会長が激白「岡山県PTAが解散」全国初事例の真相

都道府県のPTAとして初の解散事例となる岡山県PTA連合会。いったい何が起きているのでしょうか(写真:編集部撮影)

先日来、PTAの業界に動揺が広がっています。2024年度末をもって、岡山県PTA連合会(以下、岡山県P)が解散することを明らかにしたからです。

PTAの連合組織(以下、P連)は、市区町村ごと、都道府県ごとに作られ、その上部組織として全国組織=日本PTA全国協議会(以下、日P)が存在しますが、都道府県という広域のP連の解散は今回が初めてで、全国から注目を集めています。

岡山県Pには、2008年の時点で21の郡・市P(郡や市単位のP連)が加入していましたが、2009年には政令市となった岡山市が脱退し、これに続いて、2012年度末には倉敷市も脱退。県内で最も大きい2団体が抜けていました。

全国的にはまだ100%加入のP連も多いのですが、岡山県Pではその後もパラパラと脱退が続き、2024年度現在は、わずか5つの郡・市Pのみが残っている状態です。

岡山市や倉敷市が入っていた2008年頃と比べると、県Pの会費(郡・市Pが納める分担金)はだいぶ値上がりしています。例年通りの活動を続けるために、残った団体の金銭的・労力的負担は増していたようです。

こうした中でのやむを得ない解散と察せられますが、実際なぜ今、解散を決めたのか? 何が決め手となったのか? 岡山県PTA連合会会長の神田敏和さんに聞きました。

「途中で空中分解すると皆さんに迷惑がかかる」

神田さんが岡山県Pの会長になったのは、2018年。当時、県Pの会員団体は14、5団体にまで減っていたのですが、その後も脱退は続き、2023年度のはじめには約10団体になっていました。さらに、2023年度のわずか1年の間に5つの団体が脱退を表明したため、真剣に解散を検討せざるをえなくなったといいます。

【画像5枚】なぜ都道府県PTAとして全国初の解散を決意?岡山県PTA連合会が発表した説明文に書かれていたこととは…

「県Pは毎年持ち回りで地方ブロックごとの大会を開催しているのですが、2年後の2026年度に私たち岡山県Pは中国ブロック大会を担当する予定になっていました。それを乗り切れないというのが、今回の判断材料のひとつとなりました。

『これから脱退するかもしれない』と言っている郡・市Pもあったので、このままいくと大会の準備中に空中分解してしまうかもしれない。そうなると、中国ブロックの他県の皆さん(県P)にも迷惑がかかってしまうので、どのタイミングでけじめをつけようか、と考えました」(神田さん)

少し補足すると、PTA連合会は毎年、全国大会やブロック大会、県大会などを開催しています。どの大会も、担当するP連は毎年持ち回りで決まっていることが多いのですが、担当に当たったP連はそれなりの資金供出を求められ、メンバーは大会準備に多大な時間と労力を費やすことになります。

今回発表された説明文(画像:岡山県PTA連合会サイトより)

岡山県Pはそもそも県独自の大会も継続できず、2023年度から取りやめていたため、ブロック大会まで担当することは不可能と判断。準備が始まる前に結論を出そうと考えたそうです。

今年の3月にはほぼ解散は決まっていた

解散について本格的に話し合いを始めたのは、今年の3月(2023年度末)。一時は、全国組織である日Pを抜け、県Pのみ存続する案も出たものの、2024年度は参加が5団体のみとなることがわかり、この案はあきらめて解散することにしたといいます。

ただ、県Pが扱う「小・中学生総合保障制度」などの保険は4月からスタートすることもあり、また今年度の中国ブロック大会(山口県Pが担当)に協力することも決まっていたため、年度末までは連合会を残すことになりました。

「約1年後、年度末で解散しようと提案したときは、『集まれる場がなくなってしまうのは残念だ』という声はありました。でも『今の状況を考えるともう仕方がないね』という意見が大勢でした」(神田さん)

そもそもPTAやP連のような団体は何のためにあるかというのは、人によって考えが異なるものですが、筆者としては「保護者と教職員、あるいは保護者同士の交流の場」という側面もあるように感じています。

ですから交流の場がなくなるのを残念がる人がいるのもわかるのですが、県の団体がなくなっても郡・市のP連は存続するので、「そこの活動で足りるよ」という人も多いのではないでしょうか。

