東奔西走キャッシュレス 第49回 楽天ペイ、「だれでも最大1.5%還元」の勝算

楽天ペイメントが提供する決済サービスには、楽天ペイ/楽天Edy/楽天ポイントがあります。これまではそれぞれ別のアプリとして提供されていましたが、2024年の年末から2025年にかけて、「楽天ペイ」にアプリを統合する計画です。

それぞれのサービス自体は継続しますが、分散していたアプリを一本化することでさらなる利用拡大やコスト削減などを目指します。利用拡大策では、今までのカード制限をやめて、「誰でも1.5%還元」を打ち出した点が大きな転換となります。こういった楽天ペイメントの戦略を探ってみました。

○アプリの統合によって利用拡大へ

楽天Edyは2001年にサービスを開始した古参の電子マネーサービスです(当初の名称は「Edy」、2012年に「楽天Edy」へ名称変更)。物理カードとAndroidスマートフォンにおけるおサイフケータイに対応し、リアル店舗での利用が可能です。

楽天ポイントは2002年のスタート。Tポイントのサービス開始が2003年ですから、共通ポイントとしても古参の位置づけです。楽天経済圏の主力として多くの利用者を抱えており、年間発行ポイント数は2023年で約6,500億ポイント、累計発行ポイント数は2024年3月5日の時点で4兆ポイントを突破したそうです。

これに対して楽天ペイの登場は2016年10月。PayPayのサービス開始が2018年10月なので、これもやはり他社に先駆けていたといっていいでしょう。それでも、楽天Edy/楽天ポイントに比べれば新興サービスです。

結果として楽天グループとしては、「楽天Edy」「楽天ポイント」「楽天ペイ」という3つのアプリが併存することになりました。効率化などを目的としてこの3つのアプリを統合することは「3年ぐらい前から検討してきた」と同社の小林重信社長は話します。

これまでも「楽天ペイ」アプリに楽天Edyの機能や楽天ポイントの機能が一部導入されていましたが、これをさらに進めて既存機能を移行し、「楽天Edy」「楽天ポイント」の両アプリからの移行を促して「完全統合」を行います。具体的なスケジュールとしては、2024年12月ごろに「楽天ポイント」アプリを統合。「楽天Edy」アプリは2025年をめどに統合します。

サービス自体はそれぞれ継続し、それぞれのアプリも当面は残るので、あくまで「移行」というのが正確なところのようです。しかし、個々のアプリにしかなかった機能を「楽天ペイ」アプリにも搭載していくことで、「楽天ペイ」アプリだけを利用してもらうようにすることが狙いとのことです。

このアプリの統合には、まずコスト削減という一面があります。アプリをメンテナンスするにもコストがかかり、機能改善などの開発も必要です。今後のアップデートを一本化することでこうしたコストを一本化できるため、コスト削減の効果があります。

加えて、アプリ統合により利用の拡大も見込めるというのが小林社長の分析です。「楽天ポイント」アプリの利用がメインという人でも「楽天ペイ」アプリを起動することで、例えばポイントが貯まりやすい支払い方法として楽天ペイを選択するようになるかもしれません。「楽天ペイ」アプリの起動が増えることで、他のサービスへの誘導が増える可能性もあります。

実際、これまでに「楽天ペイ」アプリに楽天ポイント機能などを導入したところ、こうした傾向があったとのことで、統合によって利用拡大の効果を見込みます。

楽天ペイの月間取扱高は、2023年3月から2024年3月にかけての1年で、76%の伸びを示したそうです。同時期、業界全体の平均は37%増だったため「2倍速で成長している」(同社執行役員CMO・諸伏勇人氏)と同社は言います。「楽天ペイ」アプリのダウンロード数は年64%の増加だったことから、新規ユーザーが増え、既存ユーザーのアクティブ率も維持してきた、との判断です。

