東奔西走キャッシュレス 第68回 じっくりとマイナ保険証Q&A
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マイナンバーカードと健康保険証を一体化したマイナ保険証。2024年12月2日には保険証の新規発行がなくなり、既存の保険証は最大1年間で使えなくなります。マイナ保険証にまつわる、ちまたの多くの誤解を解いていきたいと思います。
Q1.そもそもマイナ保険証って何?
マイナ保険証は、「オンライン資格確認」という、最新の保険資格情報を保存したデータベースにアクセスして、本人の保険資格が有効か、本当にその本人かという確認をする仕組みのことを指します。
従来はカードの保険証に記載された情報のみで保険の資格情報を確認していましたが、引っ越し/転職/退職などで環境が変わったのに古い保険証で受診したり他人(特に家族)の保険証を使ったりといった間違った使い方があっても、医療機関側に確認する術がなく、診療報酬を請求するために毎月まとめて送るレセプトの審査で誤りが発見されて修正が求められる返戻という状況になっていました。
オンライン資格確認では、最新の情報でチェックできるようになって資格確認がその場で機械的に行えるため、返戻の減少が期待されています。
この時の本人確認のためにマイナンバーカードが使われることから、この仕組みが「マイナンバーカードの健康保険証利用」=“マイナ保険証”と呼ばれます。オンライン資格確認は従来の健康保険証でも利用されていますし、今後の資格確認書(後述)でも同じく使われますので、その部分での差異はありません。違うのはは、自動で情報が入力できる点、本人確認ができる点、そして情報利用に関する同意を行える点などです。
オンライン資格確認は医療機関や薬局に利用が義務付けられており、すでにほとんどの施設で導入されています。現状は、マイナ保険証の利用が13.87%(2024年9月末)で、従来の健康保険証での利用が残りの約86%を占めています。
マイナ保険証の仕組みでは、専用のカードリーダーにマイナンバーカードを置いてICチップ内のデータを読み取り、スマートフォンなどのように顔認証をして本人確認を行って、オンライン資格確認にアクセスします。
従来の健康保険証は、この本人確認が行えません。偽造が容易で顔写真もなく、別の本人確認書類で確認するというフローも存在しないため、不正な利用が防止できません。またオンライン資格確認のために情報を病院の事務員などが手入力してアクセスするため、手間がかかるとともに入力間違いが発生して他人の情報にアクセスしてしまったり、資格確認ができなかったりする可能性があります。
こうしたことから、マイナ保険証の方がなりすましや不正利用、誤入力に対する安全性が高いというメリットがあります。病院事務にとっては手入力が不要になって、入力間違いが減少できると期待されます。
マイナ保険証のリーダーでは、本人同意の画面が出るのもミソです。これは過去の医療情報や薬剤情報などを医療機関・薬局と共有するかどうかの確認で、同意すると過去の診療の種類や薬剤が共有されます。
これはレセプトがベースになっているため情報は1カ月遅れになりますが、1カ月前のデータでも役に立つ場合はあるでしょう。
さらに、今後リアルタイムに情報が得られる電子カルテや電子処方箋が普及したとき、安全に本人確認ができて同意もその場で取得できるマイナ保険証のメリットが生かされるようになります。
マイナ保険証による本人確認と本人同意は、今後の医療DXの「入口」にあたります。効率的で安全な医療体制の構築、マイナポータルで自分の健康情報を確認して健康管理に繋げるなど、増え続ける医療費を削減しつつ健康維持を促す取り組みが実現できるか、今後も施策をチェックしていく必要があるでしょう。
Q2.12月2日から健康保険証は使えなくなるの?
2024年12月2日以降、従来の健康保険証の新規発行は終了します。既存の健康保険証は最長1年間、つまり2025年12月1日まで利用することができます。
ただし、これは基本的に有効期限がなかった会社員などが加入する被用者保険の場合です。国民健康保険は通常、有効期限が8月1日からの1年間であるため、2025年7月末日に従来通り期限となり、新規発行がされなくなります。
また、転職で保険者が変わったり転居で住所が変わったりすると、保険証が新規発行されますが、これも12月2日以降は行われません。この有効期限までは従来の健康保険証を使い続けられます。
Q3.12月2日以降はマイナ保険証を使う必要があるの?
従来の健康保険証の代わりに、マイナ保険証だけでなく資格確認書も利用できます。これは保険者が発行するものでおおむね従来の健康保険証と変わりません。
資格確認書は、マイナ保険証の登録をしていない人に対して保険者が発行します。例えば全国健康保険協会(協会けんぽ)では、12月2日以降、新規で加入した被保険者本人からの申請で発行。この時、マイナ保険証を持たないのに申請しなかった場合は、協会けんぽ側で判断して発行しますが、「相当な期間を要する」としており、最初の届出時に申請した方がいいでしょう(マイナ保険証であれば申請不要です)。
すでに加入している被保険者は、マイナ保険証を保有していなかったり、マイナンバーを登録していない場合に協会けんぽ側が資格確認書を発行します。12月2日以降必要な場合に発行するとのことで、申請は不要です。
国民健康保険や大企業などの健康保険組合(組合管掌健康保険)では、それぞれの保険者によりますが、基本的には同じ流れでしょう。国民健康保険は2025年7月頃に対象者に資格確認書を送付するようです。
資格確認書は従来の健康保険証と同じ位置づけなので、そのまま病院などの受付に提出することになります。
Q4.マイナ保険証の使い方は?
マイナ保険証では、病院などの受付に設置されているカードリーダーにマイナンバーカードを置きます。カバーなどを外し、顔写真側を上にします。
次に顔認証と暗証番号のいずれかを選択します。覚えていなければ無理に暗証番号を使う必要はありません。顔認証ができず、暗証番号も覚えていないという場合は、職員に声をかけて目視認証をしてもらいましょう。ただ、スマートフォンのロック解除の場合と同様に、顔認証は特に難しくありません。慣れるためにも最初は顔認証にチャレンジするといいでしょう。
続いて情報提供に関する同意を求められます。これは、過去の診療情報や薬剤情報、特定健診の情報を医師・薬剤師が確認できます。約1カ月前までの情報ながら、過去の診察や服用している薬の情報が分かります。薬の名前を覚えいている人は多くはないですし、自分の病気を詳しく説明できないという場合も多いでしょう。そういう場合にこうした情報が役に立つという声は聞きます。
また、これまでは手術歴、診療・お薬情報(またはお薬情報のみ)、健診情報という3つの同意画面が出ていましたが、2024年10月7日からは「全て同意する」という包括同意の仕組みが導入されました。個別同意も可能ですが、全て提供する人にとってはより同意が簡単になりました。
医師や薬剤師は、得られた情報を元に、より安全で適切な診療方針や薬剤の検討を行えます。どんな薬やどんな病歴が現在の診療に影響するか一般の人には分からないので、同意した方が安心ではないかと思いますが、あくまで自己判断です。「同意をする(同意をしない)」ことの意味を考えて、適切に判断してください。
医師側も、過去情報がどのように活用されたかなどの説明があると、患者側も理解が深まって良いかもしれません。
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Q5.なぜマイナ保険証は毎回提出?
