暑さが止まらない…世界平均気温が12カ月連続で過去最高更新

shutterstock_2180966313

Image: Lamyai / Shutterstock

過去12万5000年で最も暑い12カ月を更新中。麻痺しちゃいそう。

EUの気象機関Copernicusによると、5月の世界平均気温が同月として過去最高を記録しました。また、昨年6月から12カ月連続で観測史上最高記録を更新しています。

最も暑い5月

EU_Monthly Global Average Temp 2024-05

Image: Copernicus
2023年6月から2024年5月までの各月における世界平均気温偏差(トップの赤線)

2024年5月の世界平均気温偏差は、平年(1991年から2020年)よりも0.65度、産業革命前(1850年から1900年)と比較して1.52度高い過去最高を記録しました。

昨年夏に発生して平均気温を押し上げていたエルニーニョ現象が終息し、夏から秋以降には逆に気温を押し下げるラニーニャ現象が発生すると予想されています。そのため世界平均気温偏差は、1.5度未満に下がっていくと見られています。下がらないと説明がつかなくなるので、下がってもらわないと困ります。

最も暑い12カ月間 & 11カ月連続1.5度超え

EU_12-month mean global temp 202306-202405

Image: Copernicus
1940年1月から2024年5月における世界平均気温偏差の12カ月移動平均値(基準年は1850年から1900年)

また、昨年6月から今年5月までの12カ月間も圧倒的な過去最高ぶりでした。1991年から2020年までの30年間の平均と比較して0.75度、産業革命前(1850年から1900年)よりも1.63度も高くなり、観測史上最高をとんでもなく更新してしまいました。過去12万5000年で最も暑い12カ月間でもあります。

そしてパリ協定の努力目標である産業革命前比の気温上昇1.5度未満のラインを、昨年7月から11カ月連続で超えてきました。昨年の年間世界平均気温は、産業革命前比で+1.48度と、辛うじて1.5度の壁を超えずに済みました。でも、今年1月からは直近12カ月間の平均気温が+1.5度を超え続けています。

ちなみに、月間世界平均気温が過去最高を更新し続けた最長記録は、史上最強レベルのエルニーニョにステロイドを注入された2015年5月から2016年7月にかけての15カ月間連続でした。今回のエルニーニョ現象が「強い寄りの普通」レベルだったのもあって、さすがに15カ月連続は破らないと思われます。

でも、「史上最強エルニーニョ+温暖化」が作った月間と年間の過去最高気温を、「強い寄りの普通エルニーニョ+温暖化」が軽くぶっちぎったのは、ちょっとしたサプライズでした。

しかも、通常はエルニーニョ現象が発生した年ではなく、終息する年に過去最高を更新するんですね。なので、今回のようにエルニーニョ現象が発生した昨年の年間世界平均気温が過去最高になったのは意外でした。

船舶からの大気汚染の減少や、2022年のフンガトンガ火山噴火による水蒸気などの影響もあって、予想外に気温が上昇したとみられていますが、それでも説明し切れていないんですよね…。

エルニーニョ現象の終息とラニーニャ現象への移行によって、世界平均気温は+1.5度未満の領域へと戻ります。ですが、それも長く続きそうにありません。世界気象機関(WMO)によると、今年から2028年までに、80%の確率で年間の世界平均気温が+1.5度を少なくとも一度は超えるそうです。

1.5度超えの意味

パリ協定の「2度を大きく下回って1.5度未満」という目標を、昨年6月から11カ月連続で突破中ですが、あくまでもまだ「一時的に」超えただけで、パリ協定の+1.5度目標達成に失敗したわけでも、不可能になったわけでもありません。5年から10年くらい安定して+1.5度を超えて、初めて「+1.5度目標大ピンチ」となります。

なぜ「終わった」じゃなく「大ピンチ」なのかというと、そもそも+1.5度を一時的に超えるのは織り込み済みなんですね。現時点でパリ協定に合意している各国が自主的に定めている目標をすべて達成しても、2100年までの気温上昇は+2.5度を超える見込みです。

目標を超えるのを「オーバーシュート」と呼ぶのですが、オーバーシュートしてからどれくらい早期に+1.5度未満まで気温を下げるかによって、将来的な気候変動の影響は大きく左右されます。

+1.5度を超えないまま目標を達成できると考える専門家はほとんどいないはずです(科学的に不可能ではないけど、実現はかなり困難)。でも、一時的にオーバーシュートしても、2100年までに+1.5度未満まで戻せると考える専門家はかなり多いと思われます。

なので、「パリ協定の1.5度目標終わった」と決めつけるにはまだ早いです。それに、1.5度は目安として目標にしている数字です。目標は常に次の0.1度上昇を抑える、です。

気候変動対策あるのみ

平均気温の上昇に伴って、各地で熱波や干ばつ、山火事、集中豪雨、洪水、土砂崩れなどの気象災害の激甚化と頻発化が懸念されます。長期的な気温上昇の影響に目が行きがちですが、極端な暑さに脆弱(ぜいじゃく)な人や生態系を守るためにも、一刻も早い野心的な気候変動対策の実施が望まれます。早ければ早いほど、温暖化の影響を小さくできます。

再生可能エネルギー導入の加速、大気からの二酸化炭素回収・貯留(回収した炭素を化石燃料掘削に再利用しない方)、最悪の場合は気候ハック (ジオ・エンジニアリング)を駆使してでも、ネットゼロ(排出量と吸収量がプラマイゼロになる)と脱化石燃料を早急に達成しなければなりません。そして、自然(海や土壌、森林など)の力を借りながら二酸化炭素濃度を下げれば、気温は+1.5度未満に向かって下がっていきます。

もしも野心的な気候変動対策を迅速に実施できなければ、昨年から今年にかけてのとんでもない暑さが、遠くない未来では「涼しめの年」になってしまうでしょう。

昨年は気候科学者の想像を超える暑さでした。今のところ、今年はサプライズなしで世界平均気温は順調に下がっています。もしも今後サプライズがあるとすれば、とんでもない暑さだった昨年の夏を超えてしまうこと。そうなると、2年連続で「気候科学者が説明できない暑さ」になってしまいます。

まずは、6月も過去最高になるのかどうか、固唾(かたず)を飲んで見守ります。

北極から氷が消える日

Source: Copernicus

Reference: The Conversation, NOAA Climate.gov, The Washington Post, Copernicus (1, 2), Climate Central, WMO

ジャンルで探す