アマプラ恋リア番組「ラブトラ」、意外な楽しみ方

水着の女性たち

ドラマのように考察が楽しめる復縁リアリティー番組「ラブ トランジット」。Amazonのプライム・ビデオでシーズン2(全8話)独占配信中(画像:©2024 Amazon Content Services LLC or its Affiliates.)
Netflix、Amazon プライム・ビデオ、Huluなど、気づけば世の中にあふれているネット動画配信サービス。時流に乗って利用してみたいけれど、「何を見たらいいかわからない」「配信のオリジナル番組は本当に面白いの?」という読者も多いのではないでしょうか。本記事ではそんな迷える読者のために、テレビ業界に詳しい長谷川朋子氏が「今見るべきネット動画」とその魅力を解説します。

考察が面白さの肝に

恋愛リアリティーと言えば、「バチェラー」シリーズを筆頭に、中年だらけの「あいの里」やゲイ同士の「ボーイフレンド」など話題になる新作が次々と登場しています。そんななか、指原莉乃らがMCを務めるAmazonのプライム・ビデオ「ラブ トランジット」は若い男女が主役の王道路線ながら、“考察”が面白さの肝となって評判を呼んでいます。9月5日に全8話が揃ったシーズン2は、どんでん返しのラストも用意されています。まるでドラマのように展開される恋リア番組なのです。

参加するのは5組の元恋人たち。復縁という、割と身近な恋愛模様を扱います。どちらか一方が復縁を100%願って参加する場合もあれば、復縁と新しい恋を求める気持ちが半分半分といった参加者もいます。元恋人たちの思惑はさまざま。探り合いのような状態で、再会時点から少々重たい空気が漂っています。

5組の元恋人たち

参加するのは5組の元恋人たち。年齢は、下は25歳から上は32歳まで。約1カ月間の共同生活を過ごす(画像:©2024 Amazon Content Services LLC or its Affiliates.)

シーズン2に参加したメンバーはエリカ、ミヅキ、もも、ゆきこ、ゆづき、スンギ、セカイ、たかあき、まさと、マサヤの10名。言うなれば、美男美女が揃っています。年齢の幅は、下は25歳から上は32歳まで。ある程度、恋愛を重ねてきたお年頃です。職業はモデルやヨガインストラクター、美容師、会社経営者、サッカーコーチなど幅があります。

そんな男女が約1カ月の共同生活に突入し、元恋人や誰かの元恋人ともデートを重ねながら最終的に復縁を選ぶのか、それとも新しい恋に進むのか、それぞれ決断を下すまでを追うのが大まかな流れです。

ポスト

番組では元恋人を「X」と呼ぶ。Xが誰なのか、視聴者にも明かされないままスタートする(画像:©2024 Amazon Content Services LLC or its Affiliates.)

恋リア好きであれば、この要素だけでも興味は湧きそうですが、この番組はもう一歩攻めてきます。序盤戦は誰が誰の恋人であるのか、意図的に明かしてくれません。同じく知らされていない参加者の言動を観察しながら、どの組み合わせが元恋人同士なのかを思わず考察したくなるように誘導してきます。

さらに参加者の年齢や職業、交際期間や別れた時期、破局理由といった情報の小出し具合が実に巧みです。徐々に材料が集まってくるというわけです。答えを惑わせるような編集は少々癖ありですが、わかった時にはスッキリ感を味わえます。

ドラマのようなどんでん返し

最終段階手前で誰が誰の元恋人なのか、視聴者も参加者も答えを確定した状態にはなります。ただし、それだけで終わりません。最終的に誰を選ぶのか決断の場面においても考察の楽しみを味合わせます。

順当に編集すれば、告白相手をある程度匂わせ、それが成功するか否かを見守るパターンが常ですが、この番組の場合はどんでん返しがまるで起こったかのように告白場面を見せます。つまり、極力ネタバレしないのです。匂わせる場面は告白が終わった後に答え合わせ。焦らしに焦らせます。伏線回収を売りにするドラマの編集のような作りで、ラストの盛り上がらせ方まで絶妙です。

参加者のキャラクター付けもよくできています。「自分の中で一番美しい恋愛」「あなたの彼女でいる時の私が一番自分らしくて好きだった」などと、自分の気持ちを相手に素直にぶつけながらも復縁も新しい恋もうまくいきそうもない姿を見せ、悲恋のヒロイン化した「ゆきこ」に感情移入する視聴者も多かった様子。

ゆきこ

悲恋のヒロインのような「ゆきこ」推しの視聴者は多い。下町居酒屋デートではしご酒を初体験し、喜ぶ姿も愛くるしい(画像:©2024 Amazon Content Services LLC or its Affiliates.)

