インテル「独り負け」招いたCEO肝煎り事業の混沌

半導体業界の盟主だったインテルは、かつての輝きを取り戻せるのか(記者撮影)

「すべての視線がわれわれに注がれ続けるだろう。 少しの隙もなく戦い、これまで以上の結果を出さなければならない。それが、批判してくる人々を黙らせる唯一の方法だからだ」

9月16日、インテルの全従業員が受け取ったメッセージは、並々ならない危機感で溢れていた。送り主は同社のパット・ゲルシンガーCEOだ。

半導体業界のかつての盟主、インテルが苦境に陥っている。同社の2024年1〜6月期の決算は、売上高は255億ドル(前年同期比3.6%増)、営業利益は30億ドルの赤字で着地。1990年以来で最低の利益水準だった昨年に続き、2024年通期でも厳しい状況が続く見込みだ。

株価の面でもインテルの独り負けは鮮明だ。足元のインテルの時価総額は970億ドル(約13.8兆円)と、この1年で半分になった。2024年初めまで2000億ドル前後で競っていた、ライバルのCPUメーカーAMDの時価総額はAI半導体ブームもあり、2500億ドル(35兆円)超まで伸びたのとは対照的だ。

リストラとファウンドリー分離を発表

こうした状況を受け、同社は決算発表と併せて全従業員の15%にあたる1万5000人のリストラを発表。すでに2023年に大幅に引き下げていた配当も、当面は停止すると発表した。

リストラ策と併せて注目されたのは、ファウンドリー(半導体の受託製造)事業を子会社として分離するということだ。ファウンドリー事業は、2021年にパット・ゲルシンガーCEO体制になった際、劣勢からの逆転を狙って参入を決めた分野だった。

こうした動きから透けて見えるのは、成長を追い求めて自ら進んだファウンドリー事業に押しつぶされそうになる巨人の姿だ。

言わずと知れたCPU(中央演算処理装置)の大手メーカーであるインテル。同社の事業領域は大きく2つだ。「Core i」シリーズなどで知られるPC向けと、「Xeon(ジーオン)」というブランドで展開するサーバー向けのCPUだ。それぞれ、売上高の57%、23%を占めている。

2010年代前半までは、これらのCPU市場で100%近いシェアを誇っていた。だが10nm以降の微細化競争で躓き、製造を台湾TSMCに委託していたAMDの台頭を許すことになる。

近年はソフトバンクグループ(SBG)傘下のアームの攻勢も受けるようになっている。もともとスマホ向けに強いアームは、SBGによる買収後、PCやサーバー向けにも進出。アームのレネ・ハースCEOは「2030年までにはウィンドウズPCの過半がアームベースのCPUになる」と意気込むほどだ。

AI半導体市場への乗り遅れやライバルによる攻勢。インテルを取り巻く環境は確かに厳しいとはいえ、CPU市場でいまだ70%以上のシェアを握る超大手であるのも事実だ。実際、2024年1〜6月期もCPU事業では237億ドルを売り上げ、62億ドルの利益を稼いでいる。

先端技術開発で後れ

インテルの苦しみの元凶はむしろファウンドリー事業だ。この事業が垂れ流す莫大な赤字によって、CPUからの収益を食い潰してしまっているのが現在の姿である。

インテルのパット・ゲルシンガーCEO。インテルで30年間のキャリアを積み、VMwareCEOなどを経て2021年にCEOに就任した(写真:インテル)

これまで同社は半導体の設計から製造までを自社で一貫して行い、半導体の高性能化につながる微細化で業界をリードしてきた。

一方でTSMCや韓国サムスン電子が、ファウンドリー事業により半導体の生産規模を拡大。2010年代後半以降、インテルは先端技術開発で後れを取るようになった。

ファウンドリー事業への参入は、パット・ゲルシンガーCEOが2021年に掲げた戦略の柱だ。現行世代では他社への生産委託も活用する一方で、ファウンドリー事業で2025年内には1.8nm相当の次世代品を製造することでTSMCに追い付き、再び業界をリードすることを狙ったのだ。

工場建設をはじめ大規模な投資が必須のファウンドリー事業だが、この点ではコロナ禍以降の世界的なサプライチェーンの混乱や、各国が地政学リスクを重視し始める追い風が吹いた。

インテルは事業立ち上げのためアメリカのアリゾナ州などで工場を建設。半導体サプライチェーンの国内回帰を促すアメリカのCHIPS法によって、最大85億ドルもの助成を受けることも決まっている。

だが当然、顧客あっての受託製造である。そもそも、製造を委託する可能性がある半導体メーカーはインテルのライバルでもある。アマゾンやマイクロソフトといった直接の競合とはならない大手データセンター事業者からの受託は表明した一方で、ドイツとポーランドで建設を進めていた2工場の稼働は、需要が想定に届かずに2年間延期することを発表した。

2024年1〜6月期のファウンドリー事業の売上高87億ドルのうち、外部顧客への売上高はわずか1億ドルに過ぎなかった。

信用格付けの格下げ続く

こうした状況で、ファウンドリー事業を分社化しなければならない理由があった。資金調達の問題だ。

「インテルの既存事業だけでは、この先借り入れの返済をすべてキャッシュフローだけでまかなうのは厳しい。一方で、今の信用格付けのままでは借り換えすらままならなくなる」。こう指摘するのは、独立系金融アドバイザー(IFA)5バリューアセットで債券アナリストを務める上田祐介氏だ。

株価以上に、インテルの信用格付けは現在の状況を象徴している。1993年から30年間にわたって安定してA格を保っていたS&Pによる格付けは、2023年から断続的に格下げが続き、8月にはトリプルB格に格下げされている。その下のダブルB格となれば、インテル債は「投機的」と見なされ、負債性の資金調達はままならなくなる。

赤字を垂れ流すファウンドリー事業を別法人にしたところで、連結子会社である以上は株主にとっての価値に変わりはない。一方で、社債の発行や借り入れによる調達の場合はあくまで別法人と見なされるようになる。配当の停止や人員リストラにまで踏み込み現金の確保に走るインテル「本体」にとって、ファウンドリー事業の分離は不可避だった。

アメリカの半導体大手クアルコムがインテルの買収を検討する観測報道が浮上するなど、かつての業界盟主が置かれている状況は非常に厳しい。技術力と業績ともに、かつての輝きを取り戻せるのか。インテルの苦悩はしばらく続きそうだ。

(石阪 友貴 : 東洋経済 記者)

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