緩和期に膨らんだ「住宅ローン残高」のヤバい実態

(撮影:今井康一)
日本銀行は黒田東彦前総裁の下で進められてきた"異次元緩和"に終止符を打ち、植田和男総裁は、慎重に出口戦略を講じようとしています。しかし、空前の規模となった金融緩和により、日本経済が正常化へ向かう道筋は困難なものとなっています。本稿では、『異次元緩和の罪と罰』より一部抜粋・再構成のうえ、異次元緩和が住宅ローン残高に及ぼした影響について解説します。

40代まで負債超過の状態

家計部門で注視が怠れないのは、住宅ローンへの影響だ。長引く超低金利のもとで、家計は、過去のトレンドを超えて多額の住宅ローンを借りられ、住宅を購入してきた。

下の図表は、家計の金融資産・負債残高を世帯主の年齢階層別にみたものだ。目立つのは、家計の負債残高がすべての年齢層で増えていることだ。

(出所)『異次元緩和の罪と罰』より

2019年時点の負債残高(グロス)を10年前と比べると、30歳未満345万円→553万円、30~39歳層835万円→1182万円、40~49歳層941万円→1106万円、50~59歳層568万円→690万円、60~69歳層278万円→334万円、70歳以上層152万円→193万円となる。

この結果、以前であれば、40代にはネット金融資産(金融資産残高から金融負債残高を差し引いたもの)が負債超過から資産超過に転じていたものが、2019年調査では、ネット資産超過への転換が50代に持ち越されている。

家計部門における負債は、ほとんどが住宅ローンだ。データからわかるのは、異次元緩和下での超低金利が、いかに若年層、中堅層の住宅購入を促したかである。

住宅金融支援機構の「住宅ローン利用者の実態調査」によれば、2024年4月調査での住宅ローンの借入形態は、「変動型」76.9%、「固定期間選択型」(借入当初から一定期間、金利が固定され、そののちに変動金利となるもの)15.1%、「全期間固定型」8.0%だった。

利用者の多くが、低金利の長期化を受けて「変動型」を選択した。この結果、短期金利が上昇すれば、利用者の負担がただちに増える構図にある。

国土交通省の「令和4年度住宅市場調査報告書」によれば、分譲集合住宅(分譲マンション)の購入資金は平均5279万円、うち自己資金平均2259万円、借入金同3020万円だった。借入金に対する年間返済額は約148万円であり、年収に対する住宅ローンの返済負担率は17.4%だった。

異次元緩和の罪と罰 (講談社現代新書)

超低金利の時代に適用された変動金利は当初の適用利率が1%未満のものが多く、かつ、住宅ローン減税などの国からの支援もあったために、実質的な金利負担はごくわずかだった。短期金利が上がれば、利用者の負担は増える。

借入金を3000万円と仮定すると、変動金利が0.25%上がれば当初の返済負担額は年間7万5000円増える。0.5%上がれば、15万円の負担増だ。家計部門も、異次元緩和で預金残高は大きく増えたが、その大半は高齢者の保有である。

高齢者の家計は利上げの恩恵を受けるが、20代、30代、40代は預金残高の倍以上の負債残高(住宅ローン残高)を有しており、若い世代の家計は圧迫される。利上げ幅が拡大すれば、住宅ローンの条件変更も多数発生する可能性がある。注視を怠れない。

(山本謙三 : オフィス金融経済イニシアティブ代表)

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