従来の健康保険証は、慣例的に毎月の最初の受診時に提出するだけで再診時は提出しないという運用が一般的でした。
これは「どのみちリアルタイムで資格チェックできないから」ぐらいの理由でしょう。月の最初の診療で保険証を確認したら、それをレセプトでまとめて請求するだけで、「月の途中で転居、転勤、退職などで保険者が変わった」としてもチェックできなかったからです。
現在は、従来の健康保険証を含めてオンライン資格確認でその場で資格チェックが可能になったので、既存の健康保険証も毎回確認した方が返戻の削減には繋がるかもしれません。これは資格確認書でも同様です。
本来、健康保険法施行規則の規定では、健康保険証を毎回提出することになっています。それが慣例的に免除されているだけなので、健康保険証(資格確認書)でも毎回のオンライン資格確認で返戻が減るということであれば、毎回提出にしてオンライン資格確認をしてもいいかもしれません。このあたりはコスト効率との兼ね合いでしょう。
なお、マイナ保険証は、オンライン資格確認に加えて情報共有の同意が必要になるため、毎回確認の必要があります。
Q6.マイナ保険証のメリットは?
マイナ保険証は現状、医療機関で資格の誤りや転記のミスが避けられて不正にも強いというのが最大のメリットです。これは患者側のメリットではありませんが、医療制度という大枠では、効率化などが図られて恩恵があります。
患者にとっても、わざわざ書面に書かなくても本人同意ができて医療サービスが受診できるというメリットはあるでしょう。診療情報や薬剤情報の提供もそうで、今後電子カルテや電子処方箋が普及したら、リアルタイムの情報を元に医師や薬剤師が治療や調剤を検討できます。
自らの医療情報を確認できるようになるほか、データ連携によって民間の健康サービスも進化するかもしれません。
端的なメリットだと高額療養費制度の自動適用があります。これは高額な診療に対して窓口での立て替えが必要だったところ、マイナ保険証だと自動的に窓口負担を自己負担にまで引き下げられるというものです。限度額は収入や年齢に応じるため、従来は事前に申請して1週間程度かかって送られてくる書面が必要でした。これが自動適用されるので窓口負担が最小限に抑えられます。
診察券や予防接種や乳幼児検診の受給者証といった複数のカードが統合されるというのメリットですが、これは現在拡大中で、まだまだ対応が広がっていないのは課題です。ただ、これが普及すると、今後のマイナンバーカードのスマートフォン搭載で、スマートフォンだけで全てまかなえるようになります。
Q7.マイナ保険証はトラブルで「●」表示?
マイナ保険証におけるトラブルはいくつか存在していますが、ハードウェアやネットワークの障害に起因するもの以外に多いのが「人名や住所で『●』が表示される」というもののようです。
これは、その文字が外字と呼ばれる通常のフォントでは用意されていない文字だった場合に生じます。マイナ保険証ではなくオンライン資格確認の仕様であり、健康保険証や資格確認書でオンライン資格確認を使った場合にも「●」表示になるため、「マイナ保険証のトラブル」ではありません。前述の通り、オンライン資格確認の利用の8割は従来の保険証であるため、従来の健康保険証の方が多く「●」表示になっていると考えられます。
「●」表示であっても、オンライン資格確認やレセプト請求としては問題ありません。初診で病院が管理するデータベースに登録する場合は、診療申込書などに記載してもらった書面で確認するなどして修正する形になります。最初の登録以降は、事務員の端末ではオンライン資格確認と病院のデータが紐付けられているため、「●」が出ても支障はなく、そのままレセプト請求できます。
「●」表示はマイナ保険証とは直接関係のない問題ですが、デジタル庁では文字の標準化を進めており、まずは自治体などでのフォントが標準化されるようで、オンライン資格確認では当面はこうした状況が継続する模様です。
Q8.マイナ保険証で他人の情報と紐付けられる?
マイナンバー関連のトラブルとして話題になったマイナ保険証の誤紐付けの問題ですが、これは健康保険証の情報をオンライン資格確認に登録する時に、氏名/住所/生年月日/性別の基本4情報を使わず、さらにマイナンバーの提出がなかったため、同姓同名などの別人と紐付けてしまったという事例です。
マイナ保険証はこのオンライン資格確認の情報を確認するため、他人の情報を紐付けられてしまった人が受診した際に、別人の情報が医療機関側には表示されてしまいました。健康保険証でも同様に誤紐付けの可能性はあり、その場合は他人の情報が表示されてしまうため、これも正確にはマイナ保険証の問題ではありません。ただし、診療情報や薬剤情報の閲覧ができるのはマイナ保険証のみなので、マイナ保険証で同意した場合、こうした情報を医療機関や薬局側に表示されてしまうという問題はあります。
別人の情報が表示されたとはいえ、「他人が誰でも閲覧できた」というわけではなく、医療機関・薬局で事務員や医師などの限られた人が閲覧できてしまったというものです。このため、個人情報の漏洩を過度に恐れる必要はないと思われます。ただ、事前に対処できていなかったのは国にとって大きな問題です。
現在、社会人などの被用者保険加入者には、「資格情報のお知らせ」が送付されています。これは保険資格情報とマイナンバーの下4桁を送付するもので、ここでマイナンバーとの保険資格情報に誤りがないかなどを確認できます。マイナンバーカードを使ってマイナポータルにアクセスしても、自分の保険資格情報は確認できます。
これをチェックして正しいことが確認できてなお、他人の情報が表示されるというのはかなり特殊な状況だと思われますので、遭遇した場合は自分が加入する保険者に連絡をした方がいいでしょう。
Q9.マイナ保険証で個人情報が漏洩する?
