なぜアメリカ人は、大げさな言葉で相手をほめるのか? 部下の心に響く「ポジティブ・フィードバック」とは

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 DXの導入により、各企業で仕事の内容や進め方が大きく変化している。従業員のリスキリングやITエンジニアの採用、IT企業との協力に多大な資金とエネルギーが費やされている。だが一方で、肝心のチームマネジメントが従来の“日本的な管理方法”のままであるため、企業や組織、そして働く人がDXの恩恵を享受するに至っていない――。本連載では『DX時代の部下マネジメント』(ロッシェル・カップ著/経団連出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。変革の時代のリーダーシップのあり方とは? そしてチームの究極の姿である「自ら動く自己管理型チーム」を創出するには? GAFAM(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフト)など世界一流の企業で採用されているマネジメント法から、DX時代に合った具体的な手法を紹介する。

 第3回は、積極的に取り入れたい上司の必須スキル「ポジティブ・フィードバック」を解説。部下のよい行動を認めて感謝を伝え、バランスのとれたフィードバックを行う方法を具体的に紹介する。

<連載ラインアップ>
第1回 スティーブ・ジョブズの言葉に学ぶ 部下の士気を上げるには、なぜ“ムチ”より“アメ”がはるかに有効なのか?
第2回 なぜ部下は、すぐにあなたを頼ってしまうのか? 指示待ち型の部下を自ら動かすための「11の戦略」
■第3回 なぜアメリカ人は、大げさな言葉で相手をほめるのか? 部下の心に響く「ポジティブ・フィードバック」とは(本稿)
第4回 グーグルでも実証 「心理的安全性」を高め、チームのハイパフォーマンスを生み出すための舞台設定とは?
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日本人のほめ言葉アレルギー

DX時代の部下マネジメント』(経団連出版)

 欧米人と比べて、日本人の多くは感謝の言葉やほめ言葉を口に出すことにアレルギーといってよいほどの強い抵抗感を持っています。それには様々な理由が考えられます。

[1] 言葉は必要ないと思われている

 そもそも日本文化には、心を通わせていれば、言葉が少なくてもわかり合えるという「以心伝心」や「あうんの呼吸」の感覚があります。上司が部下の仕事に満足しているのであれば、わざわざそれを言葉で伝えなくても部下は当然わかるはずだという思い込みがあります。

[2] 完璧ではないものをほめたくない

 日本人の多くは完璧主義者で、常に改善を目指してがんばる傾向が目立ちます。このため、まったく欠点がない状態でなければほめたくないという心理が働き「ほめたら努力しなくなる」と心配する人がかなりいます。また「努力するのは当たり前だから、別にほめる必要はない」と考える人もいます。

 言い換えれば、これらは減点主義です。よくできた部分を強調するのではなく、改善する余地のあるところに意識を集中するという考え方です。

[3] ほめることは相手への軽視にもなる

 日本人は必ずしもほめ言葉を喜んだり、歓迎しないということもあります。ほめ言葉が皮肉や揶揄、軽視の意味合いを持つ場合があるからです。「ほめ殺し」という表現まであります。これは欧米には存在しないコンセプトであるため、なかなか英訳しにくい言葉です。

 私は、だいぶ以前に聞いた、弊社のある日本人顧客の言葉が忘れられません。

「ほめ言葉なんて、子どもや女性のために使うものだと思っていた」

 そのように、日本ではほめることに相手をごまかしたりお世辞を言ったりするような意味合いもあるのです。

 しかし、そんな感覚からは卒業した方がよいでしょう。相手の行動に満足しているときには、不満があるときと同様に言葉で表現すべきです。そうしなければ、部下は自分の努力に対して感謝されていることが実感できず、問題点ばかりが指摘されるという暗い雰囲気の職場になってしまいます。

 これから紹介するポジティブ・フィードバックには、相手をごまかしたり、慇懃無礼な意味合いはなく、お世辞のように過剰でもありません。事実に基づく指導効果もあるので、マネージャーには積極的に利用していただきたいものです。

ポジティブ・フィードバックの効果

 ポジティブ・フィードバックとは何か。簡単にいえば、相手のよいと思われる行動を指して、何がよいかを口に出して伝えること、相手の望ましい行動を認めて、感謝の気持ちを伝えることです。「ほめる」ことと同義ですが、ほめるという行為に抵抗を感じるようでしたら、「とてもよかった」「あれは大丈夫だった」「あの件に対して満足している」などと評価を伝える手段として、ポジティブ・フィードバックをとらえましょう。

