自民党総裁選「候補者はざっくり5つのタイプ」

(写真:よねやん/PIXTA)

派閥が解消されて、縛りがなくなったためだろう。史上最多の9名が出馬することになった今回の自民党総裁選では、各人がそれぞれの主張を展開している。特徴的なのは「スピード感」と「刷新感」がある反面、過去を引きずっている印象も強い。

父・純一郎氏が断行した改革が足かせに

まず小泉進次郎元環境相は9月6日の出馬会見で、「政治を加速させたい」と、総裁就任後に衆議院の早期解散を提唱。政策活動費の即廃止も発表した。

そして、「日本の産業の柱を一本足打法から二刀流へ」と進めるため、「雇用規制の見直し」を掲げたが、これが不評を招いている。理由は父・純一郎氏が首相時代に断行した改革だ。

小泉政権では労働基準法を改正し、有期労働契約の期間上限の延長や裁量労働の拡大などを実現。また労働者派遣法を改正し、派遣業種を拡大させて正規労働者を減少させた。

「構造改革なくして経済成長なし」との掛け声で進められた同改革だが、格差の拡大と固定化をもたらした。そしてこれらは、現代の最大の問題である「非婚・少子化」の遠因とも見られている。

純一郎氏による小泉改革の"デジャブ感"は、郵政問題にもついてまわる。郵政改革の基本理念は「国民生活の安定向上及び国民経済の健全な発展並びに豊かで住みよい地域社会の実現に寄与すること」のはずだったが、土曜日や翌日の配達がなくなり、郵便物が届くまで時間がかかるようになった。多くの郵便ポストも廃止され、サービスの値上げは断行されている。

そうしたことに着目したのだろう。林芳正官房長官は10日の政策発表会で、「郵政民営化法を改正して、郵便局のネットワークを地域振興に生かすよう、郵政事業を再構築する」と宣言した。狙いは約3万票の党員票を持つ全国郵便局長会(全特)だ。

もっとも全特もリスク分散するはずだ。9月12日に行われた上川陽子外務相の出陣式には、元全特会長の柘植芳文参院議員が顔を出した。そして20日には、小泉氏が野田聖子元総務相に伴われて全特の幹部と都内で面談している。

永田町関係者は「野田氏の顔をたてて、岐阜県内の郵政票を小泉氏に入れるのではないか」と語るが、20年前からの禍根がすぐさま消えるとは思えない。

茂木氏は自分の過去を断ち切るような大胆政策

自分の過去を断ち切るように大胆な政策を打ち出したのは、茂木敏充幹事長だ。幹事長として約10億円の政策活動費を受け取りながら、「政策活動費の廃止」を訴え、幹事長として岸田政権を支えてきたにもかかわらず、「防衛増税反対」を打ち出した。

同じく反対するのは高市早苗経済安全保障担当相だが、茂木氏が経済成長で税収が増えることを理由とする一方で、高市氏は「今は反対」と慎重派だ。

小泉氏や林氏、上川氏や河野太郎デジタル相、そして加藤勝信元官房長官は岸田路線を踏襲する。石破茂元幹事長や小林鷹之前経済安全保障担当相は岸田路線に賛成するものの、増税開始時期や使途内容に条件を付けている。

「武器購入だけでなく、自衛官の育成にも使うべき」とする石破氏はまた、「アジア版NATO」の創設を提唱する。高市氏は非核三原則のうちの「持ち込ませず」の見直し派だ。河野氏は原子力潜水艦配備を打ち出したが、ゴリゴリの脱原発派だった河野氏の“変身”に、驚く声は少なくない。

もっともこうした彼らの姿勢は、危機が深まる東アジアの現状に対するものだ。すでに時間との戦いとなっている拉致問題について、小泉氏は北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記と「同世代のトップ同士で、胸襟を開く」と意欲を示すが、認識の甘さに批判の声もある。

なお小泉氏は9月14日に日本記者クラブが開催の公開討論会で上川氏に「首相になったら、カナダで開かれる来年のG7サミットで何を発信するのか」と尋ねられた時も、「トルドー首相と43歳で首相になった者同士が胸襟を開き、新たな未来志向の外交を切り開く」と回答した。

経済政策ではそれぞれの特徴が顕著に

経済については、それぞれの特徴が出ている。石破氏は地方創生を「日本経済の起爆剤」と位置づけ、富裕層の優遇是正のための金融所得課税の強化にも言及。加藤氏は「所得倍増」を掲げ、企業の設備投資の活性化を行い、最低賃金を2000円の水準に上げることを目指す。

加藤氏は金利の正常化には基本的に賛成で、「足元の経済を見ながら、慎重にやるべき」派だが、2021年の総裁選と同様に「アベノミクス」を引き継ぐ高市氏は、金利引き上げに断固反対。積極的な財政出動をさらに進めることを提唱しつつ、日銀の金利引き上げについても、「企業が投資をしにくくなる。消費マインドを下げてはいけない」と批判している。

こうして見てみると、総裁選に出馬している9人の候補者たちは、①先人の遺産を受け継ぐ者ーー小泉氏と高市氏、②過去と断絶する者―茂木氏と河野氏、③地方を重視する者ーー林氏と石破氏、④若者や女性に対する政策を重視する者ーー上川氏と小林氏、➄所得倍増を提唱ーー加藤氏というように分類することができる。興味深いのは決選に残れるかどうかを争っている高市氏と小泉氏が、ともに①に分類できる点だ。

高市氏は「故・安倍晋三首相の継承者」という立場を確立し、岩盤保守層の支持を固めつつある。その一方で小泉氏は父・純一郎氏が行った小泉改革が足かせになりがちで、それを超える政策を打ち出してはいない。

総裁選に勝利すれば、総理大臣への切符を手にすることができる。現在のところ有力候補は3人だが、5度目の挑戦を最後とする石破氏か、前回の総裁選よりも勢い付いている高市氏か。それとも自民党史上最年少の総裁を目指す小泉氏か――。9月27日に行われる自民党総裁選は最後まで目が離せない。

(安積 明子 : ジャーナリスト)

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