ホンダ新「フリード」人気の秘訣は日本仕様の追求

2024年6月28日に3代目となる新型が発売となったホンダのコンパクトミニバン「フリード」

2024年6月28日に3代目となる新型が発売となったホンダのコンパクトミニバン「フリード」(筆者撮影)

ここ30年近く、日本の乗用車市場ではコンパクトカー/ミニバン/SUVが人気だ。これに軽自動車を加えると、その年に販売された車両台数の8割ほどが占められる。

1995年あたりは、飛ぶ鳥を落とす勢いで売れていたステーションワゴンだが、2000年代になるとミニバンやSUVにバトンが渡された。多人数乗車が得意で居住スペースに優れるミニバン、悪路での走破性能を高めたクロスカントリー4WDとステーションワゴンの融合体ともいえるSUVは、キャラクターが明確で各社がこぞって新型車を投入したこともあり、現在も堅調に売れ続けている。

コンパクトカーも長らく好調で、たとえばトヨタ「ヤリス」、日産「ノート」は販売台数トップ10の常連だ。加えて5~7人乗りのコンパクトミニバン人気も根強い。字のごとく、コンパクトカーとミニバンのいいとこ取りが受け入れられたわけだ。短いボディに背高ノッポのいわゆる容積型であるため使い勝手に優れ、ファミリー層をターゲットに装備も充実。それでいて200万円から購入できる。こうした高い実用性が多くのユーザーから支持されてきた。

【写真】ホンダの大人気ミニバン、新型「フリード」の内外装を徹底的にチェック(36枚)

ホンダ「フリード」の歴史

ホンダのコンパクトミニバン戦略は21世紀早々に幕を開けた。2001年12月の「モビリオ」、2002年9月の「モビリオ・スパイク」がそれだ。この2台をルーツとする初代フリードは2008年5月に、そしてモビリオ・スパイクの後継的位置付けの「フリード・スパイク」は2010年7月にそれぞれデビューした。

先代モデルとなる2代目フリード

先代モデルとなる2代目フリード(写真:本田技研工業)

2016年9月には2代目フリードに進化する(フリード・スパイクは「フリード+」に改名)。2019年10月にはSUV的に仕上げた派生モデル「フリード・クロスター」を導入した。ホンダが画策した直球戦略は見事にハマり、2代目は堅調に売れ続けた。2023年の販売台数は約7万7562台(日本自動車販売協会連合会調べ)と、モデルライフ後期にもかかわらず年間販売台数ランキング10位に食い込んだ。

2024年デビューの新型フリード

新型フリード e:HEV AIRのスタイリング

新型フリード e:HEV AIRのスタイリング(写真:本田技研工業)

2024年6月、ホンダのコンパクトミニバン「フリード」が3代目に進化した。歴代フリードで支持されてきた短いボディ全長(4310㎜)と優れた小まわり性能(最小回転半径5.2m)を継承。さらに3列目シートを新設計し、シートアレンジを容易にした。加えて先進安全技術群である「Honda SENSING」を充実させ、家族の毎日を支えるコンパクトミニバンとして正常進化させた。

3代目フリードは、シンプルな見た目の「AIR」グレードと、SUV的要素を内外装に採り入れた「クロスター」の2本柱で形成し、高まるユーザーニーズに応えた。AIRは、ホンダのミニバン「ステップワゴン」の全長を10%程度小さくしたかのような相似形で安定のカタチ。対してクロスターは専用デザインの前後バンパーに加え、前後ホイールアーチの樹脂プロテクターと車体下部全周をブラックガーニッシュ(加飾)化でタフさを演出。各部に高輝度シルバー処理を施してコントラストも高めた。

アウトドアテイストな内外装が魅力のフリード e:HEV クロスターのスタイリング

アウトドアテイストな内外装が魅力のフリード e:HEV クロスターのスタイリング(写真:本田技研工業)

3代目の登場を待っていた買い換え組に加え、新規ユーザー層が積極的に関心を示したことで、3代目フリードの累計受注台数は発売から約1カ月後となる7月27日時点で約3万8000台を記録した。これは月間販売計画の約6倍にあたるという。

そんな新型としてデビューしたばかりの3代目フリードに早速試乗した。場所は神奈川県みなとみらい地区を中心とした一般道路と都市高速道路だ。試乗モデルは1.5Lエンジンに2モーターシステムを組み込んだシリーズ式ハイブリッドシステム「e:HEV」で、駆動方式は4WD。グレードはクロスターで2列シートの5人乗り仕様。

今回試乗した新型フリード

今回試乗した新型フリード(筆者撮影)

従来型は7速DCT(デュアルクラッチトランスミッション)に1モーターを内蔵した「i-DCD」。通常走行時はエンジン+電動モーターの力でタイヤを駆動するパラレル式。奇数段側のギアセットに電動モーターを内蔵していることから、発進時など限られたシーンでのみエンジンを停止したEV走行ができた。

