佐野正弘のケータイ業界情報局 第139回 「ahamo」料金据え置きで30GBに増量、対抗するKDDIの秘策は“ネットワーク”

NTTドコモのオンライン専用プラン「ahamo」が、月額料金を据え置きながら通信量を30GBに増量したことが大きな波紋を呼んでいます。KDDIも「UQ mobile」「povo」で対抗プランを打ち出していますが、中容量とされる領域で知名度を持つahamoに対し、単に通信容量を増やすだけで勝ち抜くのは容易ではないだけに、競合他社はどのような戦略をもって取り組もうとしているのでしょうか?

「UQ mobile」「povo」の2本建てでahamoに対抗

去る2024年10月1日、NTTドコモが「ahamo」のサービス内容を一部変更したことが、大きな波紋を呼ぶこととなりました。それは、月額料金を2,970円に据え置いたまま、データ通信量を20GBから30GBに増やすというものです。

長期化する円安などの影響によってさまざまなモノの値段が上がるなか、料金据え置きのままデータ通信量が10GBも増量されるという、実質的な大幅値下げがなされたわけですから、ahamoの利用者にとっては嬉しい出来事であったことは確かでしょう。

この動きは、競合他社にも大きな衝撃を与えたことは間違いありません。なぜなら、データ通信の使い放題は必要ないがそこそこ利用する人に向けたいわゆる「中容量」の料金プランはahamoが開拓したものだからで、多くの中容量プランがahamoを意識して通信量を20GBに設定しているからです。

それだけに、ahamoの通信量が料金据え置きで30GBに増えたとなれば、競合他社のプランも必然的に追随しなければahamoに負けてしまいます。そこで早速、いくつかの携帯電話会社やMVNOがahamo対抗策を打ち出していますが、その1つとなるのがKDDIです。

同社は従来、ahamoの対抗プランとして、サブブランドのUQ mobileで、20GBのデータ通信量と10分間の通話定額が月額3,278円で利用できる「コミコミプラン」を提供してきました。ですが、ahamoの通信量増量が打ち出されたあとの2024年10月17日には、料金や通話定額などはそのままに、新たにデータ通信量を30GBに増やした新プラン「コミコミプラン+」を2024年11月12日より開始すると発表。無料で追加できる「コミコミプラン+ データ10%増量特典」をプラスすることで、さらに3GBが追加され、月あたり33GBのデータ通信量が利用できます。

ですが、KDDIの対抗策はこれだけに収まりません。オンライン専用の「povo」にも、新たに「360GB(365日間)26,400円」というトッピングを追加することを2024年10月17日に発表しています。こちらは、約1カ月(30日)に30GBのデータ通信量を2,200円で利用できる計算となり、通話定額などは付属しないものの、一層安く30GBの通信量が利用できます。「1年間トッピング デビュー割」を適用することで2,640円相当のau PAY残高が還元されることから、そちらを加えれば30GBを実質月額1,980円にまで抑えることが可能です。

NTTドコモ最大の弱み、ネットワーク品質での高評価をアピール

いずれのプランも、通信量や料金などの面でahamoより優位性があることを示していますが、決定的な差になるかというとそうはいかない、というのが正直なところでしょう。そこでKDDIは、さらなるahamo対抗策として、料金やサービスなどとは異なる面でのアピールに力を入れようとしています。

それはネットワークの品質です。2023年、NTTドコモは大都市部で著しい通信品質の低下を招き、顧客から非常に大きな不満の声が挙がるなど、ここ最近ネットワークの通信品質に大きな課題を抱えています。

そうしたことからKDDIは、ネットワーク品質の優位性を訴え、競争力を高めようとしている様子がうかがえます。実際、先のUQ mobileの新プランやpovoの新トッピングが発表されたのは、同社のネットワーク品質に関する説明会の場でした。

そこでは、調査会社のOpensignalが2024年10月に公表した調査レポートで、KDDIが最も高く評価されたことを示すとともに、その理由について説明。とりわけNTTドコモとの大きな違いとしてアピールしていたのが、4Gから転用した周波数帯を積極的に活用していることです。

実は、5Gのネットワーク整備戦略は携帯電話会社によって大きな違いがあり、NTTドコモは5G向けに割り当てられた「サブ6」と呼ばれる高い周波数帯の基地局を広く設置して5Gのエリアカバーを進めてきました。一方で、KDDIやソフトバンクなどは4Gから転用した周波数帯で5Gのエリアカバーを進め、サブ6の基地局は商業施設や鉄道路線など人が多く訪れる場所を中心として密に設置し、通信トラフィックを吸収するために活用してきました。

この整備戦略が、各社の通信品質に大きく影響しています。NTTドコモのように、電波が遠くに飛びにくいサブ6の基地局で面をカバーしようとすると、エリアに隙間が生じやすくなり、エリアの端の部分でアンテナは立つが通信ができない、いわゆる「パケ止まり」といった事象が発生しやすくなるなど、通信品質が低下しやすくなるそうです。

一方で、4Gからの転用周波数帯で広いエリアをカバーしていると、エリアの隙間が生じにくく、サブ6の基地局を密に設置しやすくなるので通信品質を落としにくいとのこと。それに加えてKDDIは、高速通信に対応するサブ6の基地局を他社より多く設置しているので、それらをフル活用できるようになった2023年度末以降、通信品質が急速に向上して評価が大きく高まったようです。

そうしたことから、新しいプランを提供するうえで、今後は通信品質の高さをセットでアピールすることで、ahamoに対抗していくのではないかと考えられます。NTTドコモもネットワーク品質向上策を進めているものの、依然として評判は向上せず弱みとなっていることは確かなだけに、KDDIはその弱点を突くことで競争力向上を図る考えなのではないでしょうか。

ただ、ネットワーク品質は環境変化によって評価も変わってくるだけに、現在の高い品質を維持し、他社に追い抜かれないようにするのもまた難しいところ。2022年のように大規模通信障害で信頼を大きく落とす可能性もあるだけに、KDDIには競争力強化のためにも、料金とネットワークの両面での対策が今後も求められることになります。

佐野正弘 福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。 この著者の記事一覧はこちら

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