人間の血糖値を完全に常時モニタリングすることは技術的に難しい

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何らかの原因で血糖値が異常に高くなってしまう糖尿病の治療には、血糖値の日常的な測定が不可欠です。血糖値測定には、指の先から血液を採取して直接血糖値を測定する機器を使うほか、腕や腹にセンサーを接着して常に血糖値の高低をモニタリングするCGM(Continuous Glucose Monitoring、持続血糖値測定)という方法があります。CGMは一部の糖尿病患者には必須の機器ですが、自身も糖尿病を患うDan Maloney氏は、価格・通信規格・仕様といったさまざまな問題点から「人間の血糖値を完全に常時モニタリングすることは難しい」とHackadayで語っています。
Why is Continuous Glucose Monitoring So Hard? | Hackaday
https://hackaday.com/2018/12/03/why-is-continuous-glucose-monitoring-so-hard/
1型糖尿病は、すい臓のランゲルハンス島内のβ細胞が自己免疫によって壊されてしまい、血糖値を抑制するホルモンであるインスリンの分泌能力が著しく低下するという病気です。血糖値が高くなると毛細血管や腎臓に負担がかかり、神経障害や網膜障害、腎障害などの合併症を引き起こす恐れがあります。1型糖尿病を患う人は血糖値を測定し、必要となるインスリンの正確な量を正確に体内に注入する必要があるため、1型糖尿病の患者にとってCGMは非常に重要な機器といえます。
CGMは主に、皮下組織に刺しこむことで間質液中のグルコース濃度を読み取るセンサー、読み取った血糖値を無線で送信するトランスミッター、それを受け取る受信機という3つのパーツで構成されます。CGMは、測定の度に指に針で傷をつけなければならないタイプと異なり、皮膚に接着したセンサー部分に受信機をサッとかざすだけでいつでもどこでも血糖値が測定できるというのが大きな利点。さらにCGMの受信機を「インスリンポンプ」と連動させることで、「人工すい臓」を構築することができます。

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by Intel Free Press
CGMに用いられるセンサーには、グルコースオキシダーゼでコーティングされた超微細な金のワイヤーが使われています。グルコース分解酵素であるグルコースオキシダーゼは、グルコースを分解してグルコノラクトンと過酸化水素を作ります。この反応で生じる電流から間質液中グルコース濃度を測定するという仕組みです。

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by Alden Chadwick
しかし、このセンサーを体に装着できるのは1~2週間ほどで、使用期限に応じて交換しなければなりません。センサーを節約しようと期限を無視して装着し続ける人も多いそうですが、長く装着していると体内の免疫系がグルコースオキシダーゼを破壊してしまい、測定不能となってしまうとのこと。センサーの使用期限をなくすためには、免疫系がセンサー上のグルコースオキシダーゼを攻撃しないようにする特別なコーティングの開発が求められます。
また、センサーは読み取った信号をデジタル化して受信機に無線送信するトランスミッターとセットにしなければなりません。しかし、センサーとトランスミッターを内蔵した装置を肌に長時間接着させると、接触性皮膚炎や何らかの副作用を引き起こす可能性があります。さらに、送信機のバッテリーも限りがあるため、いつまでもセンサーをつけっぱなしにすることはできません。

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by Alden Chadwick
また、メーカー内で機器の互換性がほとんどないのも大きな問題。トランスミッターによる無線方式も機器によって異なり、2.4GhzのISMバンドを使用しているものもあれば、Bluetooth接続によるものも存在しています。医療機器は技術の進歩によってどんどん新しいものになっていくため、古いセンサーをつけていても新しい機器に対応できない可能性もあります。
Maloney氏はせめてバッテリー交換だけでもさせてほしいと語っていますが、Maloney氏が使用しているCGMのセンサーユニットは防水対策で樹脂製のカプセルケースに密閉されています。カプセルケースは壊さずに開けることはできないため、ネット上にはこのカプセルケースに穴を開けて無理矢理電池を交換する改造を行う猛者も登場しているそうです。

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Maloney氏が使用しているCGM用のセンサーは1つで75ドル(約8500円)もするとのこと。研究開発と臨床試験で何千億円もかかっているために仕方ないとしながらも、インターネットに挙がっている分解写真や仕様書を見ると「75ドルという値段はかなり割高に感じてしまう」とMaloney氏は語っています。センサーやトランスミッターの交換を必要としない「完全なCGM」が開発されれば治療にかかるコストは大きく削減できるのですが、技術の限界によってまだ難しいようです。
Maloney氏は「RFID技術を応用すれば送信機は非常に小さく済むし、バッテリー交換ができるようにする必要はない」と主張しています。実際に、装着するだけで血糖値を測定できるGoogle コンタクトレンズを開発していると、Googleが公表しています。これはコンタクトレンズの表面にセンサーを搭載し、涙内のグルコース濃度を測定することで血糖値をモニタリングできるというもの。電源を無線で供給するためにバッテリーの心配はないというのも、完全なCGMの確立を大きく期待させる点でした。

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しかしGoogleは、研究を重ねた結果「涙内のグルコース濃度と血糖値に相関関係を見出せない」として、2018年11月にプロジェクトの中止を発表。画期的なCGM技術だとGoogleのプロジェクトに注目していたMaloney氏は、このニュースに大きく落胆したそうです。Maloney氏は、誰かがもっと優れたCGMの開発にチャレンジすることを期待していると述べ、CGMのメーカーにはもう少し市場価格を下げて欲しいと強く訴えています。
なお、2018年6月に行われたアメリカ糖尿病学会の年次総会で新型のCGMが発表されています。このCGMは、センサーを皮膚に貼り付けるのではなく腕の中に埋め込むというもので、180日間の連続使用が可能とのこと。BluetoothでスマートフォンやApple Watchなどに血糖値を送信することができるそうです。
また、Googleはスマートコンタクトレンズによる血糖値測定のプロジェクトを中止しましたが、Appleが皮膚を傷つけずに血糖値を測定できる機能をApple Watchに搭載する計画に取り組んでいることが報じられています。もしこの機能が実現すれば、従来のCGMに取って代わる新しい血糖値管理システムとして、Maloney氏をはじめとする多くの糖尿病患者に重宝されると考えられます。
Apple Watchで糖尿病治療に革新をもたらすため、Apple内では秘密の研究チームが動いている - GIGAZINE

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