AppleがiPhone 15 Pro Maxで発表イベントを撮影したという事実から学べるポイントを現役カメラマンが解説

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Appleが2023年10月31日に開催した新製品発表イベントは、すべてiPhone 15 Pro Maxで撮影されたことで話題になりました。さまざまな映画に携わった映像制作者でありカメラマンであるスチュ・マシュヴィッツ氏が、AppleがiPhone 15 Pro Maxでイベント映像を撮影した手法について解説しています。
What Does and Doesn’t Matter about Apple Shooting their October Event on iPhone 15 Pro Max — Prolost
https://prolost.com/blog/scarybts
Appleの製品発表イベントはすべてiPhone 15 Pro Maxで撮影されており、Appleは使用された機材や撮影の様子を公開しています。
Appleの製品発表イベントはiPhone 15 Pro Maxで撮影されていた、一体どんなアプリや機材で美麗映像を実現したのか? - GIGAZINE

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Appleの撮影現場では、高機能カメラリグやクレーンなど、プロが使用するような機材を使って撮影されていました。マシュヴィッツ氏は「『iPhoneで撮影しました』というAppleの説明は、あなたにも撮影できるということを約束するものではありません」と述べています。ただし、高い機材を使うことが必ずしも素晴らしい映像を撮影するために必要とはいえません。

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マシュヴィッツ氏は、映像クリエイターのブランドン・リー氏が自身の映画撮影の様子を公開している以下のムービーを紹介しています。
How to shoot FIGHT and CHASE Scenes - Hollywood Tricks & Tips [Zhiyun Weebill 3s + X100] - YouTube

Appleの撮影現場では、ハイエンドのカメラリグやレールを使って撮影が行われました。しかし、こうした機材はあくまでも重いカメラを使ってスムーズな映像を撮るために必要な機材であり、iPhone 15 Pro Maxのような軽いカメラの場合は必要がない、とマシュヴィッツ氏は述べています。
一方、リー氏は夜の繁華街で人物を撮影する様子が以下。撮影用の照明は携帯型のLED照明2つで、撮影カメラは手持ちジンバルに一眼レフと、かなり簡素な装備。

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また、リー氏はジンバルに長い1脚を取り付けることで、手持ちでありながらクレーン撮影のような映像を撮影しています。

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かなり乱暴な撮影方法に見えるかもしれませんが、ジンバルで手振れはかなり抑えられているので、十分クオリティの高い映像が撮影できています。

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iPhone 15 Pro Maxでさまざまな撮影をするにはジンバルや三脚などの機材を使うこともありますが、基本的には民生品で十分であり、Appleがイベント撮影のために使っていたような高級で大がかりな機材は必要としないとマシュヴィッツ氏は述べています。
さらにAppleはiPhone 15 Pro Maxでの撮影には純正のカメラアプリではなく、「Blackmagic Camera」という無料アプリを使っています。Blackmagic Cameraは撮影解像度やコーデック、色空間など細かく設定することができ、Appleのイベント映像はApple Logで撮影されていました。Blackmagic CameraはカラーグレーディングのプリセットであるLUTをプレビューに適用しながらLog撮影ができるのが純正のカメラアプリと大きく違うポイントです。

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また、マシュヴィッツ氏は「Blackmagic Cameraの優れた機能の一つは、まるでシネマカメラのようにシャッター速度を角度で表現できるということです」と述べています。
一般的にカメラのシャッター速度はフィルムへの露出時間を意味するため、「60分の1秒」「200分の1秒」というように秒単位で表わされます。しかし、フィルムのシネマカメラは半円を回転させるようにしてシャッターを切っていたことから、映画業界では1フレーム当たりにシャッターが何度回転するかという「シャッター角度」が使われます。
連続する映像を撮影する場合においても、シャッター速度の設定が非常に重要です。例えば、24FPS(フレーム毎秒)で映像を撮影した時、シャッター速度を48分の1秒に設定すると、シャッター角度は180度になります。映像業界にはシャッター角度を180度にするとちょうどいいという「180度シャッターの法則」という経験則があり、シャッター角度を180度よりも大きくすると映像のブレが大きくなり、180度よりも小さくすると映像のブレが小さくなるとのこと。つまり、撮りたい映像に合わせてシャッター角度を調整する技術が非常に重要というわけです。
映像の露出は「レンズの絞り」「ISO感度」「シャッター速度」の3つで設定できます。iPhone 15 Pro Maxのレンズには可変絞りがないので、露出を制御するためにはISO感度とシャッター速度を調整するしかありません。
Appleは巨大な照明機材を使いながらも「この作品自体は低照度で撮影している」と述べています。通常、レンズに入ってくる光量自体を制限するにはNDフィルターを使用する必要がありますが、マシュヴィッツ氏はAppleがNDフィルターを使用した様子はないと指摘しています。

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そこでマシュヴィッツ氏は、Appleは画質を優先してNDフィルターの使用を避け、ISO感度を低く設定して撮影していたのではないかとみています。ISO感度を低くすると画面の明度は下がってしまうものの、ノイズは低減されます。マシュヴィッツ氏によれば、iPhone 15 Pro Maxのダイナミックレンジを最大限生かすのであればISO感度は1100~1450が最適だそうで、それでもISO感度を低くしたのは、Appleがダイナミックレンジよりも低ノイズを優先したのではないかと推測しています。
もちろん低照度で撮影するというAppleのやり方が、iPhone 15 pro Maxで映像を撮影する最適解だというわけではありません。ISO感度を適度に設定したり、光を当てる方向や色を調整したりするだけでも十分印象的な映像を作り出すことができます。

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マシュヴィッツ氏は「照明はただ照らすだけではなく、光源のバランスを取るプロのスキルが必要です。写真とは光に他なりません。文字通り、写真は光だけで構成されているのです。誕生日の風景も結婚式の記録も、写真になる前にただの光に還元されます。光を適切に当てることは撮影にとって他の何よりも重要です」と述べています。
もちろん巨大な照明機材で強い光を当てると,レンズフレアやゴーストが発生してしまいます。これを防ぐために、Appleは非常に大きなマットボックスを取り付けています。

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マシュヴィッツ氏は、iPhone 15 Pro Maxで映像を撮影する上のアドバイスを以下にまとめています。
・カメラ機材を使う。ただし、高級なものでなくてもよい。
・照明を正しく使う。
・Blackmagic Cameraなどの細かい設定が可能なカメラアプリを使用する。
・シャッター角度はなるべく180度を使用する。
・マットボックスや黒いテープを使ってレンズ内に光が入らないようにする。
・プレビューにLUTを適用しながらLog撮影を行う。
・Log撮影をした後の色編集では、優秀な色編集技師を雇う。

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