にしおかすみこ「認知症、ダウン症」家族への思い

にしおかすみこ

「連載も、書籍も、笑ってほしくて書いている」と語るにしおかすみこさん(筆者撮影)
ムチを持った女王様キャラで一躍人気者となったピン芸人のにしおかすみこさん(49)。家族の今を面白く、温かく綴った雑誌連載を2021年から始め、今年9月20日には2冊目の著書『ポンコツ一家2年目』を上梓しました。「認知症の母」「ダウン症の姉」「酔っ払いの父」「一発屋の自分」にあふれんばかりの愛を込めて「ポンコツ」という言葉を使うことになりました。家族だからこそわからないこと、見えないもの、そして消えることのない不安と、それでもこみ上げる喜び。今のリアルな胸の内を吐露しました。

認知症の母は忘れるスパンが短くなってきた

2020年6月に実家に戻ったので、今で4年ほどが経ちました。

久々に戻ったら母の様子がおかしかった。調べてみたら認知症と診断されました。姉はダウン症。そこにしっかり者だった母の認知症が加わり、父は相変わらず酔っ払い。そして、私は一発屋。そんな家族での生活を2021年の秋から雑誌連載で書かせてもらい、書籍にもしてもらいました。

今回また2冊目の書籍を出していただいたんですけど、現状、家族それぞれ少しずつ歳は取ったものの、そこまで変わることなく暮らしてはいます。

母は忘れるスパンが短くなってきたのと、妄想が増えているのかなと。今でも電動自転車に乗ってるんですけど、自転車のスイッチは押し忘れてますし(笑)。

姉は私より一つ上なんですけど、ダウン症って歳を取るのが早いように思うので、もうおばあちゃんみたいに感じることもあります。できることでいうと、小学生くらいのことだと思います。

父は本当にマイペースで、自分の流れで好きなお店に飲みに行って、酔っ払って帰ってくる。そんな状況です。バタバタとしながらというか、ジタバタしながら暮らしているのが実際のところです。

連載も、書籍も、笑ってほしくて書いているので「笑いました」とコメントをいただけるとめちゃくちゃ嬉しいですし、私のほうが元気をいただきます。もちろん「泣きました」「感動しました」もありがたいんですけど「笑った」が私にとっては「書いてよかった」に一番強くつながることにもなっています。

書くお仕事をいただいて、そこに力を入れようと思ったのは、リアルな話、もしこの先、家族の誰かが倒れた時に、パソコンがあれば家でもできる仕事をと思っていたんですけど、なかなかそうもいかないのが現実で……(笑)。

家でパソコンの前に座っていても、その後ろでは日々ゴタゴタがあるわけです。母と父がいまだに大きな声でケンカをして、どちらかが私のところに駆け込んできたりもする。

となると、家では書けないので結局意味もなく都心に出てきてカフェとか事務所で作業をすることになる。そうなると、当初の目論見と全く違っていて「結局、普通のお仕事と一緒じゃないか!」と(笑)。そう思い通りにはならないのが現実なんでしょうね。

にしおかすみこ

「1年前にモヤモヤしていたことは今でもモヤモヤ」と苦笑するにしおかすみこさん(筆者撮影)

頭の中がグチャグチャのまま連載を書いている

連載ではほぼ1年前に起こったことを時間差で書いているんですけど、1年前に腹が立っていたことは今も同じ熱で腹が立ちますし、1年前にモヤモヤしていたことは今でもモヤモヤしている。

文字にするといろいろ整理されて「今となっては答えが出ていること」を書くことになるのかなと思っていたんですけど、頭の中がグチャグチャのまま書いている。そんなこともたくさんあります。ただ、連載の1本目から読んでくださっている方もいらっしゃいますし、そうやってこちらに目を向けてくださる方がいらっしゃることに救われています。本当に。

こういった取材をしていただく時にも、よく「家族とは?」と聞いていただいたりもするんですけど、これがずっと答えがなくて……(笑)。

難しいですね。「家族とは●●です」と言い切れるようなワードがあるといいんでしょうけど、なかなか「●●」に当てはまる言葉が見つからない。これも、今の私のリアルな思いです。

