2年半で5割値上げ「うまい棒」それでも愛される訳

うまい棒

12円から15円に値上がりする「うまい棒」。値上げが続いていますが、消費者からは反発の声は出ていません(編集部撮影)

スナック菓子「うまい棒」が15円へ値上げすると発表された。うまい棒は2022年春にも価格改定を行っており、2年半で50パーセント値上げすることになる。

しかし、SNS上には批判の声はなく、むしろ歓迎する声がほとんどだ。その理由を考察してみると、そこには「消費者からの愛」が見えてきた。

うまい棒、12円から15円に値上げ

うまい棒の販売を手がける「やおきん」は2024年9月24日、うまい棒の価格改定を発表した。これまで12円(以下、税抜き)だった「うまい棒」全商品の希望小売価格について、10月1日出荷分から15円に値上げする。

【画像7枚】「なくなっちゃうほうが、悲しいから。」…。うまい棒を販売する「やおきん」の悲痛なメッセージ

値上げの理由としては、「主原料であるコーンや植物油をはじめとした原材料全般の価格上昇が進み、人件費・包装資材費・配送費等も更に大きく上昇」してきたことを挙げている。

(うまい棒【やおきん公式】Xより)

値上げ幅としてみれば、3割近くとなるが、SNSを見る限り、「いままで維持してくれたことに感謝」「むしろ20円でもいい」「企業努力のたまものだ」といったファンからの声がほとんどで、好意的に受け止められているようだ。

実はうまい棒は、2年半前の2022年4月にも、発売以来維持してきた10円から12円へ値上げしている。当時も「原材料全般の価格上昇に加え、包装資材・物流費・人件費も大幅に上昇」していることを理由にしていたが、その際にも歓迎ムードが漂っていた。

通常だと「食品の値上げ」といえば、反発が起きてもおかしくない。しかも、うまい棒の場合は、2年半という短期間で、50%もアップする。値上げ幅だけ見ると、かなりの差となるが、バッシングの的にはならなかった理由には、消費者からの「愛」の大きさがありそうだ。

値上げ時に応援された「ガリガリ君」

商品に対する消費者の愛が、値上げですら好印象を生ませる。そうした事例で、まず思い出したのが、赤城乳業の氷菓「ガリガリ君」だ。2016年に60円から70円に値上げしたが、今回のうまい棒同様に、メーカーを応援する声が相次いだ。

ガリガリ君は当時、25年ぶりの値上げだった。工場前で社長をはじめとする役員や従業員が頭を下げるテレビCMを放映したことも、大きな話題を呼んだ。ちなみに2024年3月には、さらに80円へと上がったが、その際もネガティブな印象は生んでいないようだ。

2024年3月の値上げ時のお詫び写真(赤城乳業公式サイトより)

うまい棒とガリガリ君、両者に共通する点として、廉価の嗜好品かつ、近年まで価格改定を踏みとどまっていたことがある。どちらもコンビニなどで気軽に手に入れられるが、生活必需品とまではいかない。ふとある日思い出し、衝動的に手を伸ばしたくなる「近いけど遠い存在」だ。

消費者は、うまい棒やガリガリ君の商品だけを買っているのではなく、その背景にある歴史に、ともに育った自分の半生を重ね合わせたストーリーをも買っているのではないか。20円あれば童心に返って、幼き日のノスタルジーを追憶できる。

ある意味で「思い出補正」のようなものがあるからこそ、多少の値上げでは、そのポジションは揺らがない。誰にでも、そんなお菓子があるはずだ。筆者も、小学校低学年のころ、学童保育のおやつで出た「蒲焼さん太郎」や「酢だこさん太郎」などの太郎シリーズが忘れられず、いまも時たま手に取る。

食品業界において、消費者は疑心暗鬼になっている

幼少期の思い出が、常に身近にある。思い立った時に、いつでも「あの頃」に帰れる安心感は、多くの人に商品愛を植え付ける。それだけに、値上げしてもなお、残ってくれるだけでありがたいと感じさせるのだろう。

世間には、突然姿を消してしまう商品も少なくない。例えば2024年3月には、明治のキャンディー「チェルシー」が販売終了となった。市場環境や顧客ニーズの変化による収益性の悪化を理由としていたが、ファンからすれば「買い支えの余地はなかったのか」「SOSサインが発せられていれば」といった無念が残っただろう。

