姿を消していたヒロミが旬芸人をしのぐ人気な訳

ヒロミ THE MC3

完全復活を遂げ、50代以降も根強い人気を誇るヒロミの魅力とは(写真:Pasya/アフロ)

テレビ業界は秋の改編シーズンに入った。今回の改編で注目されている新番組の1つが、TBSで月曜夜9時に放送される『THE MC3』である。この番組のMCを務めるのは、東野幸治、中居正広、ヒロミの3人。バラエティの世界で息の長い活躍を続ける重鎮トリオが肩を並べることになる。

この枠で現在放送されているのは、かまいたち、見取り図、ニューヨーク、モグライダーの4組が出演するバラエティ番組『ジョンソン』である。今が旬の芸人たちが集まって鳴り物入りで始まった番組だったが、視聴者の支持を得ることはできず、打ち切りとなってしまった。

50代トリオが底力を見せた

次に始まるのが大ベテラン3人による番組だというのだから、この枠では世代交代が失敗に終わったと言ってもいい。東野、中居、ヒロミの50代トリオが底力を見せつけた形となった。

そして、まだ正式に発表されているわけではないが、フジテレビでは10月からヒロミとホラン千秋がMCを務める『女のTHE共通テン』がレギュラー放送される、という報道もあった。

一時は芸能界からほとんど姿を消していたヒロミが、今では完全復活を遂げて、新しい番組も次々に始まろうとしている。彼の根強い人気の理由は何なのか。

ヒロミは1986年にデビット伊東、ミスターちんとお笑いトリオ「B21スペシャル」を結成した。1990年代には数々のバラエティ番組をまたにかけて大活躍。B21スペシャルは、ウッチャンナンチャン、ダウンタウンと並ぶ「お笑い第三世代」の一員として圧倒的な人気を得ていた。

また、ヒロミは単独でも多数の番組でMCを務めるようになり、最盛期にはレギュラー12本を抱えていた。しかし、ある時期に忽然とテレビの世界から姿を消した。

ヒロミはなぜ消えていたのか? そしてなぜ復活できたのか? その真相については本人がテレビでたびたび語っているが、本当のところははっきりしない。活字メディアでもさまざまな噂が飛び交ってはいたが、決め手になるような定説はない。

なぜ復活を遂げられたのか

ここでは、裏の事情はさておき、一時はテレビから消えていたヒロミがなぜ2014年頃に華麗な復活を果たすことができたのか、ということについて考えていくことにする。

ヒロミが復活できた第1の理由は、テレビの第一線から退いてはいたが、芸能界の人間関係から完全に身を引いたわけではなかったからだ。テレビにほとんど出なくなってからも、友人である木梨憲武、藤井フミヤなどとは親交があった。また、妻である松本伊代もタレントとして活動を続けていた。

いわば、ヒロミ自身がテレビに出ていないとはいえ、芸能界に片足を突っ込んでいる状態に変わりはなかった。こういう状態だったからこそ、タレントとしての勘が鈍らなかった。いきなりテレビに出てもそれなりに対応できたのは、休業中にもきちんと芸能人との付き合いを続けていたからだ。

第2の理由は、時代がヒロミのようなキャラクターを再び求めるようになったということだ。これはテレビでも本人の口から何度か語られている。

ヒロミが復活した2014年頃には、有吉弘行、坂上忍、マツコ・デラックスなど、「毒舌キャラ」と言われる人たちの活躍がめざましかった。彼らは、物事の本質を捉えた厳しい毒舌を浴びせかけ、その切れ味が認められて、どんどん仕事を増やしてきた。

ヒロミも、どちらかというとそういうタイプの芸人である。元暴走族ならではの特攻精神で、どんな相手にもズケズケと乱暴に絡んでいく。暴力的なツッコミをしたり、目上の人にもタメ口を使ったりする。そういうヒロミの荒々しい芸風が、ようやく時流に合うようになってきた。有吉、坂上がいけるなら、俺もいけるんじゃないか。ヒロミはそう思ったのだという。

元ヤンキーの強みを生かす

また、ヒロミの強みはそういう荒っぽいところだけではない。それと同時に、目上の人の心をつかむ抜群の社交センスを持ちあわせている。それがあるのは、おそらく彼が元ヤンキーだからだろう。

上下関係に厳しい世界で鍛えられ、体を張って危険に身をさらすことに慣れている彼は、そのヤンキー魂を武器にして芸能界を渡り歩いてきた。ビートたけしを「オジさん」と呼び、明石家さんまを「さんちゃん」と呼ぶ。怒られないし失礼だとも思われない絶妙な距離感で人付き合いができるのがヒロミの持ち味だ。

また、復活してからのヒロミは、後輩芸人や年下のタレントとの距離のとり方も抜群だった。『ウチのガヤがすみません!』(日本テレビ)では、さまざまなタイプの若手芸人たちのパフォーマンスを温かく見守り、ときには厳しい言葉をかけたりした。

新番組『THE MC3』で共演する中居も、ヒロミを兄貴分のように慕っていた。ヒロミが本格復活後に共演を果たしたとき、喫煙所で中居が「俺、司会上手くなりました?」と尋ねて、ヒロミが「上手くなりすぎだよ、誰が紅白の司会までやれって言ったんだよ」と答えたという話もある。

生き様を同世代の男性が支持

また、ヒロミは趣味が多いことでも知られている。テレビに出ていない時期にも、トレーニングジムの経営をしながら、ゴルフ、射撃、DIY、自動車、バイクなどの趣味に没頭する日々を送ってきた。

2019年にはYouTubeチャンネルを始めて、自分の趣味活動を中心にしたライフスタイルを発信している。テレビでもDIYなどの趣味を生かした企画に携わる機会も多い。人生を積極的に楽しむ生き様そのものが、同世代の男性に支持されている。

ヒロミは「空白期間」を経て、人間としても芸人としても魅力を増して、人気タレントの地位を確立した。上の世代には「かわいい後輩」として愛され、下の世代には「頼れる先輩」として慕われる彼は、おじさん世代の希望の星としてこれからも輝き続けるだろう。

(ラリー遠田 : 作家・ライター、お笑い評論家)

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