マイナンバー制度やマイナンバーカードにかかわる問題で、「個人の情報が漏洩する」という誤解が広がっています。一部のメディアが誤解を解こうとしないまたは積極的に誤情報を流布していることもあって根強く残っていますが、多くは誤解に基づいています。
まず、マイナンバーは日本の住民に強制的に自動割り当てされている番号です。この番号を鍵に行政のさまざまな情報を連携できるようにするのがマイナンバー制度です。
各行政機関はマイナンバーに紐付く「機関別符号」を生成します。例えば国民健康保険だったら各市町村が生成した機関別符号に対して記号番号と基本4情報やマイナンバーが紐付けられます。
連携するのはこの機関別符号で、例えば年金の情報を市役所が取得したい場合、機関別符号を問い合わせて情報を引き出します。情報連携にマイナンバーは使われないので、「マイナンバーが漏洩しても直接情報は引き出せない」ということになります。インターネット経由でマイナンバーで何らかの情報にアクセスすることはできないので、こうしたルートで情報の漏洩は原理的には発生しません。
「マイナンバーを知ったから他人のマイナ保険証の健康保険情報にアクセスできて、さらにそのデータベースに税金の情報もあって勝手に閲覧できた」といったような情報漏洩が起きるような仕組みでもありません。「マイナンバーに紐付けられた」健康保険情報から年金の情報、税金の情報、銀行の口座情報……と、どんどんアクセスを広げることはできず、芋づる式の情報漏洩はありません。
これまでの説明の通りマイナ保険証の実態はオンライン資格確認であり、マイナンバーは使わず、保険資格の情報にアクセスしているだけです。これは従来の健康保険証でもアクセスする情報なので、マイナ保険証を使っても使わなくても変わりません。
Q10.マイナンバーカードを持ち歩くのが心配
マイナンバーカードは個人の情報が記載された公的な本人確認書類です。運転免許証と同レベルの強度を持ち、同様に本人確認に使えます。裏面にマイナンバーが記載されていますが、マイナンバー制度とカードは厳密には関係ありません。
運転免許証や銀行のキャッシュカードをなくすのと同様に注意が必要ですが、紛失したから即座にマイナンバーで情報漏洩するというわけではありません。前述の通りマイナンバーで情報を引き出すことはできないからです。
券面に記載されている情報量は、マイナンバーと免許番号の違いはありますが運転免許証と同等です。被用者保険の健康保険証を紛失した場合は働いている会社名も漏洩しますし、運転免許証とは違って拾った人が悪用することは容易です。
マイナンバーカードにはICチップ内に電子証明書があり、安全にマイナポータルにアクセスして自分の情報を確認したり、行政手続をしたり、さまざまなことができるようになります。マイナンバーカードを紛失した場合、4桁の暗証番号が同時に漏洩すると、他人がログインしてこの情報にアクセスできてしまいます。
キャッシュカードも4桁の暗証番号で現金を下ろすことができますが、暗証番号が分からなければ下ろされることはありません。同様に、紛失に気付いた場合などにすぐに利用停止をすれば、アクセスされることはありません。
ICチップ自体には券面情報のみしか保管されていませし、ICチップ内の情報を暗証番号なしに勝手に読み出すことはできないので心配は無用です。また、ICチップを偽造してマイナ保険証やマイナポータルのログインといった悪用は現時点で不可能です。券面情報の漏洩を除けば、停止さえすればそれ以上の情報が漏洩する心配はありません。
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Q11.マイナ保険証の顔認証でエラーが出る
マイナ保険証は、カードリーダーに置いたマイナンバーカードのICチップから顔データを読み出し、カメラに映った顔と照合して顔認証を行います。4桁暗証番号を覚えていない人でも認証でき、暗証番号を不要にした顔認証のみのマイナンバーカードも利用できます。
エラーの原因はいくつかありますが、まずマイナンバーカードのカバーを付けっぱなしでないかを確認しましょう。普段の持ち歩きにカバーはなくても支障はありません。
顔認証をする場合にはカメラに顔が映る必要はありますが、カメラをのぞき込むように近づく必要はありません。比較的広い画角で顔認証するので、カードをリーダーに置くのに自然な位置であればたいていは大丈夫なはずです(高さだけは調整しましょう)。
医療機関側の工夫で、さらに安定して使えるようになります。一般的に顔認証は、カメラに入り込む外光の状況で精度が左右されます。直射日光が当たらない位置に設置するようにすると精度が向上します。他にもPCやカードリーダーは定期的に再起動が推奨されています。
Q12.マイナ保険証が使えないと医療費が10割負担になるの?
機械やネットワークの不具合でマイナ保険証が使えなかった場合でも、保険診療が受けられるようにいくつもの対策が用意されています。
マイナンバーカードで本人確認をしつつ、資格情報のお知らせ・マイナポータルの保険資格の画面・マイナポータルからダウンロードしたPDFの保険資格情報・医療機関にある被保険者資格申立書、いずれかの方法で保険診療を受けることができます。
マイナンバーカードの目視による本人確認できるため、紙やPDFでも被保険者番号などが確認できればレセプト請求が可能です。それらがダメでも資格申立書を記入すれば対応できます。再診であれば過去のデータを使うこともできます。それ以外は、「従来の保険証を忘れた」などといった場合と同じ扱いです。
Q13.「資格(無効)」や「資格情報なし」と表示されたら10割負担になるの?
転職や退職などで保険者が変わった場合、本人から加入の届出を受けた保険者は、5日以内にオンライン資格確認に情報を登録することになっています。それが遅れた場合または登録以前に受診した場合、「資格(無効)」などと表示される場合があります。
登録が済んでいないなどで資格が確認できない場合は、被保険者資格申立書を記入してもらいます。これによって現役世代であれば3割負担という通常の負担で診療を受けられます。
「むやみに10割負担をさせないように」というのが国の考えでしょう。医療機関などもそれに合わせた対処が必要ですし、患者側もあらかじめマイナポータルで資格情報を確認できるので、心配な場合は事前にチェックしてもいいでしょう。
Q14.災害や停電時に医療費が10割負担になるの?