とはいっても、人気商品の値上げが、何でもかんでも支持されるわけではない。その代表例が、価格は維持しつつ内容量を減らす、いわゆる「ステルス値上げ」だ。誠実さを欠いているとして、とくにネット上では嫌悪感が示されることが多い。

2023年1月には、山崎製パンの人気商品「薄皮」シリーズの内容量が、5個から4個になって、大きな反発を呼んだ。この時は、事前に個数変更が告知されていたことから、比較的良心的な対応だったと言えるが、市場に出回る商品には「商品パッケージを見て、初めて内容量変更に気づく」といったケースも珍しくない。

2023年1月に、5個から4個へ内容量が変更となった薄皮シリーズ。今では4個入りを、見慣れてしまった感も?(編集部撮影)

同様に、SNS上では「コンビニ弁当の上げ底容器」が話題になることも多々あるが、これらは誠実さを欠いた裏切り行為だと、消費者の目には映る。とくに食品業界においては、そうした先例が多数あることから、消費者は疑心暗鬼になっている。だからこそ、「だまされた」と感じさせないコミュニケーションが重要なのだ。

うまい棒に話を戻すと、発売から2022年まで、一度も値上げしてこなかった事実が、消費者に「誠実さ」を与えた。その心意気が伝わっているからこそ、前回も、今回も、値上げが支持されたと考えられる。大事なのは、どれだけ「断腸の思い」が伝わるかだ。

もちろん、そこにはメーカー側の周知努力も求められる。2022年の値上げ時に、やおきんは「なくなっちゃうほうが、悲しいから」と題したツイッター(現在のX)の広告を展開した。ここでは「ちゃんと利益を出すことで、駄菓子文化の存続と発展に努めていきたい」「駄菓子に、未来を」との決意表明が示されている。今回の発表文にも、「お子様のお小遣いでも選ぶ楽しさを感じていただけるよう熟慮してまいりました」と書かれていた。

(PR TIMESより)

ガリガリ君も、前回に引き続き、今春の値上げで「前回より深くお辞儀をしております」と題した広告を打っている。モンスターカスタマーが問題視される昨今、下手に出ることが、必ずしも良いとは限らないが、誠意の演出にはもってこいだろう。

ちなみに、このプロモーションでは、「これからも、厳しい状況が長引くことも覚悟しています。知恵を絞り、企業努力を続けていく所存ですが、念のため、先々のバージョンも撮影しておきました。(撮影は1回ですませた方がリーズナブルなので)」と、110円までの謝罪写真をあわせて掲載しているユーモアも見せている。

「よくここまで踏みとどまった」の心意気が伝わった

うまい棒が発売されたのは、1979年7月。そこから40年以上にわたって、1本10円をキープしてきた。発売当時の日経平均株価は6200円前後だったが、それからバブル崩壊やリーマンショック、アベノミクスなどを経つつ、現在は6倍程度になっている。

ガリガリ君も1981年発売で、さほど誕生時期は変わらない。そこからの40年あまりで、消費者の金銭感覚も生活習慣も、少しずつ変化してきた。1989年に消費税が導入され、3%から5%、8%(そして軽減税率対象に)と上昇してもなお、税抜き価格は維持し続けた。

消費者の支払額が増えても、メーカーの利益は増えない。むしろ原料調達コストからすれば、消費税分の負担増だ。しかしながら、ほぼそのままの値段で展開し続けてきた。

10円から15円へ。「2年半で150%になった」と言うと、値上げ幅が大きく感じられるが、「45年間で150%」と考えれば納得がいく。また、もしも「10年ごとに1円ずつ」といった具合で、45年かけて段階的に値上げされていたら、今回のような反応は得られなかったようにも思える。

2022年までの企業努力が評価されたからこそ、「よくここまで踏みとどまった」の心意気が伝わった。うまい棒が大幅値上げでも愛されている理由は、これまで積み重ねてきた「信頼の貯金」にあるのだろう。

その他の写真

うまい棒の写真2

コンビニでは現在、12円で販売されている(編集部撮影)

うまい棒の写真その3

もっとも、ドラッグストアなどでは10円で売られている場合も。今後値上げされても、12~13円程度になると思われる(編集部撮影)

(城戸 譲 : ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー)

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