史上初の民間宇宙遊泳が成功。テック起業家ら4名が、宇宙の真空に

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Image: SpaceX

9月12日、史上初となる民間宇宙飛行士による宇宙遊泳が実現しました。「Polaris Dawn」と名付けられたこのミッションの成功は、民間宇宙飛行の新境地を切り拓く歴史的な瞬間となったわけです。

「Polaris Dawn」ミッションとは

今回のミッション「Polaris Dawn」は、テスラの創業者でありXの現CEOであるイーロン・マスクによる民間宇宙開発企業のSpaceXが取り組んだもの。

フロリダ州にあるNASAケネディ宇宙センターから、現地時間の9月10日早朝にSpaceXのファルコン9ロケットによって打ち上げが成功しました。

宇宙船には、テック起業家のJared Isaacman氏4名の民間宇宙飛行士が搭乗。今回使用された宇宙船である「Crew Dragon」は、Isaacman氏自身が購入したものであり、同氏は今回のミッションの司令官を努めました。

打ち上げ後、ミッションはアメリカ東部時間で9月12日の早朝に行なわれ、そこで世界初の民間宇宙遊泳を成功させたのです。

世界初の民間宇宙遊泳の景色とは

SpaceXはX上でその一連の様子をポストしており、4名の乗組員全員が宇宙の真空に出たことを伝えています。船室再加圧される前(=宇宙遊泳ミッションが終了する前)に、そのうちの2名が宇宙船のハッチの外に出たとのことです。

ちなみに、Crew Dragonは国際宇宙ステーションとは異なり、宇宙船にエアロックが搭載されていません。そのため、ミッション開始前から船内を減圧して宇宙遊泳の準備をする必要がありました。減圧に慣れた後で、ハッチを開けて4人の宇宙飛行士が宇宙にさられた、という手順でした。

最初に宇宙船の外に出たのはIsaacman氏で、そこから見慣れた地球の色合いを眺めたようです。同氏は、今回の宇宙遊泳のために特別に設計されたSpaceXの最新の宇宙服の稼働テストを行ない、その後船内に戻りました。Isaacman氏の後には、SpaceXのエンジニアであるSarah Gillis氏が続き、ハッチの外で同様に一連のテストを実施しました。

SpaceXはこの様子をライブストリーミング配信し、宇宙の深い闇に包まれた宇宙飛行士たちの姿を映像として届けました。地球を背景に宇宙船につながった状態でぎこちなくも身体を動かす彼らのシルエットも見受けられます。

Isaacman氏は船外活動中に「家に戻ればみんなやるべき仕事がたくさんあります。が、ここから見ると地球はたしかに完璧な世界に見えます」と語っています。

ほかにも重要なミッションがあった

「Polaris Dawn」ミッションでは、ほかにも多くの“初”となる任務の達成を目指していました。

そのひとつが、放射線が宇宙飛行士に及ぼす影響をテストすること。Crew Dragonは、打ち上げから1日経ち、SpaceXの宇宙船で史上最高高度となる約1,400kmの最高軌道に到達しました。この高度は地球を取り囲む「ヴァン・アレン帯」と呼ばれる放射線帯の領域であり、ここに飛び込むことで今回のテストの実施をしたとのこと。

さらに、「Polaris Dawn」では、SpaceXの衛星インターネットシステムである「Starlink」のレーザー通信のテストも行ないました。Starlinkはレーザーを使用して衛星間のデータを中継します。同社は、この技術を将来的な月や火星でのミッションにおける通信システムに役立つように開発したいと考えているそうです。

無事に帰還!

史上初となる民間宇宙遊泳を含む5日間のミッションを終え、Crew Dragonはアメリカ東部時間の9月15日早朝にフロリダ沖に着陸し、無事帰還を果たしました。

この5日間の間に先述のテストや宇宙不適応症候群(いわゆる「宇宙酔い」)の理解を深めるものなど30件以上の科学実験と研究プロジェクトが実施されました。

今回、民間宇宙飛行としての船外活動は初の試みでしたし、弾道飛行も通常をはるかに凌ぐものでした。非常に大きな達成として宇宙開発の分野として今後につながるものになったことは間違いないでしょう。とはいえ、「民間初」と銘打たれたこの達成も、それを自宅で見ている私たちは、宇宙がまだまだ遠いと改めて感じることにもなったかもしれません。

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