ただ、変わらず考えていることは「自分のことが一番大事」ということです。今はまだ私自身が元気だと思っているんですけど、いつでも“逃げる”という選択肢は持っています。まず自分が元気じゃないと誰も幸せにならない。自分がダメになる前に、ダメになるくらいだったら逃げる。明確にわかっているのはこれくらいですね、ごめんなさい(笑)。

家族がこの先どうなるのか。その時に、私がどうなるのか。本当にわからないことだらけなんですけど、先日「こういうことか……」と思うこともありまして。

看取るとなれば自分は仕事が続けられるだろうか?

姉が体調を崩して、姉を病院に連れて行くことになったんですけど、母も一緒に行ったんです。2人を連れて行くこと自体が相当大変なんですけど、もし、姉が入院となったら姉も母もその状況に耐えられないんだなと改めて感じました。

となると、この先どちらかが倒れた時に、家で看病をすることになるのかな。もちろん、どんな病気で、どれだけ命があるのかにもよりますけど、最終的には家で看取ることになるんだろうな。家で看取るとなると、使える福祉サービスを使ったとしても本当に大変だし、その時に、自分は仕事ができるんだろうか。どんな自分になっているんだろうか。

そんなことが病院に行ったことをきっかけに頭に渦巻いてきました。今もいろいろ感じはしますけど、まだまだこれからなんだな。それを痛感したといいますか。

実家に戻った当初はやたらと「頭、かち割って死んでやる!」って叫んでいた母も、最近は割とよく笑うようになったかなとも感じています。すごくムラもあるんですけどね。

あと、私が仕事から戻ってくるのを姉が待っていて、母と私と3人でババ抜きやかるたをしたがるんです。ババ抜きって言ったって、3人ですからね。誰がババを持っているのか、丸わかりです(笑)。それでも姉と母は本当にドキドキしながら楽しそうにしているんです。

その顔を見るとね、いろいろありますけど、本当にいろいろありますけど、楽しいですね。うれしいですね。それは感じますね。

母が亡くなったら、ダウン症の姉をどうするのか

まぁ、あんまり先のことばかりを想像して滅入っちゃうのもよくないとは思うんですけど、母が亡くなった時に姉をどうするのか。それはやっぱり考えますね。行きつくところ、姉の幸せ。そこになるんだと思うんですけど。

姉に幸せを感じてほしい。でも、私に母の代わりはできないですし、姉も私のことをもちろん母とは思えない。姉のことを本当にわかっている人、今は母しかいないし、私では理解できないところがたくさんある。

でも、母が先に亡くなるのが順番としては確率が高いことで、どういう折り合いをつけるのか。これが「大きな課題だ!」と思いながら「どうしたらいいのかはわからない!」。これもずっと変わっていないことです。

私、以前SMの女王様キャラクターをやっていた時もそうなんですけど、人生、何をやってもブレる人間なんです。一つのものを貫けないというか。でも、今やっている家族に関する執筆、発信だけはブレずにやり続けるだろうなと。それを自分でも感じています。

自分の家族のこと、しかも、人によってはいろいろなことをお感じになる領域のことを発信する。しかも“ポンコツ”という言葉を使って発信もする。そこには自分のことも、愛も、込めているつもりなんですけど、いろいろとお感じになる方もいらっしゃる。でも、ここだけはありのままに綴っていこうと思っています。

■にしおかすみこ
1974年11月18日生まれ。千葉県出身。本名・西岡純子。青山学院大学卒業。ワタナベエンターテインメント所属。1994年にデビュー。コンビ活動などを経て、ピン芸人として手にムチを持った女王様キャラクターでブレークする。マラソンや水泳などスポーツでも力を発揮し、フルマラソンのベストタイムは2019年に記録した3時間5分3秒。2021年9月から「FRaU(フラウ)」で家族への思いを綴った連載を開始。連載をまとめ、加筆した著書「ポンコツ一家」を昨年に上梓。今年9月20日には続編となる『ポンコツ一家2年目』が出版された。

(中西 正男 : 芸能記者)

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