VRヘッドセットを装着しながら日常生活を送ることは可能なのか?

VRヘッドセットを装着しながら日常生活を送ることは可能なのか? - 画像


Apple Vision ProやMeta Quest 3などのヘッドセット型デバイスは、内蔵しているカメラで撮影した周囲の映像をディスプレイに映すことで、ヘッドセットを装着している状態でも周りの状況が確認できる「パススルー」モードを搭載しています。このパススルーモードを搭載したデバイスを装着しながら生活を送ることができるのかについて、スタンフォード大学のジェレミー・ベイレンソン教授の率いる研究チームが学術誌「Technology Mind and Behavior」で結果を発表しました。
Seeing the World through Digital Prisms: Psychological Implications of Passthrough Video Usage in Mixed Reality | Virtual Human Interaction Lab
https://vhil.stanford.edu/publications/immersionpresence/seeing-world-through-digital-prisms-psychological-implications
Please don't wear the Apple Vision Pro while driving, study urges, but buying coffee with VR is an 'exciting novelty' | Live Science
https://www.livescience.com/technology/virtual-reality/please-dont-wear-the-apple-vision-pro-while-driving-study-urges-but-buying-coffee-with-vr-is-an-exciting-novelty
Apple Vision Proはパススルー映像の精度が高く、実際にApple Vision Proをつけたまま外出したり車の運転を行ったりする人が登場しています。
街中でApple Vision Proを使用するひと足先に行ってしまったユーザーの目撃例が続々報告される - GIGAZINE

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しかし、こうしたパススルー映像は必ずしも現実を忠実に表示しているわけではないので、車の運転中に装着するのは非常に危険。アメリカのピート・ブティジェッジ運輸長官はX(旧Twitter)で「Apple Vision Proを装着したまま車を運転しないように」と警告を発しています。
Reminder—ALL advanced driver assistance systems available today require the human driver to be in control and fully engaged in the driving task at all times. pic.twitter.com/OpPy36mOgC— Secretary Pete Buttigieg (@SecretaryPete) February 5, 2024
そこで、ベイレンソン教授ら11人の研究者は、VRヘッドセットをパススルーモードで数時間装着した上で、コミュニケーションや読書、食事、その他の活動を行い、「パススルー対応のVRヘッドセットを長時間装着して日常生活を送ることができるのか」を検証しました。
以下のムービーでは、実際に実験の参加者がMeta Quest 3を装着しながらさまざまな活動をする様子を見ることができます。
Psychological Implications of Passthrough Video Usage in Mixed Reality - YouTube

実験の参加者はMeta Quest 3を装着しながら、普段の生活を送ります。

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視界はこんな感じ。フルカラーかつ解像度も十分で、本の背表紙に書かれた細かい文字も読めるほど。ただし、視界の一部にゆがみが生まれてしまっています。

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人間の標準的な水平視野角(灰色)は200度ですが、Meta Quest 3(青色)だと110度になります。垂直視野角(灰色)は標準だと130度なのに対して、Meta Quest 3(青色)は96度。つまり、Meta Quest 3を装着した状態だと視野はかなり狭くなってしまいます。実際に周辺視野自体は半減してしまう

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それでも、Meta Quest 3をつけたままでも、ホワイトボードにお絵描きすることは可能。

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参加者はMeta Quest 3を装着したまま外出もしました。

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視野が狭くなるうえにゆがみもあるため、奥行きなどがよりわかりづらく、ハイタッチもなかなかうまくできないようです。

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食事でスプーンを口元に運ぶ際も、以下のように視界にゆがみが発生してしまいます。VRデバイスを装着していると頭の動きに顕著なタイムラグが生まれるそうで、至近距離での距離を正確に判断することができないため、食事をしたり近くの物に触れたりするような簡単な作業も複雑になってしまうとのこと。

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自身も参加者としてMeta Quest 3を装着する生活を送ったベイレンソン教授は、スプーン一杯の食べ物を口に入れる時など、時間や空間に左右されないタスクや失敗した場合の影響が軽微なタスクでは、パフォーマンスにギャップはあるものの、体験自体は楽しいものだったと報告しています。ただし、階段を下りるときや車を運転するときなど、空間認識が求められる重要な場面ではパススルーの不完全さが問題になると論じています。
参加者はMeta Quest 3を長時間装着する中で、視界のゆがみや遅れを補正することを学んだそうですが、研究チームは「長期間の使用は過剰補正を引き起こす可能性があります」と指摘し、デバイスをいきなり長時間装着するのではなく、徐々に慣れていきながら装着時間を伸ばしていくべきだとしています。
ベイリンソン教授は「ユーザーやVRヘッドセットのメーカーは、ユーザーが十分な休憩を取り、VRヘッドセットを装着する時間を短縮できるようなコントロールと方法をデバイスに組み込むべきです」と主張しました。

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