日本の保険制度は、本人の保険資格に対して自己負担分を除いて保険者が医療費を負担するというもので、本人を特定することが基本です。そのため、健康保険証が必要ですし、それを確実にするための手段がマイナ保険証です。
では、災害や停電で病院のカードリーダーが停止した場合に、マイナ保険証が使えないと本人が特定できないので医療費を全額支払う10割負担になるのでしょうか。
もちろん、そうはなりません。災害時の場合、被災者は窓口で氏名/生年月日/連絡先/加入している保険者を告げることで保険診療を受けられます(災害救助法の適用など条件はありますが、ここでは割愛します)。これは当然、マイナ保険証でも健康保険証(資格確認書)でも同様です。
そもそも災害時に「健康保険証が焼失した人は保険証なしでも3割負担で診療するが、マイナ保険証が使えなければ10割負担」という医療機関はないでしょうし、通常の手続きをすればいいだけです。
停電に関しては、そもそも医療機関は電気がなければ多くの治療ができませんし、入院患者がいれば命にも関わります(自家発電などがあったとしても)。そうした時に、一般の外来には対応できない場合もあるでしょう。その病院だけが停電ならば別の医療機関の利用を促すでしょうし、大規模停電や災害時であれば、通常診療を受け付けてはいられないでしょう(緊急の場合はまた別の話です)。
ネットワークが停止してオンライン資格確認にアクセスできない場合も同様です。その状態でも外来を受け付けるのであれば、マイナンバーカード+資格情報のお知らせやマイナポータル、資格申立書記入などで対処することになるでしょう。ここでも、「10割請求しない」というのが大事なポイントです。
なお、オンライン資格確認には「災害時モード」(災害医療情報閲覧機能)があり、マイナ保険証や健康保険証などを持参しなくても、(電気とネットさえ通っていれば)氏名や住所などから患者を特定して薬剤情報・診療情報などの閲覧が可能です。
災害時に持病の薬が必要なとき、お薬手帳を持ち歩いていなくても過去の履歴から薬を特定してすぐに出してもらうことができます。被災者が離れた避難所にいても、その近くの医療機関などで活用できます。
Q15.マイナ保険証を登録をしたけど解除できるの?
マイナ保険証=マイナンバーカードの電子証明書と保険情報の紐付けを解除したい場合は保険者にマイナ保険証の解除申出書を届け出ます。その後の保険診療のための資格確認書が送られてきて、その後は保険者が中間サーバーに解除依頼をして、1~2カ月で解除されます。
現状、従来の健康保険証が使える状態でマイナ保険証を解除する理由はなく、この間に使い方を確認すればいいとは思いますが、任意なので自由に解除は可能です。
なお、マイナ保険証の登録で「情報が漏洩しやすくなる」「国に医療情報が筒抜けになる」「健康保険証だけにすれば情報漏洩しない」などといったことはないでしょう。
Q16.マイナ保険証の有効期限は?
マイナンバーカードには有効期限があり、発行から10年(18歳未満は5年)で再発行が必要になります(正確には発行後10回目または5回目の誕生日まで)。
加えて、ICチップ内の電子証明書にも有効期限があり、こちらは5年(5回目の誕生日)になっています。電子証明書は、マイナ保険証やマイナポータルなどでも必要になるため、マイナンバーカードを使うのであれば更新は必須です。
マイナ保険証のカードリーダーで利用すると、「電子証明書の有効期限が3カ月以内に切れる」という表示がされる場合があります。それを目安に更新をするといいでしょう。この頃には、電子証明書の更新を促す案内も地方公共団体情報システム機構(J-LIS)から届くので、自治体(または指定郵便局)で電子証明書の更新を行います。
マイナ保険証のカードリーダーでは、有効期限が切れたあともアラートは表示されますが、3カ月間はそのまま利用し続けられます(医療情報などの提供の同意はできなくなります)。3カ月後が過ぎても更新しない場合、保険者から資格確認書が送られてきます。
運転免許証の更新を忘れる人が続出して無免許運転している人が多いということもないように、普通に更新できる人は多いはずで、しかも忘れたままでも自動的に資格確認書が送られてくるため、保険診療が受けられなくなるわけではありません。
そもそも、保険資格があるならば保険診療を受けることは可能です。健康保険証を忘れた場合に10割請求となっても、あとから保険者に申請すれば療養費として払い戻されます。それと同じ状況になるわけです。
今回は、最終的に資格確認書も送られてくることになるため、過度な心配はいらなそうです(運転免許証は更新を忘れるとそのまま失効します)。
Q17.健康保険証を残さないの?
歴史的にオンライン資格確認は、ICカードとセットで検討されてきました。もともと「資格過誤」と「転記ミス」を減らすための解決策として考えられてきたため、オンライン資格確認は健康保険証のICカード化が前提となっていました。その後、医療DXの入口としてのICカード化が検討されてきました。
必要なのは、「健康保険証をICカード化できるかどうか」です。それ以外の方策だと、ICカードを導入しないで一足飛びにスマートフォンに内蔵するぐらいしかありません。「ICカードのマイナ保険証は高齢者が使えないけど、スマートフォンなら高齢者も使える」という主張なら、物理カードではなくスマホでの展開を求める意見も理解できますが、いずれにしても永遠に紙の保険証を使うことはありえません。
日本の健康保険制度上、民間の保険者、しかも多くが赤字を抱えている中、さらにコストがかかるIC化を求めるのは難しいため、国が予算を付けるマイナンバーカードに集約するのは自然な流れでしょう。
諸外国では台湾、フランス、ドイツを始め、保険証をICカード化している国は多く、さらに欧州では今後「EUデジタルIDウォレット」というスマートフォンに健康保険証などを保管するサービスも開始しようとしています。日本でも、今後AppleやGoogleのウォレットにマイナンバーカードが搭載される見込みです(結果としてマイナ保険証も使えるようになります)。
今後の医療DXにおいて、電子カルテや電子処方箋は重要な役割を担っています。こうしたデータをほかの医療機関でも利用できるようにするのが医療DXの一環ですが、本人確認ができない健康保険証だと共有できないため、医療機関や薬局では情報を確認できません。そのため、マイナ保険証がその入口になるわけです。
こうした「最低でもICカード」という状況では、「いつ切り替えるか」という点が課題となります。その性質上、マイナ保険証はメリットを出しづらい仕組みです。情報が自分で確認できるので自分で健康管理が可能になることや、健康情報と健康サービスを組み合わせて、よりパーソナライズされた健康増進プログラムを提供できるなどといった、健康サービスに繋げることで魅力を出せるか、なかなか難しいかもしれませんが、医療の効率化に繋げたい国としてはここで普及させたいところでしょう。
なぜ今このタイミングか、というのは難しい判断です。何もしなくても少しずつマイナ保険証の利用率は上がっていくでしょう。恐らく、半数を超えても反対する人は反対しますし、課題はいつまでも存在し続けます。逆に言えばいつでもいいとも言えます。廃止のタイミングは国が責任を持って判断し、それによる不利益が極力発生しないように改善しつづけるしかありません。
現状、国の施策が万全とは感じませんが、良くなってきています。国も施策を進めながら問題を認識したらテンポ良く修正することが、信頼の拡大に繋がるでしょう。
小山安博 こやまやすひろ マイナビニュースの編集者からライターに転身。無節操な興味に従ってデジカメ、ケータイ、コンピュータセキュリティなどといったジャンルをつまみ食い。最近は決済に関する取材に力を入れる。軽くて小さいものにむやみに愛情を感じるタイプ。デジカメ、PC、スマートフォン……たいてい何か新しいものを欲しがっている。 この著者の記事一覧はこちら
マイナンバーカードと健康保険証を一体化したマイナ保険証。2024年12月2日には保険証の新規発行がなくなり、既存の保険証は最大1年間で使えなくなります。マイナ保険証にまつわる、ちまたの多くの誤解を解いていきたいと思います。
Q1.そもそもマイナ保険証って何?