対して新型のe:HEVは現ホンダの主力ハイブリッドシステムで、通常走行時はエンジンで発電した電力を使い電動モーターの力でタイヤに駆動するシリーズ式。車載の二次バッテリーを使って短距離であればエンジンをかけずに走行できる「EVモード」(ドライバーが任意選択)のほか、高速走行時などではエンジンの力でタイヤを駆動する「エンジンモード」(システムが自動選択)、加速時などエンジンでの発電に加えて車載の二次バッテリーからも電力を供給する「ハイブリッドモード」(システムが自動選択)が備わる。

大幅に改善されたプラットフォーム

新型フリードのサイドシルエット

新型フリードのサイドシルエット(筆者撮影)

車両の土台であるプラットフォームは、2代目である従来型をベースに大幅に改良した。その従来型は全般的にソフトな乗り味であり、速度域が低い走行状態であれば上質で快適だったが、車速が上がる高速道路や多人数乗車では不安定な姿勢になることもあった。具体的には、カーブでのロール(車体の傾き)量が大きく、ステアリングを丁寧に切り込んでいっても一定の舵角から同乗者の身体が外にもっていかれてしまう、そんな印象を抱くことが多かった。

新型はここが一転。サスペンションのうちバネの形状と配置を変更してタイヤがスムースに動くように設計し直した。それに応じてダンパーの減衰特性を決めるバルブに応答性に優れたブローオフバルブを採用して最適化した。加えて、電動パワーステアリングの操舵角度を認識する分解能を高めて、ドライバーの細やかなステアリング操作をしっかり認識するように改良を加えた。

新型フリードのタイヤ&ホイール

新型フリードのタイヤ&ホイール(筆者撮影)

結果、走行環境を問わず大幅に乗り心地が良くなった。また、ステアリングのフィールが良くなったことで車体の動きがゆったり上質になり、サスペンションでグッと支えるためロール量だけでなく上下動も抑えられた。よってカーブや高速道路でも終始安定。今回は筆者1人乗りの状態に加えて、大人4人での走行テストも行ったが、多人数乗車でも1人乗りと変わらない安定感を保ちつつ上質さを失わなかった。

e:HEVらしい走りだが車重が少し気になるかも!?

新型フリードに搭載されている直列4気筒1.5Lエンジン

新型フリードに搭載されている直列4気筒1.5Lエンジン(筆者撮影)

e:HEVの駆動用電動モーターは、最高出力123PS、最大トルク25.8kgf・mを発揮する。主に発電を受け持つ直列4気筒1.5Lエンジンは106PS/13.0kgf・mだ。対して試乗モデルの車両重量は1560kg。正直なところ、筆者1人乗りの状態であっても絶対的な動力性能として若干の物足りなさを感じた。細かくみていくと、アクセルペダルの踏み方にして最大30%程度の領域ではまったく不足ない走りっぷりが実感でき、電動モーターの強みである淀みないトルクで一体感の高い走りが楽しめた。

ただ、都市高速の本線合流時など、大きくアクセルを開けた場合の加速フィールにはもうひと伸び欲しいと感じた。速度のノリは十分だし、有段ギアのように走行状況に応じてエンジン回転数が上下する「リニアシフトコントロール」が機能するためリズミカルな加速が楽しめる。が、体感的には線の細さを感じた。同じシステム構成の「フィットe:HEV BASIC/4WD」(車両重量1260kg)では終始、力強い走りが体感できたことからも約24%におよぶ車両重量差が利いているのか……。

試乗後、開発者にそのあたりを伺ってみた。「フリードではドライバーの意を汲んだ走行フィールを目指しました。具体的には、アクセルペダルの踏み込み量に対して忠実な加速力を生み出す設定です」という。たしかに時間あたりの加速度を示す曲線で確認するとアクセルをグッと踏み込んだ際、動き出しで上向いた体感加速力が一度落ち着くと、その後はじんわり落ち込んでいく設定なので、実際に速度はグングン伸びていても大人しい走りに感じられたようだ。

圧倒的な視界の広さ

運転席からの前方視界とインパネまわり

運転席からの前方視界とインパネまわり(筆者撮影)

せまい市街地で実感したのは、小まわり性能と視界の広さだ。とくにひらけた視界は、現ホンダのラインナップで1位、2位を争うほどで、とりわけ前方視界は格段に広く、運転がとてもしやすい。さらに運転席から把握できる車体前方と側方の見切りも良好でせまい道でもストレスを感じなかった。ドアミラーとAピラー(フロントウインドを支える柱)との距離もとられているから死角がさらに少ない。これもいい。

少しだけ残念だったのは、インパネ下部の領域。いろんなスイッチが集中して配置されてせわしなく、ブラインド操作には慣れを必要とした点だ。液晶モニターの下にはシフトノブ、電動パーキングブレーキ&ブレーキホールドスイッチ、エアコン操作部、オーディオ操作部が並ぶが、広大な視界を得るためかせまい場所にそれぞれのスイッチがキッチリと収められている。

