中尾ミエ「70歳を過ぎても現役」でいるための心得

いくつになっても鍛えていれば成果は出るんだな、と実感しているという(写真:jessie/PIXTA)
思い起こしてみれば、60歳という年齢は私にとってもひとつの転機であり、節目であったように思います。そう語る中尾ミエさんにとって、60代というのは「チャレンジの時間」だったともいいます。ですが一方で、年を重ねてからのチャレンジというのは、とても勇気がいるものです。
中尾さんが60代を通じて、「自分の知らない世界に飛び込み、成功も失敗もすべてを人生の肥やしにすることができた」ポイントは、いったいどこにあったのでしょうか。精神科医の和田秀樹氏との対話から、その秘訣を探ります。
※本稿は、中尾さんと和田氏の共著『60代から女は好き勝手くらいがちょうどいい』から、一部を抜粋・編集してお届けします。

1番のアンチエイジングは「現役」でいること

中尾 最近、よくアンチエイジングという言葉を目にしますけれども、いつまでも若々しくいる秘訣はというと、1番はずっと現役でいることでしょう。私も常に人前に出る仕事ですから、やはり身体が資本だという意識があります。

和田 人に見られる職業というのは大きいでしょうね。人生100年時代といわれる昨今、これまでは60代というのがひとつの区切りで、60歳くらいで定年・退職を迎えていたわけですが、今は定年の年齢がどんどん引き上げられていますよね。70歳、80歳まで働きましょうというような人生設計もありうる。

中尾 そうですね。元気ならいつまでも働いていたいという人も多いのではないかなと思います。

和田 ええ。働きたいでしょうし、また中尾さんなんかがここ20〜30年で新しいスタイルを確立されているのではないですか。ある種のご意見番的なポジションというか。

中尾 いえいえ、そこまでは……。

和田 毒舌というか……。

中尾 べつに意識したわけではありませんし、若い頃からずっと言っていることは変わりません。若い頃は生意気に捉えられていたことも、年を重ねると、自然と周りが受け入れてくれるようになっただけかなとも思いますよ。

和田 そのスタンスをごく早い時期に、上手にお使いになられている印象があります。現在、中尾さんと同年代の方でそのようなスタンスの人はわりと少ないのではないかなと。美川憲一さんも独自のスタイルがありますけれども、同年代ですよね?

中尾 同じぐらいです。団塊の世代でも元気なほうですしね。変に嫌われたくないと考えていると、どうしても守りに入ってしまうでしょう。

和田 嫌われたくないという生き方をすると、逆に個性がない人になってしまうと思いますよ。でも年を取ってくると、みんなに合わせて無難なことを言っている人よりも、ちゃんと一家言あって、自分の意見を言う人のほうが頼りになる気がするんですが、いかがでしょうか。

中尾 頼りになるかどうかで言えば、やはり現役でいないと説得力もないし、周りも受け入れてくれないでしょう。ただ好きなことを言っているだけでなくて、それなりの努力は必要かなと思いますね。

和田 もちろん、それはそうですよ。

中尾 だから、それをキープするのもけっこう、大変は大変です。

一生元気でいようと思うならば、楽はできない

和田 女性の場合、見た目などの美容にしろ、ファッションにしろ、いろいろと努力しなければならない問題もあるでしょうけれども、男性の場合はきっと話が面白いかどうかでしょうね。もちろんそれは女性にも言えることでもある。だから、女の人は二重で現役でいないといけないから大変だろうと思う。

中尾 私は中学までしか出ていないんですよね。若い頃は"学問なんて必要ない!"なんて大見得を切ってきましたが、やはり年を取ってくると教養や知識は必要です。

和田 知識といっても、私の場合、学生の頃の「勉強」で得た知識よりも、医者になってから得た知識のほうがずっと多い。あるいは他の社会人経験、文筆業をやりながら学んだことのほうが大きいですね。中尾さんにしても、中卒だからって、その後で得た知識があるから、いろんな人と対等に話すことができるわけですよね。

ところが多くの人が、いちど、頭が良くなった人間は、そのまま悪くなったりしないと思っている節がある。東大を出た人間が一生、賢いかというと、そんなことはありません。その後、ちゃんと勉強を続けていなければ、バカになるに決まっていますよ。

中尾 身体と同じですね。いちど鍛えたらもうやらなくていい、というわけにはいきません。ずっと続けなくてはいけない。

和田 スポーツ選手なんかは、引退後にガクンと運動量が減る反面、食べる量が変わらない。結果、暴飲暴食になりやすく、かえって早死にするケースも多い。

中尾 怠慢太りみたいなものですね。人生のなかで、「自分を酷使する時代は終わった、あとは楽をしたい」と思ってしまう。でも、一生元気でいようと思うならば、楽はできないと思います。極論を言えば、それは死ぬまで続くと思います。

