有料会員100万人「radiko」のビジネス的伸びしろ

(画像:radikoウェブサイトより)

ネット経由でラジオを聞けるラジコ(radiko)の新サービス「タイムフリー30」が始まる。30日以内であれば聴取制限なく、何度でも聴き放題となるサービスだ(ただし一部聴取できない番組あり)。

さらに従来の「エリアフリー」と組み合わせると、全国のラジオ局の番組に適用されるという。特に「推し番組」をいつでも何度でも聴きたいという若年層=「Z世代」の需要に応えるサービスではないか。

そもそもラジコは予想以上に確実にパイを広げている。

この4月にラジコが発表した資料によると、現在の有料サービス(上記エリアフリー)のユーザーは100万人とのこと。ラジオという媒体特性から考えると、決して小規模とはいえないだろう。

また総務省による「令和5年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」(2024年6月)によれば、ラジコ自体の利用率は全年代で13.8%にまで達している。おおよそ7人に1人の割合である。

そこに満を持しての「タイムフリー30」の導入だ。今、ラジコはさらなるステップアップの時期を迎えている。

というわけで今回は、新サービスで脚光を浴びるであろうラジコを軸に、これからのラジオ業界の活性化可能性を探ってみたい。

ラジオ広告費は段階的に拡大している

電通『2023年 日本の広告費』によれば、昨年のラジオ広告費総計は1139億円。2018年が「1278億円」だったので、約11%縮小した格好となる。

ただし、ここ数年のラジオ広告費を見ると、コロナ禍2020年の1066億円から、2023年の1139億円へと段階的に成長しているのだ。

また「ラジオ愛」の盛り上がりを目にすることも多くなった。その代表的なものは、今年2月18日に行われた「オードリーのオールナイトニッポンin東京ドーム」である。1つのラジオ番組が、何と東京ドームでのイベントを大成功させたのである。

見えてくるのは、厳しい局面に立たされているにもかかわらず、いや、厳しい局面だからこそ、ラジオというオールドメディアを偏愛するリスナーが拡大しているさまである。

そして今、そんな老若男女のラジオ偏愛リスナーの広がりに貢献しているのもまた、ラジコなのだ。

私は広告代理店出身で、かつ現在ラジオDJ(BAYFM『9の音粋』月曜日)をしているという、ちょっと変わったプロフィールの57歳である。子供の頃からのラジオ好きで、ラジオ業界が反転攻勢してくれないかと、ずっと願っている。

というわけで、ここからは、ラジオ業界がどのように成長していくべきか。元広告マン&ラジオDJ&1人のラジオ好きとして考えた提言を述べる。一部、釈迦に説法、もしくは素人目の意見があるかもしれないが、ラジオ愛の発露として許してほしい。

もちろん、そのキーはラジコだ。

ユーザー100万人なら全国のマニアに届く

まずは、既存の広告ビジネスの活性化に向けて。

1つは導入済みの「ラジコオーディオアド」の認知度を高めることだろう。「ラジコオーディオアド」とは、「番組中に配信され、ユーザーごとにターゲティングができるデジタル音声広告」のこと。いかにもトラッドなイメージのあるラジオ広告のあり方を一新させる仕組みだと思う。

次に提案したいのは「マニアセグメント」だ。ラジオの規模感を逆から見れば、テレビではあり得ないマニアックな番組によって、狭く深いマニアリスナーに訴求することができるという強みが見える。そう言うとパイが小さそうに聞こえるが、今や、100万人を抱えるラジコのエリアフリーによって、全国のマニアに届く可能性が広がっている。

不肖、私の音楽番組も、けっこうマニアックなのだが、全国のリスナーに支えられている。いただくメールのうち、感覚的にいえば3分の1ほどは関東エリア以外からのものだ。

ということは「マニア向けの番組×マニア向けの広告」という構造に可能性が見出せる。もっと番組(コーナー)の内容と連動した、より限定的な「マニアセグメント」の広告展開を追求するべきではないだろうか。

あと思うのは、「ラジオショッピングの活性化」である(これはラジコとの直接の関係はないのだが)。

聴いていて、もったいないと感じるのは、ラジオショッピングの枠に入った途端、原稿棒読みになるパーソナリティが多いこと。結果、商品の魅力がリアリティを持って伝わらず、また、番組本編から独立した感じとなり、リスナーの「聴取熱」が下がる場合が多そうなのだ。

もっと番組本編とシームレスに、パーソナリティ自身の言葉と世界観の中で、商品を語るべきではないか(その点、ショッピングキャスターの物まねを執拗に続けることで、番組の世界観に引き込むABCラジオ『ますだおかだ増田のラジオハンター』の増田英彦は賢明だと思う)。

ラジオ界の新規ビジネスとして期待できること

以上を既存ビジネスの拡大とするならば、ラジオ界としての新規ビジネスとして期待したいのが、ラジコをプラットフォームとした、「BtoB」ならぬ「BtoC」、つまり「BtoL(Business to Listener)ビジネスの活性化」であり、これが今回の本論である。

