発売2年「現行クラウン」は誰が買っているか?

およそ2年前に世間を驚かせた新型クラウンシリーズの第一弾、クラウンクロスオーバー(写真:トヨタ自動車)

およそ2年前に世間を驚かせた新型クラウンシリーズの第1弾、クラウン クロスオーバー(写真:トヨタ自動車)

トヨタ「クラウン」といえば、かつては国産セダンの代名詞だった。それが、2022年9月、新型クラウン“シリーズ”として、4タイプのボディタイプを発表。そのトップバッターとして「クラウン クロスオーバー(以後クロスオーバーと表記)」を発売して、世間を驚かせた。

2023年11月には、「クラウン スポーツ(同スポーツ)」「クラウン セダン(同16代目セダン)」を追加。スポーツにはPHEV(プラグインハイブリッド車)、16代目セダンにはFCEV(燃料電池車)もラインナップされ、シリーズを形成する。

手前から、クロスオーバー、スポーツ、セダン、そして未発売のエステート(写真:トヨタ自動車)

手前から、クロスオーバー、スポーツ、セダン、そして未発売のエステート(写真:トヨタ自動車)

なお4つ目のモデルである「クラウン エステート」は、2024年央以降の発売だというから、この先もクラウンシリーズは盛り上がっていきそうである。

今回は、クロスオーバーの発売から2年を経て、新型クラウンシリーズがどのような人に買われているのかを、先代クラウン(同15代目セダン、RS)と比較しながら分析した。

15代目クラウン。写真のRSはそれまでのアスリートに代わるスポーティな仕様(写真:トヨタ自動車)

15代目クラウン。写真のRSはそれまでのアスリートに代わるスポーティな仕様(写真:トヨタ自動車)

分析データはこれまで同様、市場調査会社のインテージが毎月約70万人から回答を集める、自動車に関する調査「Car-kit®」を使用する。

<分析対象数>
■クラウン クロスオーバー(2022年発売):283名
■クラウン スポーツ(2023年発売):171名
■クラウン セダン(2023年発売):38名
■先代クラウン(2018年発売):365名
■先代クラウンRS(2018年発売):539名
※分析対象は新車購入者のみ
※スポーツのPHEVと16代目セダンのFCEVは出現サンプル数が少ないため対象外とした
※先代モデルにはガソリン車もあるが、現行シリーズと合わせるためハイブリッド(購入者の大半を占める)に限定した

方向性の変化で「購入」に違いは?

まずは、情報収集行動を追ってみよう。購入前に雑誌、インターネット、知り合いに聞くなどで「情報収集をした」という人の割合は、多い順にスポーツ、16代目セダン、クロスオーバー、RS、15代目セダンだった。

この順番から、先代よりも新型クラウンシリーズの購入者の方が、情報収集に積極的であることがわかる。

【写真】どんなクルマ? 15代目&16代目クラウンシリーズのデザインを見る

これまでのクラウンとは異なり、複数のボディタイプがラインナップされたことや、ボディタイプにより発売タイミングが異なったこと、モデルチェンジ内容が従来と違ったことなどから、情報収集の必要性があったとも見て取れる。

次に「車種決定の理由」を4つの選択肢から見てみた。「車そのもの」を決定理由とした人の数に着目してみよう。

車種決定の理由(4つの選択肢から)

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16代目セダン、スポーツでは8割を超える人が、15代目セダンとクロスオーバーでは7割強の人が、「車そのもの」と答えている。

ここ10年以上あまり元気のないセダンタイプを購入している16代目セダン購入者や、競合ひしめくSUV市場に登場したスポーツ購入者でスコアが高いことから、「クラウンだからほしい」と思う人々に支持され購入されているのだろう。

3人に2人はクラウンを「指名買い」

少し角度を変えて、「決定のこだわり度」を4つの選択肢から追ってみよう。

決定のこだわり度(4つの選択肢から)

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「ぜひこの車種に」と、こだわりの強かった人のボリュームを見ると、先ほど示した「車種決定の理由」と同様、16代目セダン、スポーツが頭ひとつ抜けて多いことがわかる。

もうひとつの注目点は、クロスオーバーが4割程度と低いことだ。歴代クラウンのオーナーが、「新型が出たから」という理由で購入した可能性がある。シリーズ第1弾が、クロスオーバーでなかったら、結果は変わっていたかもしれない。

購入に際して他に「比較検討」したクルマはあったのだろうか。「比較検討したクルマがあった人」と答えた人は、どのクラウンも35%程度。つまり、約3人に2人はクラウンを「指名買い」しているのである。

次に、クラウンシリーズ購入者が「どんなクルマと比較したのか」を、メーカー単位、車種単位それぞれの粒度で紹介する。メーカー別では、クラウン各モデルとも「最も比較したのはトヨタ車」となっており、次いでレクサスが続いた。

比較検討したメーカーランキング

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メーカー各社がラインナップを絞る中、トヨタも例に漏れず車種の統廃合などを行っている。とはいえ、依然としてトヨタは日本市場に多くの車種を用意するため、トヨタ内で比較しやすい状況であるといえる。