マイナ保険証は、「オンライン資格確認」という、最新の保険資格情報を保存したデータベースにアクセスして、本人の保険資格が有効か、本当にその本人かという確認をする仕組みのことを指します。
従来はカードの保険証に記載された情報のみで保険の資格情報を確認していましたが、引っ越し/転職/退職などで環境が変わったのに古い保険証で受診したり他人(特に家族)の保険証を使ったりといった間違った使い方があっても、医療機関側に確認する術がなく、診療報酬を請求するために毎月まとめて送るレセプトの審査で誤りが発見されて修正が求められる返戻という状況になっていました。
オンライン資格確認では、最新の情報でチェックできるようになって資格確認がその場で機械的に行えるため、返戻の減少が期待されています。
この時の本人確認のためにマイナンバーカードが使われることから、この仕組みが「マイナンバーカードの健康保険証利用」=“マイナ保険証”と呼ばれます。オンライン資格確認は従来の健康保険証でも利用されていますし、今後の資格確認書(後述)でも同じく使われますので、その部分での差異はありません。違うのはは、自動で情報が入力できる点、本人確認ができる点、そして情報利用に関する同意を行える点などです。
オンライン資格確認は医療機関や薬局に利用が義務付けられており、すでにほとんどの施設で導入されています。現状は、マイナ保険証の利用が13.87%(2024年9月末)で、従来の健康保険証での利用が残りの約86%を占めています。
マイナ保険証の仕組みでは、専用のカードリーダーにマイナンバーカードを置いてICチップ内のデータを読み取り、スマートフォンなどのように顔認証をして本人確認を行って、オンライン資格確認にアクセスします。
従来の健康保険証は、この本人確認が行えません。偽造が容易で顔写真もなく、別の本人確認書類で確認するというフローも存在しないため、不正な利用が防止できません。またオンライン資格確認のために情報を病院の事務員などが手入力してアクセスするため、手間がかかるとともに入力間違いが発生して他人の情報にアクセスしてしまったり、資格確認ができなかったりする可能性があります。
こうしたことから、マイナ保険証の方がなりすましや不正利用、誤入力に対する安全性が高いというメリットがあります。病院事務にとっては手入力が不要になって、入力間違いが減少できると期待されます。
マイナ保険証のリーダーでは、本人同意の画面が出るのもミソです。これは過去の医療情報や薬剤情報などを医療機関・薬局と共有するかどうかの確認で、同意すると過去の診療の種類や薬剤が共有されます。
これはレセプトがベースになっているため情報は1カ月遅れになりますが、1カ月前のデータでも役に立つ場合はあるでしょう。
さらに、今後リアルタイムに情報が得られる電子カルテや電子処方箋が普及したとき、安全に本人確認ができて同意もその場で取得できるマイナ保険証のメリットが生かされるようになります。
マイナ保険証による本人確認と本人同意は、今後の医療DXの「入口」にあたります。効率的で安全な医療体制の構築、マイナポータルで自分の健康情報を確認して健康管理に繋げるなど、増え続ける医療費を削減しつつ健康維持を促す取り組みが実現できるか、今後も施策をチェックしていく必要があるでしょう。
Q2.12月2日から健康保険証は使えなくなるの?
2024年12月2日以降、従来の健康保険証の新規発行は終了します。既存の健康保険証は最長1年間、つまり2025年12月1日まで利用することができます。
ただし、これは基本的に有効期限がなかった会社員などが加入する被用者保険の場合です。国民健康保険は通常、有効期限が8月1日からの1年間であるため、2025年7月末日に従来通り期限となり、新規発行がされなくなります。
また、転職で保険者が変わったり転居で住所が変わったりすると、保険証が新規発行されますが、これも12月2日以降は行われません。この有効期限までは従来の健康保険証を使い続けられます。
Q3.12月2日以降はマイナ保険証を使う必要があるの?
従来の健康保険証の代わりに、マイナ保険証だけでなく資格確認書も利用できます。これは保険者が発行するものでおおむね従来の健康保険証と変わりません。
資格確認書は、マイナ保険証の登録をしていない人に対して保険者が発行します。例えば全国健康保険協会(協会けんぽ)では、12月2日以降、新規で加入した被保険者本人からの申請で発行。この時、マイナ保険証を持たないのに申請しなかった場合は、協会けんぽ側で判断して発行しますが、「相当な期間を要する」としており、最初の届出時に申請した方がいいでしょう(マイナ保険証であれば申請不要です)。
すでに加入している被保険者は、マイナ保険証を保有していなかったり、マイナンバーを登録していない場合に協会けんぽ側が資格確認書を発行します。12月2日以降必要な場合に発行するとのことで、申請は不要です。
国民健康保険や大企業などの健康保険組合(組合管掌健康保険)では、それぞれの保険者によりますが、基本的には同じ流れでしょう。国民健康保険は2025年7月頃に対象者に資格確認書を送付するようです。
資格確認書は従来の健康保険証と同じ位置づけなので、そのまま病院などの受付に提出することになります。
Q4.マイナ保険証の使い方は?
マイナ保険証では、病院などの受付に設置されているカードリーダーにマイナンバーカードを置きます。カバーなどを外し、顔写真側を上にします。
次に顔認証と暗証番号のいずれかを選択します。覚えていなければ無理に暗証番号を使う必要はありません。顔認証ができず、暗証番号も覚えていないという場合は、職員に声をかけて目視認証をしてもらいましょう。ただ、スマートフォンのロック解除の場合と同様に、顔認証は特に難しくありません。慣れるためにも最初は顔認証にチャレンジするといいでしょう。
続いて情報提供に関する同意を求められます。これは、過去の診療情報や薬剤情報、特定健診の情報を医師・薬剤師が確認できます。約1カ月前までの情報ながら、過去の診察や服用している薬の情報が分かります。薬の名前を覚えいている人は多くはないですし、自分の病気を詳しく説明できないという場合も多いでしょう。そういう場合にこうした情報が役に立つという声は聞きます。
また、これまでは手術歴、診療・お薬情報(またはお薬情報のみ)、健診情報という3つの同意画面が出ていましたが、2024年10月7日からは「全て同意する」という包括同意の仕組みが導入されました。個別同意も可能ですが、全て提供する人にとってはより同意が簡単になりました。
医師や薬剤師は、得られた情報を元に、より安全で適切な診療方針や薬剤の検討を行えます。どんな薬やどんな病歴が現在の診療に影響するか一般の人には分からないので、同意した方が安心ではないかと思いますが、あくまで自己判断です。「同意をする(同意をしない)」ことの意味を考えて、適切に判断してください。
医師側も、過去情報がどのように活用されたかなどの説明があると、患者側も理解が深まって良いかもしれません。
●
Q5.なぜマイナ保険証は毎回提出?
