一等地に中国車両「国際鉄道見本市」の注目テーマ

イノトランスの屋外展示スペースにずらり並んだ鉄道車両。メタルブルーの中国製車両(右)が目立つ位置に(記者撮影)

ドイツのベルリンで2年に1度開催される国際鉄道見本市「イノトランス」は、世界中の鉄道関係者が集結する鉄道の祭典である。今年の会期は9月24日から27日まで。

まだコロナ禍が収束しきっていなかった2022年は56カ国から2834の鉄道関連企業や団体が参加したが、今回は59カ国から2940の企業・団体が出展。61カ国から3062の企業・団体の出展した2018年の実績には届いていないが、その規模は徐々に回復傾向にある。

目立つ位置に「中国製車両」

会場には鉄道の引き込み線があり、本物の列車が持ち込まれるのがイノトランスの最大の特徴だ。世界中のメディアが集まるとあって、多くの車両メーカーがここで新型車両のお披露目や新技術の発表を行う。

「この場所に中国の車両が置かれるなんて」――。

屋外に展示される車両の配置図を見て出展者たちが驚いた。会場に入ってしばらくは屋内のブースが続くが、屋外の広い車両展示スペースに向かうと、まず目に飛び込むのは明るく輝くメタルブルーの流線形車両。中国の鉄道車両メーカー・中国中車の「CINOVA(シノヴァ)H2」である。

完成したばかりで今後中国国内でのデビューが決まっている。時速160kmでの営業走行を想定しているが、最高時速は200kmなので高速列車の範疇にも含まれる。

前回、この場所に置かれていたのはポーランドのメーカー・ネヴァグのハイブリッド車両。環境性能を重視する近年の鉄道業界のトレンドにマッチして来場者から高い関心を集めた。その場所に今年は中国製の列車がでんと構える。前回2022年のときは、中国中車の車両が置かれていたのはメイン会場からやや離れた通路のような場所だった。

車両の傍らにいた中国中車のスタッフに「こんないい場所を勝ち取るのは大変だったのでは?」と水を向けると、「わかりません」とつれない答え。しかし、「わざわざ中国から海上輸送でイノトランスの会場に持ち込んだ」と付け加えるあたり、輸送の手間と費用を考えれば意気込みは伝わってくる。世界最大の売上高を誇る中国中車の売り上げの大半は国内で稼いだものであり、国外売上を伸ばす必要がある。イノトランスは世界へアピールする格好の機会なのだ。

中国中車のCINOVA H2の前では「ゆるキャラ」が翌日のセレモニーに向けて練習中(記者撮影)

日立は高速鉄道車両を展示

日本勢では日立製作所の展示が目を引く。フランスの防衛・航空宇宙大手タレス社の交通システム事業を買収したことで、展示規模が従来よりも拡大した。

屋外では「フレッチャロッサ(赤い矢)1000」というブランド名を持つ国際高速列車ETR1000を展示した。この車両は2014年のイノトランスでも展示されていたが、このときは当時の車両メーカーであるボンバルディアとアンサルドブレダの共同開発車両として出展されていた。その後、ボンバルディアはアルストムに、アンサルドブレダは日立に、それぞれ買収された。そのため、今回は日立による出展となった。

日立の鉄道関連のグループ会社の1つである日立レールSTSでシニアディレクターを務めるマルコ・サッチ氏に「10年前の車両と何が違うのか」と尋ねてみると、「外見は同じだが、中身はまるで違う」とのこと。同じETR1000でも今回は主電動機とパワーユニットを再設計したほか、台車・列車制御監視システムも刷新した。2026年春からイタリアの鉄道会社トレ二タリアに納入することが決まっており、25日にリボンカッティングセレモニーが行われる予定だ。

会場では新技術の発表が行われると前述したとおり、今回も大きなニュースが飛び込んできた。日立は半導体大手メーカーのエヌビディアと連携し、AIなどのデジタル技術を活用した鉄道デジタルプラットフォームを開発し、イノトランス会期中に発表する。車両のメンテナンスコストを最大15%削減できるほか、オーバーホールにおいて交換する部品の量を最大30%削減するなどのメリットがあるという。

日立が展示する高速鉄道車両ETR1000は「フレッチャロッサ(赤い矢)1000」というブランド名を持つ(記者撮影)

再び高速鉄道が主要テーマに?

開催に先立ち23日に行われた記者会見ではイノトランスを運営するメッセベルリンのダーク・ホフマンCOOをはじめ、あいさつに立った関係者たちは口をそろえてAI、デジタル技術、気候変動が鉄道業界に変革をもたらすと発言していた。しかし、会場を見渡して気付いたことがある。

10年前のイノトランスは高速鉄道車両の実物展示が目玉だった。その後、イノトランスのテーマはデジタル技術や環境性能に移り、高速鉄道の展示は減り、実験用車両など営業用途以外の車両展示にとどまっていた。しかし、今回は日立のETR1000、中国中車のシノヴァH2、さらにドイツのシーメンスも改良型の高速車両ヴェラロを展示した。このヴェラロは従来よりも過酷な温度環境下での運行を想定し、気温45度という灼熱の環境でもマイナス25度という極寒の環境でも走行可能という。

欧州鉄道産業連合(UNIFE)でジェネラルディレクターを務めるエノ・ウィーブ氏によると、「欧州委員会は高速鉄道ネットワークの整備に動き出している」という。「インフラ整備は20年、30年という長期的なプロジェクトなので、それに合わせた高速鉄道車両の開発がすぐに始まるということはないが、高速鉄道の需要は今後さらに高まっていく」と断言する。

以上は、今年のイノトランスが打ち出すテーマのほんの一端にすぎない。開幕後は多くのニュースであふれかえるに違いない。

(大坂 直樹 : 東洋経済 記者)

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