高速列車や水素車両「国際鉄道見本市」の最前線

日立 フレッチャロッサ・ミッレ 改良型

国際鉄道見本市「イノトランス」に日立レールが展示した高速列車「フレッチャロッサ・ミッレ」の改良型(撮影:橋爪智之)

9月24日に開幕した「イノトランス2024」。2年に1回、ドイツの首都ベルリンで開催される世界最大の鉄道見本市には世界各国のメーカーが一堂に集結し、自社の最新技術を展示する。

その規模は圧巻で、小さいものはネジ1本、ダイオード1つといった部品から大型の製品までずらりと並ぶが、何といっても注目を集めるのは実物の車両だ。

ベルリン市内にある会場は、実物の車両を展示することができるよう、本線から線路が引き込まれている。メーカーは運行開始前の最新車両をそのまま会場内で展示できるのだ。まさに全世界の鉄道業界関係者、そして鉄道ファンが注目するイノトランス。今回はどのような車両が展示されているのか。主な展示車両を紹介していこう。

日立の改良型高速列車、何が変わった?

まずは注目の日立レール。イタリアの高速列車「フレッチャロッサ・ミッレ」の改良型を持ち込んできた。フレッチャロッサ・ミッレは、イタリア最速の高速列車として2015年にデビューしてから9年を迎え、マイナーチェンジを行った。

外観デザインこそ現行型から変更はないが、主電動機やパワーユニット、台車を含む足回りを再設計し、内装もリニューアルしている。

【写真】2024年の「イノトランス」注目の展示車両。日立「フレッチャロッサ・ミッレ」改良型、シーメンスのエジプト向けなど高速列車や中国・韓国の水素燃料車両、機関車から路面電車まで各国メーカー新型の外観と車内(100枚)

とくに注目すべき点としては、今回のイノトランスにて発表されたデジタルアセットマネジメントプラットフォーム「HMAX(エイチマックス)」の搭載だ。これは運転や車両保守、保線に至るさまざまな情報をAIの活用により分析管理、最適化するものだ。

frecciarossa ETR1000 business class

改良型フレッチャロッサ・ミッレのビジネス(1等)座席(撮影:橋爪智之)

世界シェアトップを堅持する中国のCRRC(中国中車)は、都市間特急用の水素燃料車両「CINOVA(シノヴァ) H2」を展示した。中国国内向け車両で、車内には日本の私鉄の通勤ライナーのような、窓側に沿った配置(ロングシート)にもできる転換クロスシートが並ぶ。最高速度は時速160~200kmと公表されている。中国の新たな環境対応型車両として、今後が注目される。

CRRC Cinova H

CRRC製の水素燃料式車両「CINOVA H2」。光の反射によって虹色に見える(撮影:橋爪智之)

韓国のヒュンダイロテムも水素燃料を動力源とした車両を持ち込んだ。こちらはトラム(路面電車)で、大田市で使用される予定という。低床式のトラムは床下にスペースがないため、水素のタンクをどこに設置するかが課題となるが、同社の技術者によれば屋根上に制御装置などと並べて設置しているという。

Hyundai Rotem hydrogen tram

ヒュンダイロテムの水素燃料トラム(撮影:橋爪智之)

2022年のイノトランスでは、欧州系主要メーカーが水素燃料車両を展示して注目を集めたが、今回はアジアの2社が水素燃料車両を展示した点は興味深い。ただ、韓国の場合は水素の供給源をどうするのかというインフラの面が少々気になる部分でもある。

シーメンスの「エジプト向け高速列車」

フランスのアルストムは、ドイツのニーダーザクセン州地域に投入する予定の2階建て近郊型電車「コラディア・マックス」を展示。同社のコラディアシリーズは、丸みを帯びたデザインが特徴であったが、最新モデルはシャープな顔立ちにモデルチェンジした。一見するとオール2階建てのようにも見えるが、中間客車の一部は連続性を持たせたデザインの平屋構造で、そこに制御装置などを搭載している。

このほか、アルストムは吸収合併したボンバルディアから受け入れた「TRAXX3」汎用型電気機関車も展示している。

Alstom Coradia MAX

アルストムの2階建て近郊型車両「コラディア・マックス」(撮影:橋爪智之)

ドイツのシーメンスは、同国の高速列車ICE3や国際列車ユーロスターのベース車両として知られる高速車両「ヴェラロ」のエジプト向け仕様、近郊型車両「ミレオ・スマート」、高速旅客用電気機関車「230km/hヴェクトロン」、そしてチェコのシュコダと共同開発したチェコ鉄道向け新型旅客列車「ヴェクトレイン」を展示している。

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シーメンスの近郊用車両「ミレオ・スマート」(撮影:橋爪智之)

高速列車ヴェラロは、デビューからだいぶ年月が経ってはいるものの、今も新規受注を獲得するなど人気のモデルとなっている。ただ、エジプト向けは最高時速230kmと、高速車両としてはかなり控えめなスペックだ。

Siemens Velaro for egypt

エジプト向けの高速列車「ヴェラロ」(撮影:橋爪智之)

新型旅客列車ヴェクトレインは、オーストリアの新型「レイルジェット」や「ナイトジェット」に似たデザインではあるが、ベースは初代レイルジェットの車両と同様の「ヴィアッジョ・プラットフォーム」を採用している。すでにレイルジェットの使用実績があるチェコ向けであるため、認可を取得すれば運行開始は早いものと思われる。新型の230km/hヴェクトロン機関車との組み合わせで、スピードアップも期待される。

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シーメンス/シュコダの新型客車「ヴェクトレイン」(撮影:橋爪智之)

スイス・シュタドラーは8車種を展示

毎回、イノトランスに多くの車種を持ち込むスイスのシュタドラーは、今回も8車種を用意。面白いのは「RS ZERO」と呼ばれる1両のバッテリー車両で、パンタグラフを介して取り入れる架線からの電力で充電するシンプルな構成だが、ソファのようなラウンジシートや、窓側に設けられたデスクに向かって座るビジネススペースなど、インテリアにも工夫が凝らされている点が興味深かった。

Stadler RS ZERO

シュタドラーのバッテリー車両「RS ZERO」(撮影:橋爪智之)

ポーランドのネヴァグは、高速旅客用電気機関車「グリフィン200km/h」を展示。ヨーロッパの電気機関車市場は、シーメンスのヴェクトロンとアルストムのTRAXX3がほぼ独占している形だが、まずは地元ポーランド鉄道へ導入が決まった。他国でも採用されるかが注目される。

poland griffin

ポーランドの新型旅客用機関車「グリフィン200km/h」(撮影:橋爪智之)

身売りで揺れているスペインのタルゴは、ドイツの新型旅客列車ICE-Lの牽引用として使用する予定の電気機関車がようやく姿を現した。機関車の製造がかなり遅れていたが、先に完成して試運転を行っている客車も認可取得が難航し、すでに納期が1年以上遅れることが発表されている。無事に納入されるのか、別の意味で注目される。

Talgo locomotive for ICE-L

「ICE-L」牽引用として製造されたタルゴの新型機関車(撮影:橋爪智之)

世界が本格的にコロナ禍を脱してから初の開催となる今回のイノトランス。2022年と比較すれば高速列車からトラムまで、全体的にはかなりバラエティに富んだ展示内容になったと言えるだろう。

(橋爪 智之 : 欧州鉄道フォトライター)

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