 ポジティブ・フィードバックはできるだけ頻繁に行う方が望ましいといえます。部下の仕事に満足したとき、うれしかったときに、口に出すようにします。第4で紹介したネガティブ・フィードバックは部下ひとりに対するものですが、ポジティブ・フィードバックは個人にもグループにも行うことができます。

 たとえば、個人がよい仕事をしたときはその個人に、チームがよい成果を出したときはチームに、それを伝えることができます。いずれも、明確な言葉で伝えることが大切です。笑顔やしぐさなど言葉以外の方法に依存すると、自分の気持ちが明確に伝わらないおそれがあるからです。

 ポジティブ・フィードバックの効果は、心理学ではpositive reinforcementと呼ばれ、日本語では「正の強化」と訳されています。アメリカの社会では、広く心理学のコンセプトが浸透しています。心理学の本がベストセラーになり、心理学者にはテレビ出演の機会が多く、企業でも心理学的なアプローチから様々なマネジメント手法が取り入れられています。

「正の強化」は日本人ビジネスパーソンにとってなじみのない言葉ですが、アメリカ人ビジネスパーソンならおそらく90パーセント以上はpositive reinforcementのコンセプトを知っています。

「正の強化」の定義は、相手が望ましい行動をするとき、それに対して何かよいもの(褒美)を与えることです。相手はその褒美をまたもらいたいと思い、同じ行動をすることで、その行動が強化されます。

 わかりやすい例に犬のトレーニングがあります。犬に「お座り」と言って、犬が座れば「よし」と言ったり、褒美をあげたりします。そうすると、次に「お座り」と言われたとき、犬は座るようになります。褒美をもらいたいからです。それが「正の強化」で、犬の望ましい行動を強化する効果を持っています。

 この原理で動くのは人間も同じです。そのため、部下を動かしたり部下のよい行動を奨励したい上司にとって、有力な道具になるのは間違いありません。

 もちろん人間の場合は誠実さが伝わる時だけ効果があります。ほめなくては、感謝しなければ、認めなくてはと思って、無理やり、機械的に言及するのでは逆効果です。

ポジティブ・フィードバックの方法

 部下に感謝する際に、多くの上司は「ご苦労さま」や「Good job!」のような短い表現を用います。これでも何も言わないよりはましですが、その効果は限定的です。

ポジティブ・フィードバックをする際にも、第4章で紹介したネガティブ・フィードバックの3つのステップと同様の方法を使うとよいでしょう。そうすれば、フィードバックの効果がより一層期待できます。

 アメリカ人と一緒に働いたことがある人ならば、アメリカ人は相手をほめたり感謝したりするときに、かなりの大げさな言葉を使うことに気づいたと思います。たとえば、「great」「wonderful」「terrific」「fantastic」「super」などです。

 多くの日本人はそれを聞いて、「そんな言葉は自分の口からは出てこない」と感じるかもしれません。私は、ポジティブ・フィードバックは推奨しますが、そんな大げさな言葉を用いることをすすめているわけではありません。

 それより、相手の行動について具体的に語ることの方が効果的です。同様に、ポジティブ・フィードバックは相手の人間性に対してコメントするわけではありません。「あなたはすばらしい」と言うのではなく「あなたがしたことはすばらしい」と行動に焦点を当てて伝えるのです。

 フィードバックをするときに3つのステップを使うのは、部下の行動について、なぜそのことが重要なのかに言及するためです。上記で紹介したような、アメリカ人がよく使う大げさな形容詞を用いたり、相手の人間性に関するコメントをすると、多くの日本人が心配するように、それを聞いた相手は、これ以上、改善する必要はないと思うおそれがあります。

 しかし、行動に関して話すなら、特定の行動だけに焦点を当てることができます。誰にも望ましい行動と望ましくない行動の両方があります。こうすることで、バランスのとれたフィードバックができることになります。

<連載ラインアップ>
第1回 スティーブ・ジョブズの言葉に学ぶ 部下の士気を上げるには、なぜ“ムチ”より“アメ”がはるかに有効なのか?
第2回 なぜ部下は、すぐにあなたを頼ってしまうのか? 指示待ち型の部下を自ら動かすための「11の戦略」
■第3回 なぜアメリカ人は、大げさな言葉で相手をほめるのか? 部下の心に響く「ポジティブ・フィードバック」とは(本稿)
第4回 グーグルでも実証 「心理的安全性」を高め、チームのハイパフォーマンスを生み出すための舞台設定とは?
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