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一番新しい言語ってナニ?専門家に聞いてみた

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Illustration: Vicky Leta/Gizmodo

この世界に存在する言語の数は、数千にものぼるそうです。アラビア語や中国語のように長い歴史を持つ言語がある一方で、まだできてから日の浅い言語も存在します。では、その中で最も新しい言語とは何語なんでしょう?今回のGiz Asksはそんな疑問を専門家にぶつけてみました。

Ben Macaulay

ニューヨーク市立大学大学院センターで言語学の博士課程、現在はスウェーデンのマルメに在住。研究分野は韻律、抑揚、危機に瀕する言語の記録。米Gizmodoに寄稿したこともある。

人工言語(エスペラントやクリンゴン語のように意図的に考案された言語)を除外したとしても、新しい言語は大抵2つのうちいずれかの状況で絶えず自然に形成されています。1つ目は耳の聞こえない子供が耳の聞こえる人々だらけの環境で育てられた時。この状況では、その子供と身内の聞こえる人々との間に「ホームサイン」と呼ばれる手真似が生まれます。こういったホームサインは確立された手話ほど文法的に複雑だったり安定したりしていないかもしれませんが、そうなる可能性もあります。記録されている事例が、1980年に入学した耳の聞こえない生徒たちの集団と彼らが発展させたホームサインの構造に起源を持つ、ニカラグア手話(NSL)です。NSLは現在、最初の使用者たち(今も存命)を含む数千人に使われています。アル=サイード・ベドウィン手話も生まれてから1世紀にも満たない言語で、耳の聞こえない人の割合が高いイスラエルのネゲヴ地域で誕生しました。村では、耳の聞こえない人と聞こえる人の両方がこの言語を使っています。

新たな言語が自然発生するもう1つの状況は、双子の存在です。双子(あるいは年の近い兄弟姉妹)は一緒に過ごす時間が長いと、「独自の言語」と呼ばれるものを生み出すことがあります。こういった言語はホームサインと異なり、使用する子供が家族や社会の言語環境に取り込まれるため、ほとんどの場合は発展し固定することはありません。長くにわたって残っていた独自の言語の1つに、英国ウェールズで1963年に生まれ育った双子ジューン&ジェニファー・ギボンズが話していたものがあります。この双子は村で唯一の黒人で、仲間外れにされていました。双子は英語も話せましたが、社会的に孤立するにつれて、ほとんどの人と全く口を利かなくなって、2人の言語でお互いにしか話さなくなっていったそう。伝えられるところによると、彼女たちは双子のどちらかが死ぬまで、独自の言語を話続ける約束をしていたとか。施設への収容や双子を離れ離れにしようと何度も試みたにもかかわらず、その約束は1993年にジェニファー・ギボンズが亡くなるまで守られ、その後ジューンは再び英語を話し始めるようになったのです。彼女たちの物語はエンタメや犯罪ドキュメンタリーのメディアで取り上げられてきたものの、双子の独自の言語については言語学的な解説が何もなされていません。

これらの新生の言語以外に、政府によって言語の「規格化」された形態が作り出されて押し付けられたケースもあります。例えば、私たちが「イタリア語」や「ドイツ語」として知っている言語は、政治的や言語学的に必ずしも統一されていなかった地域で話されています。イタリック語派とゲルマン語派言語の既存の方言を大まかに基にしているとはいえ、教科書で習うイタリア語やドイツ語はある意味「構築された」ものかつ既存の地方言語を持つ地域に押し付けられた形態であって、この状態は「ダイグロシア(註:二言語使い分け)」と呼ばれています。近年の例だと、1945年にインドネシアで広く使われるようになったインドネシア語でしょう。この言語はインドネシア国内の多くの地方言語と同じようにマライック諸語であり、今でもインドネシア語と各地のマライック諸語とで二言語併用されています。

あらゆる言語が数世代にわたって徐々に変化することを考えると、ほかの言語を「新しい」対「古い」に分類するのは概して不可能で、それゆえある時点をその「起源」として選ぶことも難しくなります。よく「新しい言語」としてあげられるのは、18世紀にオランダ語から派生したアフリカーンス語。しかしどんな方言も枝分かれしますし、1つの変種を「新しい言語」と呼ぶことを正当化できるほどの分岐が生じたという境界線がどこかは曖昧なものです。この境界線は2種がもはや「互いに理解できる」状態でなくなった時とされることもありますが、オランダ語とアフリカーンス語の話者はいまだにある程度理解し合えます。それからデンマーク語のように、ノルウェー語/スウェーデン語の話者が理解に苦労するものの、デンマーク語話者はノルウェー語/スウェーデン語を容易に理解できるというケースも存在します。この100年間でデンマーク語が経た急激な変化を考えると、現代のデンマーク語も「新しい」言語かもしれません。教科書を手に入れられる「新しい言語」を探しているなら確実なのはインドネシア語、アフリカーンス語、デンマーク語です。

Jessica Rett

カリフォルニア大学ロサンゼルス校言語学教授と大学院教員

一番新しい言語を特定しようとするのは、最も新しい動物を特定しようとするようなものです。彼らは絶えず進化していて、そして1つのバージョンからまた別のバリエーションへとはっきりと分離します。言語は社会現象だという事実も加えると、この仕事はさらに難しくなります。

