海鳥「なぜハリケーンを追いかけるかって? そこにエサがいるからさ」

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科学者が椅子から転げ落ちそうになるほどの衝撃。

ハリケーン、サイクロン、台風。呼び名は違えど、世界中の誰もにとってできる限り近寄ってほしくない、近寄りたくない破壊的な自然災害。でも、世界には、千載一遇のチャンスとばかりにハリケーンを追いかける海鳥がいます。

ハリケーンに向かって飛ぶ海鳥

ウッズ・ホール海洋研究所の科学者らからなる研究チームが科学誌Current Biologyに発表した論文によると、北大西洋に生息する希少な海鳥であるデゼルタス・ミズナギドリは、他の外洋性海鳥とは対照的に、ハリケーン(熱帯性暴風雨)を避けるのでなく、荒れ狂う自然の脅威をエサの確保に利用しているといいます。体のサイズはハトくらいなのに、大きくて強いハートを持っているようですね。

先行研究では、海鳥はハリケーンの周りを飛ぶか、晴れている穏やかなハリケーンの目の中に逃げ込むとされてきました。ところが、研究チームが追跡したデゼルタス・ミズナギドリの3分の1がどちらの行動もとらず、数日間、何千kmもハリケーンを追いかけ続けたとのこと。

ウッズ・ホール海洋研究所の生物学博士研究員で、論文の筆頭執筆者でもあるFrancesco Ventura氏は、今回の発見について

データを見たとき、椅子から転げ落ちそうになりました。こんな行動を観察したのは初めてです。

プレスリリースで語っています。

デゼルタス・ミズナギドリは、まずハリケーンを追いかけて飛び、追いついてからは追い風に乗って移動しながらエサを捕るといいます。研究に携わった同研究所のCaroline Ummenhofer氏は、この行動について次のようにコメントしています。

海鳥が北大西洋の広範囲にわたる風の状況を移動にうまく使う方法を熟知しているのは驚きでした。平均風速とミズナギドリの採餌行動を重ねると、ほとんど一致しています。

デゼルタス・ミズナギドリの驚異的なハリケーン追跡飛行の発見はまだ続きます。Ventura氏は、ハリケーンの強風にあおられてもたたき落とされない飛行テクニックを説明します。

私たちは、最大8mの波や、時速100km(毎秒28m)の強風などの激しさを増すストームの状況と、ミズナギドリの位置を照らし合わせました。すると、彼らは強風にぶつかると、翼が傷つかないように対地速度を落としていたようです。その後、ストームの進路に沿って、追い風の強いルートを飛行しました。驚くべきことに、追跡した海鳥たちは1羽もストームの被害を受けずに巣に帰りました。

エサを求め、嵐を追いかける海鳥

デゼルタス・ミズナギドリは、北アフリカ西岸沖にあるポルトガルのブギオ島に巣を構えます。険しい崖に囲まれた台地が、200組弱のつがいにとって唯一の営巣地です。6カ月におよぶ繁殖期の間、エサを求めて時に数週間、12000kmもの距離を飛び回ります。

彼らが探し求める小魚やイカ、甲殻類は、通常水深180mから900mに生息しています。もちろん、海鳥はそんな深さまで潜れません。穏やかな海では捕まえられないエサが海面付近まで浮上してくる絶好の機会を求めて嵐を追いかけるんです。

ハリケーンやストームの強風は、海洋の上層部をかき混ぜます。デゼルタス・ミズナギドリは、海水と一緒に海面に浮いてきたエサを捕まえます。ハリケーンハンターは、忍耐強い漁師でもありますね。

ストームは、海洋や沿岸地域の生態系に大きな影響を与えます。今回の研究結果によって、破壊的なストームが、ある種にとってはプラスの機会を生み出す可能性を示しています。

しかし、ストームが遠洋の海洋生物にどんな影響を与えているのかは、まだあまり知られていないそうです。ウッズ・ホール海洋研究所のPhilip Richardson氏は研究の意義について以下のように述べています。

今回の研究では、食物連鎖のトップにいる捕食者を通して、ハリケーンが海洋生態系に与える影響に関する新たな視点が得られました。またこの研究は、極端な気象に対する外洋性海鳥のレジリエンスと採餌行動について貴重な洞察を与えています。

エサを追い求めて何日も何千kmもハリケーンを追いかけ、風もエサもつかまえて、無傷のままエサを待つ家族の元に帰っていくデゼルタス・ミズナギドリ。最高のハンターですね。

Source: Ventura et al. 2024 / Current Biology, Hole Oceanographic Institution

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