上記、既存広告ビジネスの商流は、広告主からラジオ局に広告費が流れる構造だ。つまり俗に言う「BtoB」(企業間取引)であり、その商流に消費者=リスナーは存在しなかった。

しかし、スマホ(PC)の中のラジコは、ラジオ局とリスナー1人ひとりを直結するメディアである。ということは「BtoLビジネス」のプラットフォームになり得るのだ。

ラジコをヘビーユースしていて思うのは、番組ごとの画面(アプリでいえば上部に番組ごとの画像の入っている、あの画面)が、なぜまったく動かず、情報も変わらないのだろうということ。

ラジコの番組画面例

番組内容の展開に即して、もっと多様な情報を可変して組み込めるはずだ。例えば、ラジオショッピングの時間になれば、せめて商品の画像をラジコに載せるべきだろう。また電話だけではなく、ラジコの画面にもレスポンスの入り口を作ってもいい。

さらにはテレビ番組よりも(狭いけれど)深い、コアなファンリスナーを多く抱えている番組も多いのだから、そんなリスナーに対して、番組のスピンオフコンテンツや関連グッズの販売、イベントの優先予約、クラウドファンディングなど、局への課金プラットフォームとして、ラジコ(の番組画面)を活用すべきだと思う。

このあたり、番組の公式ホームページが受け皿でも問題はないのだが、ラジオファンならわかるとおり、ホームページは、局ごと、番組ごとに驚くほどバラバラで、かつUI(ユーザー・インターフェース)のこなれていないものが多い。

だとしたら、これほどまでに普及したラジコの、利用者が必ず見る番組画面に、「BtoLビジネス」プラットフォームというさらなる役割を担わせるほうが自然だと思う。要するに私はラジオ好きとして、ラジオ局に儲けてほしいのだ。

ラジコの利用率が最も高い世代

最後に狙うべきリスナー=ターゲットの話をしたい。

もちろん、先に述べたように、基本的には番組ありきだと思うので、各番組それぞれに、狭くて深い(≒マニアックな)リスナーを確保していくことが先決なのだが、加えて、ラジコが、ひいてはラジオ業界が狙っていく戦略ターゲットの選択と集中が必要ではないだろうか。

注目すべきは、先の総務省データによるラジコの利用率(全年代で13.8%)について、年齢別でもっと高いのが50代で16.6%、それを追うのが40代で16.3%という事実である。この2層への強みを手がかりにするべきだと考える。

言いたいことは、ラジコに食い付いている40~50代=「X世代」を戦略ターゲットとして、さらに掘り起こしていくべきだということだ。

「Z世代」は、先のように「推し番組」での獲得を狙う。逆にシニア層には、ラジコではなく通常受信の地盤がまだある。そこでラジコを軸に、業界全体で「Z世代」を狙う。高いと言っても利用率がまだ2割に達していない「Z世代」をラジコの戦略ターゲットとして利用促進し、ラジオのある生活に引き込む。

この世代は、「ラジオのいい時代」を知っている最後の世代といえる。もっと具体的に関東地区でいえば、ラジオスター・伊集院光世代であり、今ナイツのフリートークに耳を澄ましている世代だろう。

「Z世代」と「シニア」の間にいる「X世代」の可能性

「X世代」だから、まだ「シニア」ではなく(少なくともシニア自意識はなく)、まだまだ活動的で、消費意欲も高く、かつ「Z世代」ばかり意識して大騒ぎしているテレビメディアやネットメディア、逆に粛々とシニアシフトしている活字メディアに対して、疎外感を感じ始めている世代でもある。

「X世代」――実は狭いようで広く、この原稿で挙げたオードリー、増田英彦、伊集院光、ナイツ、そして私まですっぱりと入る広大な世代だ。

「Z世代」と「シニア」世代の中間で、宙ぶらりんとなっている「X世代」の最強の相棒としてのラジコに、そしてラジオメディアになる。

ちなみにこの場合、ラジオ局同士で戦うという発想よりも、ラシオ業界全体がタッグを組んでサブスクやYouTubeと戦うという発想が重要だろう。

もちろん、そんな「X世代」も歳を重ねる。ゆくゆくはラジコ化した「シニア」も含めた、いよいよ広大な「大人」市場のど真ん中メディアとして、ラジオが君臨する時代へ。

2017年4月20日、TBS『伊集院光とらじおと』に出演したラジオスター・吉田照美は、今後やりたいラジオを聞かれて、「年寄りが画期的なことをやる番組。『ラジオ深夜便』みたいな静かな番組じゃなく、年寄りが暴れたり、大声を出す番組」と言っていた。

そういうラジオを聴いてみたいと思う私は、「X世代」の最長老である。

(スージー鈴木 : 評論家)

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