「新築住宅購入」注意したい"ゆでガエルのワナ"

新築分譲地

新築住宅の建設は変わらず続いていますが、これまでの「新築神話」はこれからの社会でも通用するでしょうか?(写真:haku / PIXTA)
私たちは今、既存の体制や価値観が崩壊し、新たな体制へと移行する歴史的な大転換期のまっただ中にいます。いったんリセットされて新しい社会へーー。そのように社会が激変する、いわゆる「グレートリセット」がすぐそこまで迫っているためです。
不動産市場、金融システム、そして社会がどう変化していくのかについて考察した、不動産コンサルタントでさくら事務所会長・長嶋修氏による新著『グレートリセット後の世界をどう生きるか: 激変する金融、不動産市場』より一部を抜粋、再編集し、3回にわたってお届けします。初回の本記事では住宅の「新築神話の終焉」について考えます。

時代遅れの新築優遇策

住宅市場において「日本は新築文化だ」などと言われ続けてきました。

しかしそれは「文化」というようなものではなく「新築をたくさん造り、税制優遇などで買いやすくする国策があったから」そう見えていただけ。昨今の新築マンションのように供給が細ると、おのずと中古市場が活況を呈するわけです。

新築優遇策は、かつて戦後の高度経済成長期の圧倒的に住宅が足りない時代に、庶民の住宅ニーズを満たすためにできた政策の名残です。

当時は田舎に仕事がなく、実家を継がない次男坊以下は東京をはじめとする大都市部に出て仕事を求め、都市近郊に住宅を求めるという行動様式が主流でした。また、そもそも人口増加局面であったため住宅の絶対量が足りなかったという事情があったからです。

この新築優遇策は、本格的な少子化・高齢化・世帯数および人口減少局面に入る現在においても、長らく政治と強く結びついてきた業界団体の強い要望もあり、ある意味既得権益的な形でだらだらと続いてきました。

しかし、さすがにもうそんなに新築が売れる時代ではなくなりつつあります。理由は主に3つあります。

1つ目。ピーク時に160万戸、このところ年間90万戸程度で推移している全国の新築住宅着工戸数はやがて40万〜50万戸へと、ここからさらに半減していくでしょう。

新築住宅着工戸数の推移

(出所:国土交通省 令和5年度 住宅経済関連データを参照し東洋経済作成)

理由は単純で、まず「そもそもそんなにニーズがないから」

戦後の高度経済成長期を、労働と消費という2つの側面で支えてきた、いわゆる団塊の世代(1947〜1949年生まれ)。

これに比して、現在の住宅購入ボリュームゾーン(30代中後半)の世代は、団塊世代の子供たちである団塊ジュニアよりもおよそ一回り下ですが、この世代は団塊世代の人口の半分程度。

絶対的に需要が足りないのです。

新築が買いにくくなる

新築住宅が売れなくなる2つ目の理由は「これまでのような新築優遇策は、日本の財政上いつまでも続けられないから」

補助金や助成金、住宅ローン控除や固定資産税減免などの税制優遇を含めた広義の住宅予算のうち、およそ半分を新築住宅が占め、残りを中古住宅や賃貸住宅、介護系などで分け合う構図はいかにもいびつであり、このようなアンバランスさは早晩解消されるでしょう。

つまり新築が買いにくくなるということです。

3つ目には「建築費はさらに上がる可能性が高い」ことです。

2020年に始まったコロナ禍で、またその後のインフレ傾向で建築費は25〜30パーセント程度上昇し、B to B(Business to Business 事業者間取引)における価格転嫁はおおむね行き渡りましたが、B to C(Business to Consumer 事業者から消費者)への価格転嫁はまだ終わっていません。

さらにはここから人件費の上昇が押し寄せます。長らく3K(きつい・汚い・危険)と言われた建設業界の現場は恒常的な人手不足で、若年層が手薄で高齢化も進む中、現場の大工さんの日当を相当程度上げないと人が集まらなくなりつつあります。

