12年ぶり復権の野田元首相、政権交代に必要なもの

野田佳彦

立憲民主党の代表となった野田佳彦元首相(写真:東京スポーツ/アフロ)

立憲民主党は新しい代表に野田佳彦元首相を選んだ。2012年の総選挙で大敗し、首相と当時の民主党代表の座を降りて以来、12年ぶりの「復権」である。

派閥の裏金事件で自民党が逆風に見舞われるなか、野田代表の立憲が党組織の結束を強め、自民党に対抗できる政策を発信できるかどうか。野田立憲は、新しい総裁・首相を選ぶ自民党と政権交代をかけた激しい攻防を繰り広げることになる。

候補者4人の対決姿勢は強まらず

立憲民主党の代表選ではまず、枝野幸男元代表が立候補を表明。野田氏は党内で待望論が広がったのを受けて出馬の決意を明らかにした。泉健太前代表は20人の推薦人確保が難航したが、告示直前にメドが立ち、立候補を表明。衆院当選1回の吉田晴美氏は告示日の9月7日に滑り込みで立候補を届け出た。

4人による論戦では、日本維新の会や共産党など他の野党との共闘のあり方や消費税の減税などが議論されたが、候補者間の対決姿勢は強まらなかった。むしろ、同時期に繰り広げられた自民党総裁選に対して4人とも批判を強める場面が目立った。

①裏金問題の真相究明や処分が不十分、②再発防止策である政治資金規正法の改正が生ぬるい、③自民党の小泉進次郎候補らが打ち出した解雇規制の緩和などは大企業優遇の弱者切り捨て政策、といった指摘では4人とも声をそろえた。いわば、総選挙の前哨戦の様相を見せた。

9月23日に行われた代表選投開票では、衆参の国会議員と立候補予定者、地方議員、党員・サポーターによる第1回投票で野田氏267ポイント、枝野氏206ポイント、泉氏143ポイント、吉田氏122ポイントだった。

どの候補も過半数に届かなかったことから、上位の野田氏、枝野氏による国会議員中心の決選投票が開かれ、野田氏232ポイント、枝野氏180ポイントを獲得し、野田氏に決まった。野田代表はただちに幹事長や政調会長などの役員人事に着手する。

「政権交代の好機」と腰を上げた野田氏

野田氏は1957年生まれ。早稲田大学を卒業後、松下政経塾で学び、千葉県議を経て1993年に日本新党から衆院初当選。1996年の衆院選では新進党で立候補したが落選した。2000年に民主党で議席を取り戻して以来、連続当選。2009年に誕生した民主党政権下で財務副大臣、財務相を経て首相に就いた。

2012年、当時の野党・自民党の谷垣禎一総裁、公明党の山口那津男代表と消費税を5%から10%に引き上げて社会保障の財源とする「3党合意」をまとめ上げた。

だが、民主党内では小沢一郎元代表のグループが反対。自民党は総裁が安倍晋三元首相に交代し、野田政権との対決姿勢を強めた。野田氏は衆院の解散・総選挙に追い込まれ、民主党は惨敗。自民党が圧勝して第2次安倍政権が発足した。民主党はその後、混迷を続け、民進党、希望の党などを経て、立憲民主党としてようやく自民党に対抗できる態勢を整えた。

2023年秋には自民党の裏金事件が発覚。自民党による真相解明は進まず、安倍派を中心とした関係議員は「秘書に任せていた」などと繰り返し、責任を回避した。

再発防止策としての政治資金規正法改正も不十分で、岸田文雄首相(自民党総裁)に対する世論の批判は強まった。事態を打開できない岸田首相は自民党総裁選への出馬を断念、退陣に追い込まれた。

逆風にさらされた自民党を尻目に「政権交代の好機」と見て腰を上げたのが野田氏だった。

野田氏の日課は早朝の駅立ちから始まる。最新の問題についてコメントを記したチラシを配る。

有権者に接している野田氏の言葉には力がある。銃撃で死去した安倍元首相に対する追悼演説は、与野党の議員をうならせた。一方で、ユーモアも忘れない。小泉進次郎元環境相が4代目の政治家であることに触れて「ルパンだって3世まで」と自民党の世襲議員をチクリと批判する。

野田立憲が自民党と向き合うスケジュールは以下のとおりだ。

自民党が9月27日に新総裁を選出。石破茂元幹事長、小泉元環境相、高市早苗・経済安保相のいずれかが選ばれる可能性が大きい。10月1日召集の臨時国会で新首相が選出された後、組閣を済ませ、所信表明演説、衆参両院での代表質問などを経て衆院が解散され、総選挙になだれ込む。

この総選挙こそ、野田立憲の最初で最大の試練だ。まず、党組織をまとめることが不可欠。民主党以来、政策や党運営をめぐって内部対立が続き、有権者の信頼を失ってきた。

小沢氏とは「恩讐を超えた」協力体制

2021年に枝野氏に代わって代表に就いた泉氏は、2022年の参院選で敗北したが、岡田克也幹事長や大串博志選挙対策委員長らが泉体制を支え、地道に国政選挙の候補者を発掘。2024年4月の衆院3選挙区の補欠選挙では、立憲の公認候補が3勝するという成果を上げた。

12年前に消費増税をめぐって野田氏と全面対立した小沢氏は、今回の代表選で野田氏を支援。「恩讐を超えた」(野田氏)協力態勢ができた。理念や政策が異なっても、自民党との対決を重視して結束していく政治文化が定着すれば、立憲にとって政治的な成熟を示すことになる。

野党同士の連携も課題だ。国民民主党は、同じ民主党系の仲間でもあり、選挙での棲み分けは難しくない。連合も立憲と国民の一体化を望んでいる。右の日本維新の会、左の共産党との連携は難題だが、自民党に対抗する候補者の一本化という大義名分の下で結集することは可能だ。

野田立憲の政策はどうか。2009年の政権交代で、当時の民主党は沖縄県の米軍普天間飛行場を「最低でも県外、できれば国外」への移転を掲げたが、実現できなかった。政府予算の無駄の削減で子ども手当などの財源を確保すると訴えたが、大幅削減はできなかった。

そうした「苦い経験」を踏まえて、今回は「できないことは言わない原則」(岡田幹事長)が打ち出されている。野田氏は、消費税の減税は見送り、集団的自衛権の一部を容認した安全保障法制の見直しもすぐにはできないという立場だ。

格差解消のための富裕層増税として、金融資産課税の強化が検討されているが、これも急速に進めると株価暴落などにつながる可能性があり、慎重な対応が求められている。

野田氏はそうした事情を踏まえて「現実的」な政策を打ち出す考えだ。立憲内部では左派から不満が募るだろうが、政権交代をスムーズに進めるには現実的な対応が必要になる。党内の対立が強まれば、自民党から「立憲はバラバラ」と批判され、有権者の不信につながるだろう。まさに野田氏のリーダーシップが試されるのである。

日本政治の行方を左右する1年に

11月にも予想される総選挙では、野田立憲が議席を増やすとしても、自民・公明両党を半数割れに追い込むことができず、政権交代は実現しない可能性が高い。その場合、2025年1月からの通常国会が与野党の攻防の舞台となる。自公政権が追い詰められ、2025年夏の参院選で自民党が大敗し、与野党逆転となれば、政局は一層混迷する。

衆院解散・総選挙に追い込まれれば、政権交代が現実味を帯びる。裏金事件で揺らいだ自民党政権をどこまで追い詰められるか。今後の「1年政局」は、野田立憲だけでなく、日本政治の行方を左右するだろう。

(星 浩 : 政治ジャーナリスト)

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