和田 プロスポーツ選手は身体を鍛えることが職業だったから、仕事から解放されて引退してしまうと、趣味として身体を鍛えるというような感覚がないのかもしれないですね。

今日できたことが明日もできる保証なんてない

中尾 それでもきちんと引退後も身体を鍛えてらっしゃる方は一握りなのかもしれないけれども、いらっしゃいますよね。そういう人たちはさすがに健康な生活を送られている。

そう考えてみると、維持するというのが、いちばん大変なことですね。実際にやることはそこまで大変なことではないけれども、継続が難しいと思います。

和田 維持するという考え方はバカになりませんよ。認知症の人も含めて高齢者は放っておくとできないことが日々増えていってしまう。今日できたことが明日もできる保証なんてないわけですから、それが毎日できるだけでも、年を取っていないことの証拠だと思いますし、認知症を進めないための重要なポイントなのです。

認知症と診断された時点では、物忘れはあってもきちんと話すことはできます。料理もできるし、買い物もできる。だから重要なのは、これ以上、認知症の症状を進行させないことなのです。そのためにはどうしたらいいですかとよく聞かれますが、とにかく今できることをなるべく減らさないようにすることだと、私はよく言います。

たとえ認知症でなくとも、放っておくと今できることがどんどんできなくなるというのが、老化なんですよね。アンチエイジングにおいて、本当に重要なのは、中尾さんが今、おっしゃられたこと。ずっと続けていくこと。維持することなんだというのは、とても大事な発想です。

中尾 身体を動かすことの効果は、身をもって感じます。それをずっと続けてきたから、現在もつらさを感じずに、さらに継続できているのだなと実感しています。だから声を大にして言いたいのは、70、80になってから急に焦って始めても、手遅れというわけではないけれども、できるならば60代の身体がまだまだ動く時期から、意識的に続けていたほうがいいと思います。

和田 中尾さんは歌手ですから、今もお客さんの前でステージに立って歌われている。当然、ボイストレーニングなんかも継続されているわけですよね。

中尾 もちろん、しています。

「声を出す」ことが認知症の進行を遅らせる

和田 これはあくまでも経験論的なことなので、何か実証的なデータがあるわけではないけれども、私は声を出すことが認知症の進行を遅らせる1番いい方法なのではないかなと思っているんです。

私の患者に何人か詩吟をやっている方がいるんですが、その方たちは本当に認知症の進行がほとんど見られない。どこまで因果関係があるのかはわかりませんが、やはり声を出すことが大事なんだろうなと。

中尾 認知症であることは確かなんですね?

和田 もちろん。物忘れもありますし、脳も萎縮している。典型的な認知症です。けれども、詩吟をやられている方はあまり進んでいないんです。もちろん、年齢とともに衰えるわけですけれども……。そういう方は少なからずいらっしゃいますね。詩吟が特別いいのかは定かではないけれども、私はカラオケなんかを勧めたりしています。

声がダメになると、嚥下機能も悪くなる

中尾 健康のバロメーターは声ですよね。声に張りがなければ、元気がないのかなと思ってしまう。衰えが1番にわかりやすいところです。

和田 おっしゃるとおりですね。声がダメになってくると、物を飲み込む機能、嚥下が悪くなってきます。中尾さんの年代はともかくとして、もう少し上の年代、80代以降は誤嚥がとても多い。

60代から女は好き勝手くらいがちょうどいい

中尾 私でも時々むせますよ。でも発声練習を普段からやっているおかげで、今でも音域が広がっているのです。いくつになっても鍛えていれば成果は出るんだなと実感しています。

和田 素晴らしい。

中尾 音域が広がれば、楽に歌えるようになりますね。

和田 日本でもわりと年取っても歌う方が増えてきましたね。以前、ロサンゼルスのライブハウスで好きなところがあって、よく通っていたのですが、往年のスターが時々来て歌うんですよ。ビリー・デイヴィス・ジュニアとか。1960年代に活躍した歌手ですが、すごい声の張りでした。

中尾 トニー・ベネットだって、90歳を過ぎてもCDを出していました。だから、「努力すればそこまでいけるのかな」と思います。

和田 いけるんじゃないですかね。

中尾 そういう人が現にいると、可能性を感じます。まだ、「もう少し頑張れるかな」と思いますよね。

(中尾 ミエ : 歌手、女優)
(和田 秀樹 : 精神科医)

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