従来の健康保険証は、慣例的に毎月の最初の受診時に提出するだけで再診時は提出しないという運用が一般的でした。
これは「どのみちリアルタイムで資格チェックできないから」ぐらいの理由でしょう。月の最初の診療で保険証を確認したら、それをレセプトでまとめて請求するだけで、「月の途中で転居、転勤、退職などで保険者が変わった」としてもチェックできなかったからです。
現在は、従来の健康保険証を含めてオンライン資格確認でその場で資格チェックが可能になったので、既存の健康保険証も毎回確認した方が返戻の削減には繋がるかもしれません。これは資格確認書でも同様です。
本来、健康保険法施行規則の規定では、健康保険証を毎回提出することになっています。それが慣例的に免除されているだけなので、健康保険証(資格確認書)でも毎回のオンライン資格確認で返戻が減るということであれば、毎回提出にしてオンライン資格確認をしてもいいかもしれません。このあたりはコスト効率との兼ね合いでしょう。
なお、マイナ保険証は、オンライン資格確認に加えて情報共有の同意が必要になるため、毎回確認の必要があります。
Q6.マイナ保険証のメリットは?
マイナ保険証は現状、医療機関で資格の誤りや転記のミスが避けられて不正にも強いというのが最大のメリットです。これは患者側のメリットではありませんが、医療制度という大枠では、効率化などが図られて恩恵があります。
患者にとっても、わざわざ書面に書かなくても本人同意ができて医療サービスが受診できるというメリットはあるでしょう。診療情報や薬剤情報の提供もそうで、今後電子カルテや電子処方箋が普及したら、リアルタイムの情報を元に医師や薬剤師が治療や調剤を検討できます。
自らの医療情報を確認できるようになるほか、データ連携によって民間の健康サービスも進化するかもしれません。
端的なメリットだと高額療養費制度の自動適用があります。これは高額な診療に対して窓口での立て替えが必要だったところ、マイナ保険証だと自動的に窓口負担を自己負担にまで引き下げられるというものです。限度額は収入や年齢に応じるため、従来は事前に申請して1週間程度かかって送られてくる書面が必要でした。これが自動適用されるので窓口負担が最小限に抑えられます。
診察券や予防接種や乳幼児検診の受給者証といった複数のカードが統合されるというのメリットですが、これは現在拡大中で、まだまだ対応が広がっていないのは課題です。ただ、これが普及すると、今後のマイナンバーカードのスマートフォン搭載で、スマートフォンだけで全てまかなえるようになります。
Q7.マイナ保険証はトラブルで「●」表示?
マイナ保険証におけるトラブルはいくつか存在していますが、ハードウェアやネットワークの障害に起因するもの以外に多いのが「人名や住所で『●』が表示される」というもののようです。
これは、その文字が外字と呼ばれる通常のフォントでは用意されていない文字だった場合に生じます。マイナ保険証ではなくオンライン資格確認の仕様であり、健康保険証や資格確認書でオンライン資格確認を使った場合にも「●」表示になるため、「マイナ保険証のトラブル」ではありません。前述の通り、オンライン資格確認の利用の8割は従来の保険証であるため、従来の健康保険証の方が多く「●」表示になっていると考えられます。
「●」表示であっても、オンライン資格確認やレセプト請求としては問題ありません。初診で病院が管理するデータベースに登録する場合は、診療申込書などに記載してもらった書面で確認するなどして修正する形になります。最初の登録以降は、事務員の端末ではオンライン資格確認と病院のデータが紐付けられているため、「●」が出ても支障はなく、そのままレセプト請求できます。
「●」表示はマイナ保険証とは直接関係のない問題ですが、デジタル庁では文字の標準化を進めており、まずは自治体などでのフォントが標準化されるようで、オンライン資格確認では当面はこうした状況が継続する模様です。
Q8.マイナ保険証で他人の情報と紐付けられる?
マイナンバー関連のトラブルとして話題になったマイナ保険証の誤紐付けの問題ですが、これは健康保険証の情報をオンライン資格確認に登録する時に、氏名/住所/生年月日/性別の基本4情報を使わず、さらにマイナンバーの提出がなかったため、同姓同名などの別人と紐付けてしまったという事例です。
マイナ保険証はこのオンライン資格確認の情報を確認するため、他人の情報を紐付けられてしまった人が受診した際に、別人の情報が医療機関側には表示されてしまいました。健康保険証でも同様に誤紐付けの可能性はあり、その場合は他人の情報が表示されてしまうため、これも正確にはマイナ保険証の問題ではありません。ただし、診療情報や薬剤情報の閲覧ができるのはマイナ保険証のみなので、マイナ保険証で同意した場合、こうした情報を医療機関や薬局側に表示されてしまうという問題はあります。
別人の情報が表示されたとはいえ、「他人が誰でも閲覧できた」というわけではなく、医療機関・薬局で事務員や医師などの限られた人が閲覧できてしまったというものです。このため、個人情報の漏洩を過度に恐れる必要はないと思われます。ただ、事前に対処できていなかったのは国にとって大きな問題です。
現在、社会人などの被用者保険加入者には、「資格情報のお知らせ」が送付されています。これは保険資格情報とマイナンバーの下4桁を送付するもので、ここでマイナンバーとの保険資格情報に誤りがないかなどを確認できます。マイナンバーカードを使ってマイナポータルにアクセスしても、自分の保険資格情報は確認できます。
これをチェックして正しいことが確認できてなお、他人の情報が表示されるというのはかなり特殊な状況だと思われますので、遭遇した場合は自分が加入する保険者に連絡をした方がいいでしょう。
Q9.マイナ保険証で個人情報が漏洩する?
