「Apple Car」開発プロジェクト年表、誕生から頓挫まで

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2014年からその存在が示唆されていたAppleの電気自動運転車「Apple Car」開発プロジェクト、通称「プロジェクト・タイタン」は、日の目を見ることなくキャンセルされてしまったと伝えられています。そんなプロジェクト・タイタンの歴史について、テクノロジー系ジャーナリストのウェス・デイヴィス氏が解説しています。
Crash of the Titan: a short history of Apple’s doomed car project - The Verge
https://www.theverge.com/2024/3/3/24085995/apple-car-project-titan-timeline-driverless-ev-doomed

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◆2008年
「Appleが電気自動車の分野に進出しようとしている」と最初に報じられたのは2014年2月のことでしたが、デイヴィス氏いわく2008年から参入の動きが見られていたそうです。このとき、後に電動ゴーカートのActev Motorsを立ち上げるトニー・ファデル氏がスティーブ・ジョブズ氏とApple Carのアイデアを出し合っていたようですが、ファデル氏いわく「お互いクールな計画だと思ったんですが、iPhoneをリリースしたばかりで忙しすぎるということで意見が一致しました」とのことです。
◆2015年
2015年2月頃から、Apple本社近くのカリフォルニア州サンフランシスコで「ルーフに巨大なセンサーを取り付けた自動運転車」が走行する姿が目撃されるようになりました。これについてはウォール・ストリート・ジャーナルなど各社が「Appleの自動車だ」と指摘し、その後すぐに自動運転車開発プロジェクトのプロジェクト・タイタンの存在が示唆されるようになりました。さらに一部では「Appleの自動車は2020年にデビューする」とのウワサも立つこととなりました。
5月には、Code Conference 2015に出席したAppleのオペレーション担当ジェフ・ウィリアムズ氏の口から「自動車は究極のモバイルデバイスです」との発言が飛び出し、まだウワサでしかなかったApple Carの方向性を示唆するような言葉だったと捉えられる事態に。一方で6月には「以前目撃された自動車は地図アプリ用だった」とAppleが公式に説明し、市場の期待はやや落ち着きました。
ところが、7月には「ティム・クックCEOがBMW本社を訪問していた」と報じられ、自動車開発への期待が再燃することに。報道によると「クックCEOら幹部はBMWがどのように自動車を製造しているのかを知りたがっていた」とのことで、特に同社が開発していた小型電気自動車「i3」に強く関心を示していたことが伝えられました。また、同じく7月にはトヨタや日産などで品質管理を歴任した人材をAppleが雇用したとも報じられており、8月にはAppleが広大な走行試験場と交渉しているとの報道もありました。
9月、ウォール・ストリート・ジャーナルが、「Appleが2019年に自動車を出荷する見込みで、当初の600人体制から3倍に増やした」と報道。同月、カリフォルニア州陸運局が、自律走行車規制について検討するためAppleと会談したことを認めました。
10月初旬、テスラのイーロン・マスクCEOが「Appleはテスラのダメ社員を引き抜いている」と発言し物議を醸します。19日から21日にかけて開催されたウォール・ストリート・ジャーナルのイベントにはクックCEOが登壇し、「いま私たちが手がけていることは将来明らかになるでしょう。自動車業界はいま大きな変化を迎える岐路にさしかかっていると考えています。これは単にこれまでの進化の流れにとどまる変化ではありません」と力説。具体的なプロダクトの存在は認めなかったものの、自動車関連製品に取り組んでいることを示唆しました。20日、電気オートバイの新興企業であるミッション・モーターズの関係者が、Appleの積極的な引き抜きによって自社が倒産したと主張。また26日にはAppleが人工知能のエキスパートをNVIDIAから引き抜き、自動運転車開発チームに割り当てたのではないかと伝えられました。
2015年秋には、クックCEOとAppleデザイナー(当時)のジョニー・アイブ氏が「Siriを搭載した自動車に乗るとどのようになるか」という奇妙なデモを実施したとニューヨーク・タイムズが報道。同紙によると、2人は車を模したキャビンのような室内のシートに腰を下ろし、近くに待機していた声優が演じるSiriに向かってレストランの場所を尋ね、俳優に答えを読み上げさせたとのことです。

