edu/etd/4213/
R&D Case Study: Developing the OptiGap Sensor System | Paul Bupe, Jr
https://paulbupejr.com/developing-the-optigap-sensor-system/


OptiGapのアイデアは、さまざまな光ファイバーを通る光を効果的に遅くする方法を研究していた際に生まれたとのこと。ビュープ氏は3Dプリンターでの出力で用いられる直径1.75mmの透明なフィラメントを実験用の巻尺に取り付け、絶縁性のテープを取り付けた場所で巻尺とフィラメントを曲げると、光の透過率が大幅に低下することを発見しました。


ビュープ氏は「この結果は、絶縁性テープの粘着性を持った残留物がフィラメントを伸ばしたことによるものではないか」との仮説を立てました。ビュープ氏はこの仮説を検証するために、長いポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)を巻尺に取り付け、さまざまなポイントでそれらを曲げて、光の透過率がどのように変化するかを観察しました。
実験に際してビュープ氏はRaspberry Piを用いてToFセンサーのVL53L0Xを起動。Pythonで大まかなGUIを作成し、VL53L0Xが取得した光透過データをリアルタイムで可視化しました。実験の結果、TPUを取り付けた巻尺を曲げると光の透過率が大きく変動するというビュープ氏の仮説が証明されました。


さらにビュープ氏は、光の透過率が減衰する場所を制御できるため、これを使用してセンサーの曲がりの位置に関する情報をエンコードできることを発見。検証のためビュープ氏はフィラメントを切断し、これらの間にシリコンスリーブを挟み再接着して、フィラメントの間に小さなエアギャップを作成しました。


ビュープ氏によると、1方向から光を照射した場合、フィラメントを曲げる角度が大きくなるにつれてエアギャップを通って逃げる光が多くなるとのこと。ビュープ氏はこの性質を利用して、エアギャップから逃げずに終端に届いた光の強度を測定しました。


またビュープ氏は、複数のエアギャップを設けたフィラメントを作成し、それを曲げることで光透過率の減衰を測定しました。


すると、光の透過率がエアギャップを通る度に減少し、その度合いはフィラメントの曲げ角度が大きくなるにつれて顕著になりました。この結果を基にビュープ氏は「エアギャップのパターンを利用してセンサーの曲がりに関する情報をエンコードし、マイクロコントローラーからなる単純ベイズ分類器を使用して、フィラメントの曲げ位置をデコードできる」という仮説を立てています。


ビュープ氏によると、曲げ位置のエンコードには2つの連続する値が最大ビット数だけ異なるバイナリシステムの「逆グレイコード」が用いられているとのこと。また、単純ベイズ分類器を採用することで、センサーが光信号のパターンに基づいて曲げ位置を識別することができるそうです。
「OptiGap」と名付けられたこれらのシステムの開発では、まず3本のフィラメントを1本のケーブルにまとめるプロトタイプが作成されました。しかし、3Dプリンター用のフィラメントは大きくてかさばるという問題点があったことから、直径500マイクロメートルのプラスチック製の光ファイバーケーブルが代わりに採用されました。


さらに、VL53L0Xを使ったシステムから複雑さを軽減するため、シンプルなフォトダイオードと赤外線発光ダイオードのセットアップに切り替えられました。また、マイクロコントローラーを使用してセンサーのデータを読み取ることで、当初のプロトタイプよりも大幅に小型化が進みました。


ビュープ氏が作成したOptiGapのデモシステムがこんな感じ。


このシステムを使うことで、ケーブルの曲がった位置を数値で表現することが可能になりました。


また、水中でもこのシステムが動作することも示されています。


なお、記事作成時点でビュープ氏はOptiGapの商業化を進めているとのことです。

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