PTAの全国組織図(画像:岡山県PTA連合会サイトより)

解散にあたって、上部団体にあたる日Pが難色を示すこともありませんでした。日Pが過去、退会(解散)を表明した団体に対し、考え直すよう働きかけを行っていたたといった話はよく耳にしますが、今回そういうことはなかったといいます。

県の教育委員会も、現在の県Pの状況を伝えたところ、やむを得ない結論だと理解してくれたそう。「郡・市P同士の情報共有や研修は、県教委としてカバーしていきたい」と言ってくれたということです。

岡山県Pの昔の会長などから苦言を呈されることはなかったのか?と尋ねると、「私もそれはあるのかなと思ったんですが、まったくありませんでした」と、神田さん。今月、解散についてテレビや新聞で報じられてからも、苦情などは特に寄せられていないということです。

繰越金も積立金も取り崩しながら…

もう一つ筆者が気になっていたのは、解散時に残るお金のことでした。都道府県や政令市のP連は大体どこも「子ども総合保障制度」などの保険を手掛けています。団体によっては、この保険の「事務手数料」などの収益を何千万(~億)円も貯めているので、岡山県Pにもそういったお金があるのか? もしあるなら解散時にどう処理するのか?という点を確認したかったのです。

しかし、結論から言うと、そのような大きなお金はありませんでした。筆者が知るいくつかの都道府県・政令市Pは、保険を扱う他団体をつくっているか、または一般会計と別に、保険のお金を扱う特別会計を設けているところばかりだったのですが、岡山県Pは保険の収益を一般会計に繰り入れ、運営や事業に使ってきたとのこと。

では、保険の収益金はどんなことに使われてきたかというと、大きかったのは事務局の家賃や人件費です。P連は、教育委員会のなかに事務局があることも多いのですが、岡山県Pは独自に事務所を借りており、また2年前までは正規の職員を雇っていたそう。

「ここ数年は特に、会員団体が減って収入(分担金)が少なくなっていたので、繰越金を食いつぶしながら、という形になっていました。人件費を抑えるため、2年前からはパートの職員さんに半日だけ勤務してもらうようにしましたが、それでもお金がまわらない。最後は、ブロック大会がまわってきたときのための積立金も一般会計に繰り入れて、これでなんとか年度末までもたせる予定です」(神田さん)

解散するかしないかは各P連が判断すること

取材の終わりに、神田さんは「岡山県Pが『解散できる』という前例をつくってしまったことで、全国の協議会(P連)に影響が及んだら申し訳ない……」と、心配そうに話していました。

でも、解散するかしないか、日Pに加入を続けるか続けないかは、それぞれのP連自身が判断することです。県でも市でも学校単位でも、P連やPTAはあたかも「必須」のように思い込まれてきましたが、実はその活動も団体の存在自体にも、法的な縛りはありません。「任意の活動」ですから、解散するのも本来、自由なわけです。多くの団体が慣習にがんじがらめになってきた中での今回の決断は、業界に大きな一石を投じるものです。

岡山県Pの解散の影響はどう広がるだろうか(画像:岡山県PTA連合会サイトより)

今回の岡山県Pの解散に対し、ネット上の反応はおおむね肯定的な印象です。旧来型のPTAやP連のあり方に疑問を感じる人が増えているのに加え、特に都道府県のような広域のP連は、解散しても影響を受ける人、あるいは必要と感じる人がほとんどいないからかもしれません。

今後、ほかにも都道府県レベルで解散するP連が出てくるかはわかりませんが、学校ごとのPTAや市・町Pの解散は徐々に出てきていますから、可能性はあります。

(写真:Graphs / PIXTA)

都道府県レベルのP連の解散が増えるのがいいことなのか悪いことなのか、簡単には言えませんが、長年PTAの取材を続けてきた筆者は、どちらかというと前向きに捉えています。

筆者は長年、PTAの周辺を取材していますが、これまで多くのP連、特に日Pや都道府県Pは、行政または上部団体の求めに応じての活動が多く、現場のPTA、あるいはP(保護者)とT(教職員)に求められる活動は少なかったと考えています。今回の解散が「現場のためのつながり」が生まれるきっかけとなるなら、悪くないと思います。

(大塚 玲子 : ノンフィクションライター)

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