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◆2016年
1月、Appleの関係者とみられる人物が「apple.car」「apple.cars」「apple.auto」のドメインを取得したことが判明します。同じ頃、Apple自動車プロジェクトの責任者とされていたスティーブ・ザデスキー氏が退社し、ポストが空席になったことも明らかになります。2月にはクックCEOが「Apple Car」の開発を示唆。3月にはカリフォルニア州にあるAppleの建物から「謎のノイズ」が聞こえはじめ、これがApple Car開発と結びつけられるというやや奇妙な出来事も発生しました。
順調に進んでいるように見えたプロジェクト・タイタンですが、4月にはドイツのメディアにより「BMWがAppleとの協議を断念した」と報じ、行き先に不安を生じさせることに。報道によると、Appleがソフトウェアを自社のプラットフォームに組み込もうとしたことが、BMWのデータ保護を優先する戦略と合致しなかったようです。4月20日には、テスラの自動車エンジニアリング部門の元ヴァイス・プレジデントだったクリス・ポリット氏をAppleが雇用したと伝えられました。また4月26日にはフォードのCEOが「Appleは自動車を開発している」と断言しています。
5月、Appleが電気自動車の充電ステーションについて調査中とロイターが報道。7月22日、Apple Carの発売時期が2021年にずれ込むとThe Informationにより報じられました。また7月26日には「MacBook Air」や「iMac」「iPad」などのハードウェアエンジニアリングを手がけてきたボブ・マンズフィールド氏がプロジェクト・タイタンの責任者になったと伝えられています。その後7月29日、Appleが自動車本体の開発と平行して自動車用ソフトウェアの開発にもリソースを向け始めていると伝えられました。このときもまだApple Carの存在は公式に認められていませんでしたが、シリコンバレーでは「公然の秘密」とされていたそうです。
9月、Appleがプロジェクト・タイタンへのアプローチを再考するため、数十人の従業員を解雇したと報じられます。同月末にはAppleがイギリスのスーパーカー企業マクラーレンと自動バランスバイクの新興企業リット・モーターズの買収を考えているというウワサが流れましたが、どちらも実現せず。10月にはクックCEOが「自動車開発はソフトウェアへの一本化を目指している」と発言したとの報道がなされました。
一方その頃、掃除機メーカーのダイソンが電気自動車を開発中と報じられましたが、これは2019年に中止に。2016年12月にはGoogleが進めていた自動運転車プロジェクトが企業として独立することが明らかになり、こちらは2024年になっても開発が継続されています。
Googleの自動運転車プロジェクトが新会社「Waymo」として独立 - GIGAZINE

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◆2017年
2017年4月、カリフォルニア州陸運局が「自律走行技術を搭載した自動車を公道で走行させる許可」をAppleに付与。走行を許可されたレクサスRX 450hがシリコンバレーを走行する姿が目撃されています。6月にはクックCEOが「Appleは自律運転システムに注力しています」と語り、ついにApple Carの存在を認めました。
10月には再びレクサスSUVが目撃され、4月に目撃された間に合わせの装置ではなく「白いプラスチックに包まれたセンサーの集合体」が搭載されていることが明らかに。12月にはAppleのAIディレクターを務めるルスラン・サラハトディノフ氏が、レーザーを使って周囲の物体との位置関係を把握する「LiDAR」と呼ばれる技術など、Appleが使用している技術について詳しく解説しました。
AppleのAIディレクターが開発中の自動運転車関連技術について語る - GIGAZINE

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◆2018年
1月、Appleが使用している開発用車両が約30台にまで増加していることが判明。4月には「ドライバーには見えない部分」をARで表示する技術の特許をAppleが出願しました。5月にはAppleがフォルクスワーゲンと手を組んだことが明らかになり、フォルクスワーゲンのバン「T6」を自動運転シャトルに改造し、Appleの従業員が社屋間を移動する際に使用すると報じられました。また6月には「ドライバーの意図をくみとって駐停車できる自動運転車技術の特許」をAppleが出願しています。
7月、プロジェクト・タイタンに関わっていたAppleの従業員、Xiaoloang ZhangがAppleの機密情報を盗み出した容疑で逮捕されます。
8月には、高速道路に合流しようとしたテスト車両に別の普通車が追突する事故が発生。これがプロジェクト・タイタン史上初の事故となりました。報道によると、Appleのテスト車両が時速1マイル(時速約1.6km)で走行していたところ、時速15マイル(時速約24km)で走行していた日産車が追突したとのこと。幸いにも怪我人は出なかったそうです。

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◆2019年
2019年1月、Appleが「機械学習やその他のイニシアチブをサポートするため」に200人規模の人員整理を行い、プロジェクト・タイタンが縮小。また同月末にはプロジェクト・タイタン史上2人目の逮捕者が出ました。
2月、Apple CarにiPhoneでの認証と支払いが組み込まれる可能性があるとAppleInsiderが報道。同月末にはAppleが190人の従業員をレイオフし、プロジェクト・タイタンにも影響が出たと報じられました。
6月、Appleはアップルは自律走行スタートアップのDrive.aiを買収。Drive.aiはスタンフォード大学の研究者によって設立され、テキサス州で小規模な自動運転シャトルサービスを運営していた企業でした。その後7月には自動車に関連する「加圧ガスを使って拡大・縮小するバンパー」の特許がAppleから出願されています。11月、iPhoneなどのデザインを手がけたジョナサン・アイブ氏がAppleを退社し大きな話題に。Apple Carとの関連性は明確にされていないものの、多くの意見を出していたと伝えられています。
iPhoneなどのデザインを手がけてきたジョナサン・アイブが独立して新会社「LoveFrom」を設立へ - GIGAZINE

