兵庫県知事「鋼のメンタル」は強烈な自己愛が形成

齋藤元彦 兵庫県知事

自身の進退について記者会見する兵庫県の斎藤元彦知事=26日午後、神戸市中央区の同県庁(時事)

職員へのパワーハラスメント疑惑などをめぐり、全会一致で不信任決議が可決され、動向が注目されていた兵庫県の斎藤元彦知事。9月26日に会見を開き、「失職し出直し選挙」する方針を表明しました。

四面楚歌の状況で「混乱を招いたことは事実だが、県政を進めたい」という自身の主張を一貫して通す姿勢には、「鋼のメンタル」という声も多々上がっています。

斎藤知事は本当に動じていないのか、会見中の微表情と発言内容のズレに注目し、知事の心理を推測したいと思います。

淡々とした受け答えから漏洩する嫌悪の感情

不信任決議を受け、議会解散か、辞職か、失職かを決断するにあたり、斎藤知事はこれまで同様に今回も淡々と会見に臨みます。しかし、注意深く見ると細かな言動から、葛藤や苦悩はあった様子がうかがえます。

たとえば決断をめぐる過程を述べる際、

「最初から解散、辞職はない」

「頭をよぎることはあった」

「最終的に(解散、辞職は)ない」

「最初から(解散、辞職は)ないという意味でもない」

と、表現が行ったり来たりし、簡単には決められなかった様子が推測できます。

また、こうした場面で、嫌悪の微表情も見られます。微表情とは、抑制された感情が無意識に生じる現象です。この嫌悪の微表情はスパッと決断できず、葛藤していた自分に対して向けられたものと推測されます。

会見中、知事としての実績を縷々並べ、これまでの県政との違いをアピールします。現在の状況を招いたことについては謝罪しますが、道義的責任ではなく、結果責任を感じている旨を述べます。

一連の騒動に関しては「知事が職を辞すべきことなのかが根底にある」「本当にそこまで(=辞職)いかなければならなかったのか」「(告発文書の内容について)誹謗中傷と今でも思っている」と発言する場面もありました。

こうした発言中、知事の言動は一致しており、自身のしてきたことや考えは正しく、継続していくことが正義であると、本心から思っているのではないかと考えられます。こうした言動から自尊心の高さがうかがえます。

また、25日に高校生から励ましの手紙をもらい、出直し選挙をしようと決意したと会見で述べつつ、涙が出そうになる場面、少し前の11日に行われた会見で、選挙で支援を受けていた自民会派から辞職を申し入れられ、「申し訳ないなと。自分自身に悔しい」と涙を浮かべる場面から、自己愛の高さがうかがえます。

自分の味方からの声には感動したり、後悔の念を抱いたりする一方で、亡くなった職員について言及する場面では、「残念」という言葉はあるものの、涙を流したり、悲しみの表情を浮かべる場面はありません。

高い自尊心や自己愛の功罪

無論、自尊心や自己愛が高いことは悪いことではありません。自分の信念に自信を持ち、積極的な行動に移していくには必須な要素です。もし県民、県議会、職員などと足並みがそろえば、むしろ強力なリーダーシップを発揮できる武器になります。

多くの人が違和感を覚えるのは、本来は長所である一貫性が、知事の場合、パワハラ等に対する道義的責任を感じていない点に発揮されていることにあるのではないでしょうか。

そもそも知事は自身の行為をパワハラではなく、指導の範疇と思っているようです。こうしたところから、知事の自尊心や自己愛はネガティブに捉えられ、何を言われても折れない、自身の見解を変えない、「鋼のメンタル」と映るのではないかと思われます。

斎藤元彦 兵庫県知事

亡くなった職員に関しては「残念」と言及するにとどめた(時事)

出直し選挙ではチャンスがあると見込んでいる?

知事自身は、多くの県民から支持を得てきたという自負があるのでしょう。会見中、出直し選挙では後援なしで臨むと述べつつ、幸福表情が生じる場面があります。

幸福は期待を表します。出直し選挙でもう一度、信任を獲得できる可能性がままあると見込んでいるからこそ幸福表情が生じていたのではないでしょうか。

一方で、職員の接し方について問われる場面では、口周りに力を入れ感情を抑制している微表情が見られます。「職員への接し方は改めるようにしてきた」と述べていますが、感情を抑制しながら発せられているため、言葉と表情が一致していません。目下、表面上は問題なく振る舞われているかもしれませんが、思うところはいろいろあるのかもしれません。

ストレスがかかっても、自尊心が高く、さらに心が安定していると他者に対して攻撃的にはなりません。一方、自尊心が高くても心が安定してないと他者に攻撃的になるという傾向が知られています。

知事の経歴や実績から、知事が高い自尊心や自己愛を持つことは理解できます。しかし、トラブルが起きたり、批判されたりなどストレスがかかると心の安定が失われ、今回のような事態を招いてしまったのでしょう。

(清水 建二 : 株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役)

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