マイナンバー制度やマイナンバーカードにかかわる問題で、「個人の情報が漏洩する」という誤解が広がっています。一部のメディアが誤解を解こうとしないまたは積極的に誤情報を流布していることもあって根強く残っていますが、多くは誤解に基づいています。
まず、マイナンバーは日本の住民に強制的に自動割り当てされている番号です。この番号を鍵に行政のさまざまな情報を連携できるようにするのがマイナンバー制度です。
各行政機関はマイナンバーに紐付く「機関別符号」を生成します。例えば国民健康保険だったら各市町村が生成した機関別符号に対して記号番号と基本4情報やマイナンバーが紐付けられます。
連携するのはこの機関別符号で、例えば年金の情報を市役所が取得したい場合、機関別符号を問い合わせて情報を引き出します。情報連携にマイナンバーは使われないので、「マイナンバーが漏洩しても直接情報は引き出せない」ということになります。インターネット経由でマイナンバーで何らかの情報にアクセスすることはできないので、こうしたルートで情報の漏洩は原理的には発生しません。
「マイナンバーを知ったから他人のマイナ保険証の健康保険情報にアクセスできて、さらにそのデータベースに税金の情報もあって勝手に閲覧できた」といったような情報漏洩が起きるような仕組みでもありません。「マイナンバーに紐付けられた」健康保険情報から年金の情報、税金の情報、銀行の口座情報……と、どんどんアクセスを広げることはできず、芋づる式の情報漏洩はありません。
これまでの説明の通りマイナ保険証の実態はオンライン資格確認であり、マイナンバーは使わず、保険資格の情報にアクセスしているだけです。これは従来の健康保険証でもアクセスする情報なので、マイナ保険証を使っても使わなくても変わりません。
Q10.マイナンバーカードを持ち歩くのが心配
マイナンバーカードは個人の情報が記載された公的な本人確認書類です。運転免許証と同レベルの強度を持ち、同様に本人確認に使えます。裏面にマイナンバーが記載されていますが、マイナンバー制度とカードは厳密には関係ありません。
運転免許証や銀行のキャッシュカードをなくすのと同様に注意が必要ですが、紛失したから即座にマイナンバーで情報漏洩するというわけではありません。前述の通りマイナンバーで情報を引き出すことはできないからです。
券面に記載されている情報量は、マイナンバーと免許番号の違いはありますが運転免許証と同等です。被用者保険の健康保険証を紛失した場合は働いている会社名も漏洩しますし、運転免許証とは違って拾った人が悪用することは容易です。
マイナンバーカードにはICチップ内に電子証明書があり、安全にマイナポータルにアクセスして自分の情報を確認したり、行政手続をしたり、さまざまなことができるようになります。マイナンバーカードを紛失した場合、4桁の暗証番号が同時に漏洩すると、他人がログインしてこの情報にアクセスできてしまいます。
キャッシュカードも4桁の暗証番号で現金を下ろすことができますが、暗証番号が分からなければ下ろされることはありません。同様に、紛失に気付いた場合などにすぐに利用停止をすれば、アクセスされることはありません。
ICチップ自体には券面情報のみしか保管されていませし、ICチップ内の情報を暗証番号なしに勝手に読み出すことはできないので心配は無用です。また、ICチップを偽造してマイナ保険証やマイナポータルのログインといった悪用は現時点で不可能です。券面情報の漏洩を除けば、停止さえすればそれ以上の情報が漏洩する心配はありません。
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Q11.マイナ保険証の顔認証でエラーが出る
マイナ保険証は、カードリーダーに置いたマイナンバーカードのICチップから顔データを読み出し、カメラに映った顔と照合して顔認証を行います。4桁暗証番号を覚えていない人でも認証でき、暗証番号を不要にした顔認証のみのマイナンバーカードも利用できます。
エラーの原因はいくつかありますが、まずマイナンバーカードのカバーを付けっぱなしでないかを確認しましょう。普段の持ち歩きにカバーはなくても支障はありません。
顔認証をする場合にはカメラに顔が映る必要はありますが、カメラをのぞき込むように近づく必要はありません。比較的広い画角で顔認証するので、カードをリーダーに置くのに自然な位置であればたいていは大丈夫なはずです(高さだけは調整しましょう)。
医療機関側の工夫で、さらに安定して使えるようになります。一般的に顔認証は、カメラに入り込む外光の状況で精度が左右されます。直射日光が当たらない位置に設置するようにすると精度が向上します。他にもPCやカードリーダーは定期的に再起動が推奨されています。
Q12.マイナ保険証が使えないと医療費が10割負担になるの?
機械やネットワークの不具合でマイナ保険証が使えなかった場合でも、保険診療が受けられるようにいくつもの対策が用意されています。
マイナンバーカードで本人確認をしつつ、資格情報のお知らせ・マイナポータルの保険資格の画面・マイナポータルからダウンロードしたPDFの保険資格情報・医療機関にある被保険者資格申立書、いずれかの方法で保険診療を受けることができます。
マイナンバーカードの目視による本人確認できるため、紙やPDFでも被保険者番号などが確認できればレセプト請求が可能です。それらがダメでも資格申立書を記入すれば対応できます。再診であれば過去のデータを使うこともできます。それ以外は、「従来の保険証を忘れた」などといった場合と同じ扱いです。
Q13.「資格(無効)」や「資格情報なし」と表示されたら10割負担になるの?
転職や退職などで保険者が変わった場合、本人から加入の届出を受けた保険者は、5日以内にオンライン資格確認に情報を登録することになっています。それが遅れた場合または登録以前に受診した場合、「資格(無効)」などと表示される場合があります。
登録が済んでいないなどで資格が確認できない場合は、被保険者資格申立書を記入してもらいます。これによって現役世代であれば3割負担という通常の負担で診療を受けられます。
「むやみに10割負担をさせないように」というのが国の考えでしょう。医療機関などもそれに合わせた対処が必要ですし、患者側もあらかじめマイナポータルで資格情報を確認できるので、心配な場合は事前にチェックしてもいいでしょう。
Q14.災害や停電時に医療費が10割負担になるの?