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◆2020年
2020年12月、Appleがプロジェクト・タイタンの責任者をSiriと人工知能の責任者であるジョン・ジャナンドレア氏に委任したと報じられます。このころから、著名アナリストらにより「Apple Carの登場は2024年または2025年になるだろう」との予測が立てられるようになりました。
◆2021年
1月、プロジェクト・タイタンに数十人の元テスラ社員が所属しているとBloombergが報道。その後すぐに「Appleの自動運転車製造をヒュンダイ(ヒョンデ)とその子会社の起亜自動車が担当する」と韓国のKorea IT Newsが報じています。日を経ずしてAppleが電気自動車メーカーのCanooを買収しようとしていたことがわかり、2月にはAppleがポルシェのシャーシ開発責任者を雇用したと報じられました。
2月3日、Korea IT Newsに続きCNBCも「ヒョンデと起亜自動車が製造を担う」と報道しましたが、その約1週間後の2月8日にヒョンデと起亜自動車が報道を否定しています。
4月、クックCEOが自動運転車やARグラス開発などについてインタビューで語りました。前者については「自動運転車の一歩前を行く自律型システムこそがコアテクノロジーだと考えています」と発言し、後者については「Appleの将来にとっても非常に重要な部分をARが担う可能性があります」と言及するにとどめています。後者は、後に世界中の話題をかっさらう「Apple Vision Pro」の伏線だったと考えられています。
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2021年6月、Appleが電気自動車用バッテリーの供給について2社と協議中であるとロイターが報道。同じ頃、Appleがウォレットアプリに運転を統合しようとしているとも報じられました。なお、免許証の実装については9月に対象地域が発表され、翌年3月に利用可能になっています。
2021年7月にはApple Watchの開発に携わったケビン・リンチ氏がプロジェクト・タイタンに加わるとの報道があった一方で、9月にはプロジェクト・タイタンの事実上の責任者だったダグ・フィールド氏がAppleを離れることが発表されるなど環境が大きく変化しました。なお、後任にはリンチ氏が就いています。
11月、Appleが元テスラ社員のクリストファー・ムーア氏を雇用し、自動運転ソフトウェアの開発に従事させることが判明します。
◆2022年
5月、ムーア氏が退職。
6月、Appleの開発者向けイベント「WWDC22」で次世代バージョンのApple CarPlayが発表され、車のダッシュボード全体を覆うようなディスプレイの活用ができるようになることが明らかにされました。
7月、The Informationがプロジェクト・タイタンの内部情報をまとめたレポートを公開し、プロジェクトチームの苦悩や、外部チームのプロジェクト・タイタンに対する懸念などが白日の下にさらされました。
Appleの自動運転車開発について暴露したレポートが公開される - GIGAZINE

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by Automobile Italia
2022年9月、コンサルティング企業の調査により、発売前のApple Carが発売済みのテスラ以上に注目を集めていることが判明。12月、Appleがプロジェクト・タイタンを再び縮小し、当初の計画よりも自動運転機能の性能を下げる可能性があると報じられます。同じ報道では、Apple Carの価格が1400万円未満になり、発売は2026年になるとも伝えられました。
◆2023年
5月、Appleの自動運転技術を盗んだ疑いで司法省がAppleの元エンジニアを起訴。プロジェクト・タイタンに関する逮捕者はこれで3人目となりました。7月にはテストドライバーチームの規模が拡大されていたことが明らかになりましたが、2023年はほとんどApple Car関連の情報が出てこない1年となりました。
◆2024年
1月、Bloombergが「Apple Carの発売が2028年に延期された」と報道。さらにその数日後、プロジェクト・タイタンの立ち上げに尽力したハードウェア担当重役のDJ Novotney氏が電気自動車メーカーのリヴィアンに移籍することが判明します。2月2日にはカリフォルニア州陸運局から「2023年11月までの1年間で、Appleが45万マイル(約72万km)以上の自動運転走行を成し遂げた」との報告が上げられ、この距離は前年を大幅に上回るものだと期待されましたが、この報告から1カ月も経過しないうちに、Bloombergによって「プロジェクト・タイタンがキャンセルされた」と伝えられることとなりました。
Appleが自動運転車開発プロジェクトをキャンセルしたとの報道、10年以上の開発に終止符か - GIGAZINE

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