とはいいつつも、2つの例が浮かびます。

1つ目は構築された言語(人工言語)を伴う例で、大勢の言語学オタクが協力して新言語を発明するというものです。有名なのは映画『アバター』のために南カリフォルニア大学の言語学者ポール・フロマーがつくったナヴィ語。クリンゴン語も別の実例です。開発する人たちはものすごいオタク気質で、とても熱心に取り組みます。そして言語は非常に完成されています。

しかし幸か不幸か、新しい言語が自然発生するには理想的とは言えない状況があり、それが2つ目の例、ニカラグア手話(Idioma de Señas de Nicaragua)につながります。

前世紀中頃のニカラグアにおける耳の聞こえない子供たちの生活は、理想的なものではありませんでした。コミュニティも共通言語もなく、概して家に閉じ込められていたからです。肉親との間にいい加減な手話のようなものをつくるかもしれませんが、家族以外と意思疎通する手段を持っていませんでした。

それが70年代末期と80年代初頭、サンディニスタ革命とともに変わったのです。サンディニスタは耳の聞こえない子供たちのためのろう教育を優先し、彼らを新たに創設されたろう学校へバス通学させ始めました。そして人生において言語を与えられてこなかったこの子供たちが、自発的にNSLを作り出したのです。この言語はかなりの短期間で、ピジン言語や幼児語のようなものから本格的な言語へと変わりました。言語学史上最も興味深い物語の1つです。

Jacob Aziz

カリフォルニア大学ロサンゼルス校言語学博士課程学生

ほとんどの言語は自然に進化するため、言語の「年齢」を特定しようとするのは難題です。ですからどんどんさかのぼっていくと、言語は厳密な開始日を示すことなく少しずつ変わってゆくのが分かります。例えば、近代英語は古英語から、古英語はゲルマン祖語から、ゲルマン祖語はインド・ヨーロッパ祖語から生まれたというように。

しかし、言語がある特定の時点で生じることがたまにあるようです。そういった言語の1つは人工言語、つまり意図的に作られた言語です。メディアの中ではしょっちゅう人工言語を目にしますし、私たちが知っている人工言語のほとんどが近代のものなので容易に年代を推定できます。クリンゴン語は80年代に『スター・トレック』映画のために、ドスラク語はもっと最近になって『ゲーム・オブ・スローンズ』のためにつくられました。誰でも独自の言語をいつでも作ることできますから(実際、「人工言語作成者」の大きなコミュニティがある)、新たな人工言語は常に生まれています。しかし、自然言語のみについて話したいなら、ほかにもいくつか言語「誕生」の例があります。

接触言語とは、2つ以上の言語の接触を通して生まれる言語です。言語は絶えず接触しており、スペイン語からのtaco、日本語からのtsunami、そしてアラビア語からcoffeeというように他の言葉から借用した単語が多い英語にさえもその影響は見られます。近代英語では、接触は主に個々の単語の借用に終わっていますが、接触した言語が語彙だけでなく文法においても互いに大きく貢献することがあり、その結果生まれる言語は起点言語の話者には認識できないものとなります。その一例が、カナダ西部とノース・ダコタ州のメティスの人たちによって話されている混合言語・ミチフ語です。ミチフ語は名詞とその構造が主にフランス語から、一方で動詞とその構造が主にクリー語からきているという点で混ざり合っています。このような言語の誕生時に、2つの言語の混交がきちんと記録されているなら、発生した時代は容易に推定できます。ミチフ語の場合、特徴的なフランス語/クリー語の分裂が1800年代初頭のどこかで生じていた可能性があり、世界の中でも「一番新しい」言語となるかと…。

…もし意図的に考案されたわけでも他の言語から進化したわけでもない、直近で発生した言語を特定したいのなら、私の知る限りで要件を満たすのはニカラグア手話でしょう。

Elaine Gold

カナダ言語博物館の代表

人工言語作成者たちは常に新たな言語を作っているようですが、すべてが定着して広まるわけではありません。私は、新しくて発展しつつあるように思われるトキポナに一票入れます。これはカナダの言語学者ソニャ・ラング氏が2001年につくった言語で、2014年の彼女の著書『Toki Pona: The Language of Good』の中で詳しく述べられています。夏にはトキポナの辞書が発売されました。

人工言語作成者とは人工言語を開発する人たちのことで、人工言語とは特定の目的のために生み出される言語です。最も広く使われている人工言語はおそらく世界中の人たちと意思疎通を容易にするため1887年に生み出された言語、エスペラントでしょう。『スター・トレック』のために開発されたクリンゴン語やJ・R・R・トールキンが生み出した数ある言語の1つであるエルフ語など、多くの人工言語が空想の世界の一部として作られてきました。こういった言語は、非常に多くの話者たちの交流によって数世紀にわたって自ずと発展する自然言語とは異なるものです。

開発者のソニャ・ラング氏は、トキポナをこう記述しています。「トキポナは私が2001年に発明した人間の言語です。人生の意味を120個の単語で理解しようとする試みでした。今では数千の話者と137個の必須単語があります」。つまりトキポナはほぼ間違いなく一番新しい言語であるだけでなく、最小の語彙を有する言語でもあるのです。最もシンプルなツールで真意を表現するために、一定の創造性を強いる言語。これは、世界中のどの言語よりも群を抜いて語彙が豊富な英語の対極だと考えられます。

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