センターには、シフトノブやエアコン操作、オーディオ操作などが配置される

センターには、シフトノブやエアコン操作、オーディオ操作などが配置される(筆者撮影)

スイッチサイズは大きく単体での操作性も悪くないのだが、筆者はたびたび大きく下に目線を落として操作していた。物理スイッチをちゃんと残してくれたのはホンダの良心ながら、せっかく視界を広げても目線を下げる回数が増えてしまうのであれば、良さも半減。センターの液晶モニターサイズをひとまわり小さくして※3~5cm程度、各種スイッチ類の配置を上方へ移動させるだけでもずいぶんと印象は変わるのではないか。

※現状、地図表示の主画面は、撮影画像のようにモニター表示部の上が情報表示用としてあてがわれている。

ラゲッジルームは広大だ。後輪ホイールハウスやサスペンションの張り出しがとても小さく大きな荷物が積み込みやすい。3列目シートは両側に跳ね上げるタイプだがシート形状を新設計とし全体を薄型化したので、ルームミラー越しの後方視界をほぼ妨げなくなった。

広々としたラゲージスペース。2列シート車は、荷室を上下で分割できる荷室用ユーティリティボートを装備

広々としたラゲージスペース。2列シート車は、荷室を上下で分割できる荷室用ユーティリティボードを装備(筆者撮影)

車いすやアウトドアグッズの収納に便利な「スロープ」グレードには車内引き込み用の電動ウインチが付く。この電動モーターは軽ミニバン「N-BOX」の電動スライドドア用モーターで左右に2つ装備され、たとえば車いすを車内に引き込む際に重宝する。スイッチひとつで左右のモーターが自動的に同期するのでまっすぐに引き込めるなど利便性も高かった。

先進安全装備も充実

ステアリング左側には、Honda SENSINGの操作ボタンが配置される

ステアリング左側には、Honda SENSINGの操作ボタンが配置される(筆者撮影)

先進安全技術群である「Honda SENSING」は多機能なだけでなく、精度も向上。制御のきめ細かさを示す指標であるステアリングの操舵角度では0.5度単位という徹底ぶり。とりわけ車線維持支援システム「LKAS」では、前述した電動パワーステアリングの分解能を高めたこととの相乗効果で人の操作フィールに寄り添う制御内容へと進化した。

たとえばLKAS稼働時、前方のカーブ曲率は車載の光学式カメラで読み取るわけだが、認識したカーブ曲率をトレースする制御が非常に細かい。あたかもベテランドライバーが操舵するように手前からじんわりとステアリング操舵アシストを開始するし、戻す際も遅れがない。だから結果的にいつシステムによる操舵アシストが介入し、そして弱まったのか意識することがないのでドライバーとしてもシステムに対する過信を抱きにくい。

新型フリードの7インチTFT液晶メーター

新型フリードの7インチTFT液晶メーター(筆者撮影)

こうした細やかな制御は自動化レベル3技術を有する「Honda SENSING Elite」(2021年「レジェンド」に世界初搭載)を開発する段階で得られた知見から誕生したというが、フリードをはじめ、この先のホンダ各車にも導入されるという。いずれにしろシステムへの信頼感は大きく向上した。

試乗モデルの燃費数値はカタログ値(WLTC値の総合)で21.3km/L。数値そのものでは競合他車がこれを上まわる部分もあるが、フリードは実用燃費数値が良好だ。筆者のテストでは18~19㎞/L台を記録した。残念ながら試乗はできなかったが、フリードにはガソリンモデルとして直列4気筒1.5L(118PS/14.5kgf・m)がある。トランスミッションはCVTでe:HEV同様にFFと4WDをラインナップする。

日本にベストマッチなサイズ感とラインナップは健在

新型フリードAIRの外観

新型フリードAIRの外観(筆者撮影)

フリードの車両価格は250万8000円~343万7500円。昨今のホンダ車は、どれも競合他車と比べると車両価格が高めだが、じつは装備を合わせて比較してみると横並びであることがわかる。

フリードは5~7人乗りサイズのミニバンで、全長4310㎜、全幅1695~1720㎜、全高1755~1780㎜と短い全長とせまめな全幅で、使い勝手や取りまわしの良さを実現しつつ、全高を高くすることで室内の容積を稼いだ。3列目シートの居住性はボディ全長なりだが、2列シート仕様を含めてシートアレンジが豊富だ。

日本の道路環境にベストなボディサイズであること。ハイブリッド/ガソリンの両方で駆動方式を選べること。福祉車両扱いとなる「スロープ」モデルをラインナップする。3代目も2代目同様にユーザーから長きにわたって支持されるだろう。

(西村 直人 : 交通コメンテーター)

ジャンルで探す