「やる気ない」年上50代部下に言ったほうがいい事

(撮影:今井康一)
業務上の悩みや、人間関係の悩み、長時間労働、モチベーションの低下……などといった問題は、どの企業でも悩ましい問題でしょう。これらを解決する際に重要なのが、中間管理職(ミドル・マネジメント)である「課長」の手腕です。よい課長がいれば企業もメンバーも、組織としてよりよく成長することができます。つまり会社の失敗・成功の命運を握っているのも課長クラスなのです。
しかしながら、状況の変化が激しい時代において、課長の椅子には誰がいつ座ることになるかわかりません。もしかすると、部下を率いる心の準備や、十分な能力を付ける前に抜擢されることだってあり得ます。そのようなときにどうしたらよいか。そのヒントを『新版 課長の心得』より抜粋してお伝えします。

年上部下が当たり前の時代に

最近は、50歳台半ばもしくは60歳前で、役職定年制度を設けている会社が増えてきている。その年齢になると、部長・課長であっても役職がなくなり、一般社員になるという制度である。また65歳や70歳までの雇用延長をする企業や、YKKのように定年を廃止する企業も出てきているため、年齢は高いが役職が低くなるケースはますます増えてくる。

これは企業側にとっては、人件費を抑える、若手の登用を促進するなどの利点がある一方、課長にとっては、かつて部長や課長を経験した人が部下となり、自分より年上の部下をマネジメントしなければならなくなるケースが増えるということを意味する。

役職がなくなり一般社員となった人の中には、プライドが高かったり、「給料が以前より減ったから」「自分は先が見えたから」などと考え、明らかにやる気のない者も出てくる。

そのような部下に、どう対応すべきだろうか?

①経験・専門性を活かした役割を担当する

これまで積み重ねてきた経験・知識などの伝達を任せるのは効果的である。 大手メーカーのM氏は、課長経験後に役職定年、そして雇用延長となった。役職がなくなり、給料も目減りしたが、引き続きこれまでの経験を活かせる役割を任され、「これからも決して、妥協せず、楽せず、頑張る」と、全力で取り組んでいる。

②リスキリングする

変化の激しい時代には、これまでの経験・スキルがすでに陳腐化してしまっている場合、また新しいスキルが求められることも多くなる。その場合、新しいスキルを獲得するリスキリングが求められる。リスキリングは、米国ではAT&T、アマゾン、ウォルマートなどで行われており、日本では富士通、日立などが積極的に取り組んでいる。

たとえば、富士通では「ITカンパニーからDXカンパニーへ」の戦略を打ち出している。従来は顧客の状況や求めているニーズに合わせ、確実にシステム設計を行うITスキルが求められてきたが、いまの時代は、デジタルやデータを活用し、ビジネスモデル全体を変革し、顧客体験を最大化するDXスキルが求められてきているため、新しいスキルを得るためのリスキリングに積極投資をしている。

シニアメンバーが若手を育成する際の注意点

③若手の育成を担当する

シニアメンバーに、ミレニアル世代やZ世代などの若手を育成させることも1つである。それまでの豊富な経験を活かし、若手の育成係になってもらう。これはシニアメンバーにやりがいを見出させる方法であろう。

その場合、注意したいのが、シニアメンバーが若手を育成する際、どうしても自分流のやり方を押しつけてしまったり、説教モードに入ったりしてしまうことである。それでは指導される若手社員のほうに抵抗感が生じる。そうならないよう、ティーチング(教える)ではなく、コーチング(引き出す)の手法をとっていくようにすべきである。

自分の経験や知識を参考としてティーチングしながらも、ティーチング一辺倒になるのではなく、相手から引き出すコーチングスキルを活用し、「○○のような場合、どう考える?」「私の場合、○○したが、君の意見は?」などと意見を引き出し、自分なりに考えさせるようにする。

シニアメンバーに傾聴・質問などのコーチング手法を学んでもらい、若手一人ひとりに合わせたコーチングで個性を引き出していくようにするとよい。

シニアメンバーが従来からあるビジネスのノウハウや考え方を、ミレニアル世代、Z世代などに教え、逆にミレニアル世代、Z世代の両方からシニアメンバーにデジタルやデータの活用について教える双方向メンタリングも効果的である。

そして、どうしてもやる気がない、また周りへ悪影響が出てしまうなどのシニアメンバーに対しては、課長として、言うべきことを言わなくてはならない。

相手が年配者であっても、もし課の運営に悪影響を及ぼすようであれば、課長の役割として、きっぱりと伝えるべきである。

年上のメンバーのマネジメントのスタンス、やり方は?

ある企業のマネジメント研修で、自分より年下の上司のいるシニアメンバーは、「上司が、年上である私に対して遠慮しすぎてしまい、言うべきことを言ってこない。もちろん、口のききかたなど、年配者への配慮はほしいが、部下である私に言うべきことははっきりと言い、課長という役割で仕事をすべきである。そうしないと組織として機能しない」と述べていた。まったくそのとおりである。

また、自分より年上のメンバーを持つ課長は、「相手が年上だからといって遠慮しすぎずに、課長という役割を果たすよう心がけている」と言っていた。そのようなスタンスでいるほうがうまくいっていることが多いようである。

ある製薬会社の課長は、自身の昇格により、以前自分の上司であった人がメンバーとなったことがある。年下の上司もやりにくいし、年上のメンバーもおもしろくない。

その際、課長という立場から言うべきことを言いつつ、年上のメンバーの強み・弱み・特徴をよく理解したうえで、極力、年上のメンバーの強みを活かそうとしたそうである。

特に年上のメンバーの強みが出る分野においては、「○○については、どのように考えますか?」「何か、若手に向けてのアドバイスなどありませんか?」など相談を投げかけながら、やる気や能力を活かすようにし、結果、うまく課をマネジメントできたとのことである。

ジュニアメンバーにやってはいけないこと

新版 課長の心得

10歳、20歳、時に30歳以上年齢差があるジュニアメンバーを持った場合、どうするか?

「最近の若手は考え方、価値観が違いすぎる」と思うこともあるだろう。また、話題がかみ合わないこともあるかもしれない。

数千年前に書かれた古代エジプトの壁画から、「最近の若者はどうしようもない」と書かれた落書きが見つかっている。いつの時代でも「最近の若者は……」という話題は尽きないようである。

若いメンバーに対しては、次のようにするとよい。

①まず相手の話を聴いていく

相手の仕事また仕事以外の点において、意見・考え方などを聴いていくと相手も話すようになる。素直に相手の話に耳を傾けて、相手から学ぶつもりで接するとよい。

筆者自身、大学2〜4年生向けの授業を担当している。当初は大学生を理解できるかどうか多少の不安もあったが、よく話を聴いていくと、デジタルや社会課題に関する考え方や価値観、どんなことに関心があるかなどが徐々に理解できるようになってきた。

②自分の失敗談を伝える

タレントの高田純次氏は、「年配者が若者にやってはいけない話は、説教と昔話と自慢話」と言っている。ビジネスにおいても同じである。恥ずかしながら、筆者も若いメンバーに説教的なことを言ってしまい、反省することがある。

経験や考え方などを伝えるために過去の成功談もよいかもしれないが、若いメンバーにとっては、年配者の失敗談のほうが自慢話より聴きやすく、ずっと参考になる。「新入社員のころ、○○の失敗をしたことがある」「○○で悩んだことがある」などの話をすると、年齢差のあるメンバーにも共感でき、思いのほか、耳を傾けたり、質問してくるだろう。

(安部 哲也 : 立教大学大学院ビジネススクール(MBA)客員教授・EQパートナーズ代表)

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