この利用の拡大をさらに進めるために、2024年に入ってから、銀行口座からの残高チャージにおいて対応金融機関数を260以上に拡大。現金利用にも対応するためにセブン銀行とローソン銀行のATMでのチャージに対応。さらに楽天ラクマサービスにおける売上金を楽天ペイに自動でチャージする機能も追加しました。

諸伏氏はこれらについて「入口の大幅強化」と表現。これらは残高チャージをしやすくして利用の拡大を図る施策でしたが、さらに出口(決済利用)を増やすための施策も打ち出します。
○「だれでも」1.5%還元

その最初の施策が「チャージ払いならだれでも最大1.5%還元」です。現在、楽天ペイでは楽天カードから楽天キャッシュにチャージすると0.5%、そのチャージした残高で支払いをすると1.0%の還元をしています。

このチャージ時の0.5%還元を撤廃して支払時の還元に統合することで、「セブン銀行ATMやローソン銀行ATMからの現金チャージや、全国260以上の金融機関からの銀行口座チャージなどであっても、支払いで1.5%還元する」という仕組みになります。この変更はチャージ払いのみのもので、楽天ポイント/楽天銀行口座/楽天カードといった支払い方法での1%還元は変わりません。この施策は2024年夏からのスタート予定です。

今まで、「特定のチャージ方法のみ」だったチャージ方法が、セブン銀行やローソン銀行の現金チャージなどに対象を拡大しましたが、他社クレジットカードに対しては「オープン」にしていません。現金や銀行口座チャージによる還元によって、いかに新たな利用を獲得できるかがポイントになるでしょう。

この“間口を広げる”という狙いから、新規ユーザーの拡大をさらに強化します。「楽天ペイ」アプリからのポイントカード提示の初めての利用者には、もれなく10倍のポイントを還元。既存の利用者には抽選で10倍ポイント還元を行います。アプリ経由のポイントカード向けの特典では「史上最大級」だと言います。この施策は4月18日からの提供です。

2024年夏には、楽天ペイにチャージしてのコード決済を初めて行った人、もれなく全員に最大20%を還元するキャンペーンも実施。また楽天モバイル契約者は楽天市場での買い物で5倍のポイント還元になりますが、新規契約から3カ月間、楽天ペイのコード決済においてチャージ払いの1.5%還元にさらに3.5%を上乗せし(月間2,000ポイントまで)、計5%を還元する施策も2024年夏に行います。楽天市場のオンライン決済だけでなく、リアル店舗での決済にも還元率を高めることで、利用の促進を図ります。

さらに今後、アプリ統合の第2弾として楽天カードとの連携を進めて、分割払いやリボ払い/キャッシングなど、楽天カードの主要機能を「楽天ペイ」アプリから操作できるようにする計画です。

これによって「楽天ペイ」アプリを楽天グループの決済サービスを統合したアプリとします。楽天ペイは、楽天経済圏の主力決済として位置づけられますが、アプリが分散していた点、金融サービスとの連携が遅れている点が弱点になっていたとも言えるでしょう。これに対して、まずはアプリを統合することで利用を一本化するわけです。

今後は、楽天銀行や楽天証券といった金融サービスとの連携をいかに深められるかがポイントになるでしょう。PayPayはすでにスーパーアプリとして決済/金融サービスの統合を進めていますが、楽天グループはさらにサービスが広く深いため、今回の決済サービスにおいてのような「完全統合」は難しいでしょう。

楽天グループとして、楽天ペイを「決済アプリ」にとどめるのか、「金融スーパーアプリ」まで育てるのか。今回、そこまでの回答は得られていませんが、今後の同社の戦略に注目です。

小山安博 こやまやすひろ マイナビニュースの編集者からライターに転身。無節操な興味に従ってデジカメ、ケータイ、コンピュータセキュリティなどといったジャンルをつまみ食い。最近は決済に関する取材に力を入れる。軽くて小さいものにむやみに愛情を感じるタイプ。デジカメ、PC、スマートフォン……たいてい何か新しいものを欲しがっている。 この著者の記事一覧はこちら

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