正確には、数のうえでは足りるものの、まともな仕事ができる人を確保しようとすると、コストアップせざるを得ないということです。

新築住宅の「合成の誤謬」

都市郊外の徒歩圏外や地方では、しばしば2000万〜3000万円台の新築住宅が売れたりします。それは超低金利の住宅ローンを利用し、住宅ローン控除を加味すると、近隣で賃貸住宅を借りて賃料を払うより月々の支払いが安く上がるからです。

しかしこうした立地のニーズは昨今、「超」がつくほど限定的です。共働き世帯が圧倒的多数となった現在、求められるのは駅前・駅近など利便性の高い物件で、また若年層であるほど自動車保有比率が低いという現状もあります。

自治体の経営上、そうした徒歩圏外の立地において「上下水道・道路・公園・橋」といったインフラ修繕をはじめ各種の行政サービスをまんべんなく提供するのは極めて非効率であるため、早晩「背に腹は代えられない」として、行政サービスは後回しにされるか、提供されなくなるでしょう。

もっと思い切って「人が居住できる都市計画」の定義から外される可能性も十分にあります。中長期的には、たとえ東京のような大都市であっても、街のコンパクト化を進め、行政効率を上げていかなくては、自治体経営が立ち行かないのです。

現行の金融システムは根本的な欠陥を抱えています。賞味期限切れで、もはや持続不可能でしょう。したがって近い将来に大きな変革が起こることが予想されます。これには、国家財政の破綻や新しい金融システムへの移行が含まれます。

自治体の主要財源は「住民税」と「固定資産税」です。金融リセット(国家財政の破綻や新しい金融システムへの移行といった大きな変革)後の世界では、中央から入ってくる「地方交付税交付金」やらいろんな名目の補助金をあてにした自治体経営はしない・できない前提で世の中が動きそうだと考えておいた方がいいでしょう。

こうした将来は都市計画から外れそうな立地にも、現在では新築住宅が造られ、個人の損得勘定で売れてしまうという、経済用語でいう典型的な「合成の誤謬(ごびゅう)」が起きています。

「合成の誤謬」とはかんたんに言えば「個人やミクロの視点では合理的な行動も、全体やマクロの世界では、必ずしも好ましくない結果が生じてしまうこと」です。

新築住宅の「合成の誤謬」を具体的に言えばこういうことです。

「新築を売りやすい制度設計のもと、事業者が新築を提供」
    ↓
「新築を買いやすい税制や低金利のもと、消費者が新築住宅を購入」
    ↓
「しかしこの時、自治体経営の観点はなく野放図に建設されるため、自治体の経営効率が悪化」

市民も行政も“ゆでガエルのワナ”にはまる

このような構図の中で新築住宅の建設が進めば、次のような取り返しのつかない事態になりかねません。

「自治体の経営を持続するには税金を上げるか行政サービスを減らすしかないが、前者は現実的にはなかなか難しいため、後者を選択するしかない」

「こうした事態はじわじわと進行するため、市民も行政もゆでガエルのワナにはまり、気づいた時には取り返しがつかないくらい自治体が衰退している」

グレートリセット後の世界をどう生きるか: 激変する金融、不動産市場

ゆでガエルのワナとは「カエルは、いきなり熱湯に入れると驚いて逃げ出すが、常温の水に入れて徐々に水温を上げていくと逃げ出すタイミングを失い、最後には死んでしまう」という意味。

つまり「ゆっくりと進む環境変化に慣れてしまい、気づいたころには取り返しのつかないことになっている」といった事態の比喩です。

本来は、個人の合理的な行動がマクロ(全体)にうまく働くよう制度設計するのが政治や行政の仕事なはずです。

しかし、ありとあらゆるできない理由を挙げて、あるいは既得権益にしがみつくことで、「壮大な無駄」を生み出し、全体として歪みが生じているのです。

(長嶋 修 : 不動産コンサルタント(さくら事務所 会長))

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