モテ人生を歩んでいそうなのに謙虚で、性格の良さが表れる言動から「バチェロレッテ」の主役に推す声までありました。このゆきこをはじめ、それぞれ好みに応じて応援したくなる見せ方なのです。

スタジオMCの1人、芸人の川島明(麒麟)が公式コメントで視聴者心理を言い当てています。「家で普通に見ていたら、とりあえずノートとペンを持ってきて、相関図を書き始めるところからやると思います。これは未解決事件?というぐらい考察や推理が面白い」という発言に、番組を見れば納得できるはず。恋リア番組で相関図が欲しくなること自体が珍しく、新しい楽しさを提供しています。

指原莉乃

シーズン2からスタジオMCが一新。恋リア番組コメントに長けている指原莉乃が務める(画像:©2024 Amazon Content Services LLC or its Affiliates.)

なお、スタジオMCはシーズン1のメンバーから一新し、人数も多すぎず、3人に絞られました。先の川島のほか、同じく芸人の長谷川忍(シソンヌ)、そしてタレントの指原莉乃が務めています。指原はプライム・ビデオの看板番組とも言える「バチェラー」のスタジオMCでもあり、そんな指原が「ラブ トランジット」を担当するということはプライム・ビデオの中で重要視されている番組として映ります。

シーズン1は7割が「星5つ」

昨年の夏に配信開始されたシーズン1から確かに評判は上々でした。Amazonのカスタマーレビューでは、評価したユーザーの71%から最高値の「星5つ」を獲得したほど。東京で生きる男女が過去の恋と新たな出会いの間で揺れ動く姿は、よくある恋リア番組のギラギラしたものとは異なり、哀愁さえ漂う味わい深さがありました。なかでも元恋人たちがかつて仲睦まじかった姿を表す写真や動画の記録を振り返る場面はエモさ最高潮。共感を誘う場面でした。

恋リアファンから支持を集めたことで続投されたシーズン2は、基本的な作りは大きく変えていないものの、新たな層を獲得することを狙ってか、“考察”を誘う編集が際立ったように思います。ただし、よりエンタメ化した演出で、より参加者のビジュアルを重視したことが鼻についた人も多かったようで、カスタマーレビューの評価は今のところシーズン1ほど上がっていません。最高値の「星5つ」と最低値の「星1つ」に評価が集まっています。

デートを重ねる参加者たち

デートを重ねる参加者たち。元恋人との思い出の場所に訪れる(画像:©2024 Amazon Content Services LLC or its Affiliates.)

賛否両論を生んでいますが、これも人気番組が通る道。客観的に見れば、考察型という新しいスタイルの恋愛リア番組として評価できるものだと思います。もともとこの番組は、韓国の財閥系最大手企業CJ傘下にあるCJ ENM 系列の韓国コンテンツ配信サービス TVING オリジナルシリーズ「환승연애(乗り換え恋愛)」から生まれたものです。番組フォーマット権をAmazonが購入し、日本で製作されています。

CJグループは「I Can See Your Voice」というバラエティ番組をアメリカ4大ネットワークのFOXでヒットさせた実績もあり、これも推理を働かせるゲーム要素によってウケたものです。謎解き設定の「ラブ トランジット」はこの成功例から生まれたものだと推測できます。

韓国ではシーズン3まで続いています。復縁という複雑な恋愛と謎解きの相性の良さが伝わる日本版も定着化していくのではないでしょうか。恋リアファンでも復縁派でもなくても、引き込ませる力があります。

(長谷川 朋子 : コラムニスト)

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