レクサスが多いのは、購入しようとしているボディタイプを変えることなく、よりプレミアムな車種まで選択肢を広げているためであろう。

比較検討した車種ランキング

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たとえば、車種別のランキングで見ると、スポーツ購入者とクロスオーバー購入者がレクサス「NX」を、ひとつ前のクラウンである15代目セダンとRS購入者がレクサス「ES」「GS」を比較している点などに表れている。

「気に入った点」とイメージの違い

それぞれのクラウンの特徴をより明確にしていこう。購入者がどこを気に入ったのかを「購入車の気に入った点」のデータから、そして自分が購入したクラウンに抱くイメージを「購入車にあてはまるイメージ」の結果から見ることで、クラウン間でどのような共通点や違いがあるのかを浮き彫りにした。

まずは気に入った点の結果を紹介する。

購入車を気に入った点(複数回答)

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クラウンに限らず、どの車種でも言えることだが「スタイルや外観」は全般的に高くなっている。そもそも、見た目が気に入らないクルマを買わないから当然であるが、その中でもスポーツの95%は突出している。

16代目クラウンとして先に登場した非セダンタイプのクロスオーバーより20ポイント以上高い点も興味深い。それだけスポーツのエクステリアは好評なのである。一方「室内の広さ」では、スポーツの満足度は低く、狭いと感じられているようだ。

フェラーリ プロサングエにも似ていると言われるクラウンスポーツ(写真:トヨタ自動車)

フェラーリ プロサングエにも似ていると言われるクラウン スポーツ(写真:トヨタ自動車)

スポーツは、クロスオーバーに比べて全幅は40mm広いが(スポーツ:1880mm、クロスオーバー:1840mm)、全長は210mm短く(スポーツ:4720mm、クロスオーバー:4930mm)、ホイールベースも80mm短い(スポーツ:2770mm、クロスオーバー:2850mm)。デザインを代償に室内、特に後部座席が狭くなっていることは否めない。

最後に「購入車にあてはまるイメージ」を見てみると、共通して「高級」を多く獲得していることがわかる。

購入車にあてはまるイメージ(複数回答)

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「伝統的」のスコアが、15代目から16代目へモデルチェンジしたことを経て減少している一方で、「個性的」が大きく伸びているのも、特徴だ。

「個性的」に加えて「都会的」「先進的」において、スポーツのスコアの高さが目立つ。また「運転を楽しめる」では、スポーティな仕上がりの「RS」も多くの人に想起されていることがわかる。

15代目では、顧客ターゲットの若返りを図った。しかし、それがなかなかうまくいかなかったことは、「15代目クラウン『若返り』の狙いは達成できたのか」で以前示したとおりである。

スポーツ、16代目セダンでは、15代目よりも「若々しい」のスコアが伸びているから、現行型にしてようやく若返りが成功するかもしれない。とはいえ、16代目シリーズの第1弾であるクロスオーバーは、スコアが低く15代目と同じである。

セダンとSUVの中間的なスタイリングのクラウンクロスオーバー(写真:トヨタ自動車)

セダンとSUVの中間的なスタイリングのクラウン クロスオーバー(写真:トヨタ自動車)

歴代オーナーの代替えと新規開拓の両立はできた

今回は、16代目クラウンシリーズ(クロスオーバー、スポーツ、セダン)それぞれの特徴を、先代の15代目クラウンと比較することで見てきた。ひと口にクラウンと言っても、複数のボディタイプを展開する16代目は、これまでのイメージを刷新する意味を持っており、実際に特徴として表れていることがわかった。

クラウンセダンのみ、MIRAIのプラットフォームを応用したFRで、FCEV(燃料電池車)も用意(写真:トヨタ自動車)

クラウン セダンのみ、MIRAIのプラットフォームを応用したFRで、FCEV(燃料電池車)も用意(写真:トヨタ自動車)

ボディタイプが増えることで選択肢が広がり、今までクラウンに興味がなかった層を取り込めるようになるかもしれない。

実際、どのクルマから乗り換えたかを確認すると、クロスオーバーのクラウンからの乗り換え率は4割。それに対して、その後に登場したスポーツは1割程度にとどまっており、約3割の人がハリアーから乗り換えているのだ。

こうした事実を簡単にまとめると、待望の新型クラウンとして最初に登場したクロスオーバーに、歴代クラウンオーナーの代替需要が集中し、継続購入をスムーズに獲得。そして、その後に登場したスポーツでは、これまでクラウンに乗ったことがない人々の関心を寄せることに成功した、と言える。

「もうクラウンの名前を冠さずともいいのではないか」と思われるのか、「セダンタイプでなくてもクラウンらしさがある」となっていくのか。選択肢を広げたクラウンであるが、クラウンとしてどういった価値やイメージを届けたいのかは、今後も引き続き重要な点となるであろう。

【写真】もう一度、クラウンシリーズ購入者の分析データを見る

(三浦 太郎 : インテージ シニア・リサーチャー)

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