日本の保険制度は、本人の保険資格に対して自己負担分を除いて保険者が医療費を負担するというもので、本人を特定することが基本です。そのため、健康保険証が必要ですし、それを確実にするための手段がマイナ保険証です。
では、災害や停電で病院のカードリーダーが停止した場合に、マイナ保険証が使えないと本人が特定できないので医療費を全額支払う10割負担になるのでしょうか。
もちろん、そうはなりません。災害時の場合、被災者は窓口で氏名/生年月日/連絡先/加入している保険者を告げることで保険診療を受けられます(災害救助法の適用など条件はありますが、ここでは割愛します)。これは当然、マイナ保険証でも健康保険証(資格確認書)でも同様です。
そもそも災害時に「健康保険証が焼失した人は保険証なしでも3割負担で診療するが、マイナ保険証が使えなければ10割負担」という医療機関はないでしょうし、通常の手続きをすればいいだけです。
停電に関しては、そもそも医療機関は電気がなければ多くの治療ができませんし、入院患者がいれば命にも関わります(自家発電などがあったとしても)。そうした時に、一般の外来には対応できない場合もあるでしょう。その病院だけが停電ならば別の医療機関の利用を促すでしょうし、大規模停電や災害時であれば、通常診療を受け付けてはいられないでしょう(緊急の場合はまた別の話です)。
ネットワークが停止してオンライン資格確認にアクセスできない場合も同様です。その状態でも外来を受け付けるのであれば、マイナンバーカード+資格情報のお知らせやマイナポータル、資格申立書記入などで対処することになるでしょう。ここでも、「10割請求しない」というのが大事なポイントです。
なお、オンライン資格確認には「災害時モード」(災害医療情報閲覧機能)があり、マイナ保険証や健康保険証などを持参しなくても、(電気とネットさえ通っていれば)氏名や住所などから患者を特定して薬剤情報・診療情報などの閲覧が可能です。
災害時に持病の薬が必要なとき、お薬手帳を持ち歩いていなくても過去の履歴から薬を特定してすぐに出してもらうことができます。被災者が離れた避難所にいても、その近くの医療機関などで活用できます。
Q15.マイナ保険証を登録をしたけど解除できるの?
マイナ保険証=マイナンバーカードの電子証明書と保険情報の紐付けを解除したい場合は保険者にマイナ保険証の解除申出書を届け出ます。その後の保険診療のための資格確認書が送られてきて、その後は保険者が中間サーバーに解除依頼をして、1~2カ月で解除されます。
現状、従来の健康保険証が使える状態でマイナ保険証を解除する理由はなく、この間に使い方を確認すればいいとは思いますが、任意なので自由に解除は可能です。
なお、マイナ保険証の登録で「情報が漏洩しやすくなる」「国に医療情報が筒抜けになる」「健康保険証だけにすれば情報漏洩しない」などといったことはないでしょう。
Q16.マイナ保険証の有効期限は?
マイナンバーカードには有効期限があり、発行から10年(18歳未満は5年)で再発行が必要になります(正確には発行後10回目または5回目の誕生日まで)。
加えて、ICチップ内の電子証明書にも有効期限があり、こちらは5年(5回目の誕生日)になっています。電子証明書は、マイナ保険証やマイナポータルなどでも必要になるため、マイナンバーカードを使うのであれば更新は必須です。
マイナ保険証のカードリーダーで利用すると、「電子証明書の有効期限が3カ月以内に切れる」という表示がされる場合があります。それを目安に更新をするといいでしょう。この頃には、電子証明書の更新を促す案内も地方公共団体情報システム機構(J-LIS)から届くので、自治体(または指定郵便局)で電子証明書の更新を行います。
マイナ保険証のカードリーダーでは、有効期限が切れたあともアラートは表示されますが、3カ月間はそのまま利用し続けられます(医療情報などの提供の同意はできなくなります)。3カ月後が過ぎても更新しない場合、保険者から資格確認書が送られてきます。
運転免許証の更新を忘れる人が続出して無免許運転している人が多いということもないように、普通に更新できる人は多いはずで、しかも忘れたままでも自動的に資格確認書が送られてくるため、保険診療が受けられなくなるわけではありません。
そもそも、保険資格があるならば保険診療を受けることは可能です。健康保険証を忘れた場合に10割請求となっても、あとから保険者に申請すれば療養費として払い戻されます。それと同じ状況になるわけです。
今回は、最終的に資格確認書も送られてくることになるため、過度な心配はいらなそうです(運転免許証は更新を忘れるとそのまま失効します)。
Q17.健康保険証を残さないの?
歴史的にオンライン資格確認は、ICカードとセットで検討されてきました。もともと「資格過誤」と「転記ミス」を減らすための解決策として考えられてきたため、オンライン資格確認は健康保険証のICカード化が前提となっていました。その後、医療DXの入口としてのICカード化が検討されてきました。
必要なのは、「健康保険証をICカード化できるかどうか」です。それ以外の方策だと、ICカードを導入しないで一足飛びにスマートフォンに内蔵するぐらいしかありません。「ICカードのマイナ保険証は高齢者が使えないけど、スマートフォンなら高齢者も使える」という主張なら、物理カードではなくスマホでの展開を求める意見も理解できますが、いずれにしても永遠に紙の保険証を使うことはありえません。
日本の健康保険制度上、民間の保険者、しかも多くが赤字を抱えている中、さらにコストがかかるIC化を求めるのは難しいため、国が予算を付けるマイナンバーカードに集約するのは自然な流れでしょう。
諸外国では台湾、フランス、ドイツを始め、保険証をICカード化している国は多く、さらに欧州では今後「EUデジタルIDウォレット」というスマートフォンに健康保険証などを保管するサービスも開始しようとしています。日本でも、今後AppleやGoogleのウォレットにマイナンバーカードが搭載される見込みです(結果としてマイナ保険証も使えるようになります)。
今後の医療DXにおいて、電子カルテや電子処方箋は重要な役割を担っています。こうしたデータをほかの医療機関でも利用できるようにするのが医療DXの一環ですが、本人確認ができない健康保険証だと共有できないため、医療機関や薬局では情報を確認できません。そのため、マイナ保険証がその入口になるわけです。
こうした「最低でもICカード」という状況では、「いつ切り替えるか」という点が課題となります。その性質上、マイナ保険証はメリットを出しづらい仕組みです。情報が自分で確認できるので自分で健康管理が可能になることや、健康情報と健康サービスを組み合わせて、よりパーソナライズされた健康増進プログラムを提供できるなどといった、健康サービスに繋げることで魅力を出せるか、なかなか難しいかもしれませんが、医療の効率化に繋げたい国としてはここで普及させたいところでしょう。
なぜ今このタイミングか、というのは難しい判断です。何もしなくても少しずつマイナ保険証の利用率は上がっていくでしょう。恐らく、半数を超えても反対する人は反対しますし、課題はいつまでも存在し続けます。逆に言えばいつでもいいとも言えます。廃止のタイミングは国が責任を持って判断し、それによる不利益が極力発生しないように改善しつづけるしかありません。
現状、国の施策が万全とは感じませんが、良くなってきています。国も施策を進めながら問題を認識したらテンポ良く修正することが、信頼の拡大に繋がるでしょう。
小山安博 こやまやすひろ マイナビニュースの編集者からライターに転身。無節操な興味に従ってデジカメ、ケータイ、コンピュータセキュリティなどといったジャンルをつまみ食い。最近は決済に関する取材に力を入れる。軽くて小さいものにむやみに愛情を感じるタイプ。デジカメ、PC、スマートフォン……たいてい何か新しいものを欲しがっている。 この著者の記事一覧はこちら
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